種苗法改正案、臨時国会にて審議入り | 上下左右

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台湾の早期TPP加入を応援する会の代表。
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今年の通常国会で見送られた種苗法の改正案が臨時国会にて審議入りしました。
報道を見る限り、通常国会で審議した内容から特段の変更は加えられていないようで、取りあえずは安心です。
改正の概要は過去記事[種子法廃止と種苗法改正]にも書いたとおり「輸出国や栽培地域の指定」と「自家採取の制限」であり、目的・背景は下記のとおりです。

◯目的と背景
近年、我が国の優良品種が海外に流出し、他国で増産され第三国に輸出される等、我が国からの輸出をはじめ、我が国の農林水産業の発展に支障が生じる事態が生じています。
記憶に残っている方も多いでしょうが、平昌五輪にて女子カーリングの日本代表選手が「韓国のイチゴが美味しい」と発言したことから日本の種子のロイヤリティーが一躍注目されることになりました。
そこで登録品種の種苗等が譲渡された後でも、当該種苗等を著作権者の意図しない国へ輸出する行為や意図しない地域で栽培する行為について、育成者権を及ぼせるよう特例を設けるよう法改正を予定しているのです。

◯自家採取について
一見自家採取は無関係に見えますが、自家採取を容認すると種苗の管理が非常に困難になります。
自家採取が容認されていると著作権者が100の種苗の販売を許可すると100の種苗から200の種子が採取され、どこでどれだけ流出が起こったのかを把握できなくなるのです。
また、自家採取の制限対象になるのは登録品種=ブランド品種のみであり、日本で栽培される品種の大半を占める一般品種は対象外なのです。

◯種子法との関連
種苗法に反対する人の大半が種子法廃止とセットの外資陰謀論を繰り広げますが、種子法の対象になっていた作物のうち米以外の自給率は10%前後と全く機能しておらず、実質的に種子法は米のみを対象にした法律となっていました。
そんな米の一般品種の割合は84%で、米の種子更新率(≒購入率)は88%(一般品種/登録品種の区別なし:平成28年実績)です。つまり今回の種苗法改正で対応が必要になる登録品種を自家採取している割合は16%×12%≒1.9%でしかないのです。
わずか2%弱をターゲットにしてわざわざ法律を変えさせるなどあるわけがありません。
コシヒカリなどの一般品種ではなく高価なブランド米を食べたい人は、少し上乗せされた金額を支払ってくださいというだけのことです。

◯違反登録
今まで一般品種として栽培されていたものが突然登録品種に登録され、自家採取が禁止されると危惧する人がいますが、すでに認知されている品種を登録するのは詐欺に当たります。『コレは登録品種だ!種子を買わないと法律違反だ!』と言い出す輩がいたら、遠慮なく警察に相談してください。詐欺は刑事事件ですので立証は被害者ではなく検察の仕事です。

◯食料安全保障
日本で登録される品種は年々減少しており、逆に中国でブランド品種として登録される品種は激増しております。

登録される品種が多いとは品種改良が盛んだということなので、日本の品種改良にインセンティブを与えなければ、いつか日本品種よりも中国品種の方が高品質だという事態になりかねません。そうなれば日本の食料自給率も大きく損なわれることになるでしょう。

◯外資の支配
『グローバル企業による支配論者』はグローバル企業は毎年増え続けるであろう登録品種を巨額の資金で片っ端から買収する、と主張していますが、本当にこれが実現するなら日本の種苗開発は単独で一大産業として成立することになります。
しかも韓国に流出してしまったイチゴ『章姫』や『レッドパール』の育成者権者はいずれも個人であり、個人が億単位の資金を得られる大チャンスの到来ということになります。非常に夢のある話だとは思いますが、現実味はありませんね。

今年の通常国会では日英EPAの日程を優先したため見送られました本法案ですが、臨時国会では何とか成立させてほしいものです。