この画像は、所得の再分配を「パイの分け前」ということから、タルトを切っているところです。フランスのタルト・タタンです。
その上で、いきなり結論から言います。
政府の財政政策を規定した法律である財政法の第4条は改正すべきです。
財政法第4条には、こう書かれています。
「第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。」
つまり、国による国債の発行は原則として禁止されており、公共事業や部分的な財源のみ例外的に認めているということです。
具体的には建設国債や復興債は認められていますが、教育予算、文化予算、社会保障財源を国債で賄うことは禁じられているということです。
それどころか、この条文は、本来は公債の発行そのものを否定しています。だが公共事業については、おそらくは戦災で都市やインフラが破壊されて焼け野原になり、戦後復興の必要性から特例として認めたというものでしょう。
つまり政府に対して緊縮財政を規定した条項というべきです。
この問題は、社会保障や教育、文化の「財源」に悪影響をもたらしています。
たとえば安倍政権下ではアベノミクスによって400兆円の国債が日銀によって買い支えられています。そしてアベノミクス第一の矢は金融緩和、第二の矢は財政出動ですが、その財政出動は公共事業であり、それも当初年度に支出された後は緊縮傾向となっています。
そして教育無償化の財源は消費税10%増税による「消費税の使途変更」でした。
アベノミクスで国債を大量に発行したのに、なぜ教育無償化の財源に緩和マネーを利用できないのかというと、この財政法の問題に行き当たります。
ヨーロッパ諸国では、福祉財源は公債の発行で賄って来た歴史があります。
税と社会保障の負担については、日本での負担も厳しいものがありますし、負担率は日本もヨーロッパ諸国とほとんど違いがないとの統計結果もあります。
それにもかかわらず、ヨーロッパ諸国では福祉国家で、日本が低福祉で教育予算も文化予算も先進国で最低レベルにあるのはなぜかといえば、この財政法の問題に行き当たります。
英国労働党のジェレミー・コービン党首は「反緊縮」政策として労働者福祉の拡大、鉄道の再国有化による公共事業の財源として、富裕増税に加えて「人民の量的緩和」を掲げています。
またフランスで新自由主義者マクロン政権に対して果敢にたたかっている急進左派「不服従のフランス(La France insoumise)」の代表で、2017年のフランス大統領選でも注目されたジャン=リュック・メランションさんは、フランスをはじめEU加盟国の公的債務を欧州中央銀行(ECB)が買い取るよう再交渉し、それによってインフレ目標を達成することを主張していました(※1)。
では財政法第4条を改正して、教育、福祉、文化にも公債を財源として使えるようにしたい。
だが、それには以下の問題にぶつかります。
まずは日本共産党の機関紙『しんぶん赤旗』には、次のような記事が掲載されています。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-04-24/ftp20080424faq12_01_0.html
日本共産党は財政法第4条を、戦前の戦時国債の反省にもとづくもので、日本国憲法の平和主義に照応するものとして擁護しています。
「この規定は、戦前、天皇制政府がおこなった無謀な侵略戦争が、膨大な戦時国債の発行があってはじめて可能であったという反省にもとづいて、財政法制定にさいして設けられたもので、憲法の前文および第9条の平和主義に照応するものです」。
そればかりか、赤字国債を「将来世代にツケをまわし大変な危機をまねく」という、財務省やマスコミと同じ見解を披露してもいます。
「赤字国債をふやすことが将来世代にツケをまわし大変な危機をまねくことはわかっていながら財界の要求にこたえて、“あとは野となれ山となれ式”に公共事業費、軍事費をふくれあがらせてきた政権政党の責任が改めて問われます」。
ヨーロッパ諸国の左派とは違い、日本では左派が自民党の公共事業や赤字国債の発行を「国の借金を増やす」と批判してきた経緯、そして社会保障政策を掲げながらも、その財源は国の歳出削減や、法人税の引き上げや富裕税しか言えない。つまり「縮小均衡分配」しか言えない事情はこの歴史性にもとづくもとであることが分かります。
これは共産党だけでなく、社民党、旧民主党系の各党、その他の左派全体に共通する問題だと思います。
『日本経済新聞』も、戦費調達のための国債発行という教訓にもとづいて出来たと、財政法第4条を擁護しています。
風化する財政法4条、戦前の教訓どこへ
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS07H13_Y7A300C1000000/
だが防衛費を公債で賄うことについては、もっと詳細な禁止規定を設ければ良いだけです。
そもそも左派やリベラル派で「赤字国債の発行は将来世代にツケを回して財政均衡が乱れて危機を招く」などと言っている人たちの何人が、財政法と戦時国債について理解しているのか疑問です。知っている人がいたとしても、ごくわずかでしょう。
むしろ、理由も分からずに「タブー」としてひとり歩きしているのが実情でしょう。
それに戦費調達を防止するために財政法第4条が必要だといういうなら、酒税法はどうでしょう?
酒税法は日露戦争の戦費調達を目的に制定されました。しかも個人の酒造も禁止して、農村でのどぶろく醸造などの文化を絶滅に追いやりました。
戦費調達の防止をいうのなら、酒税法を廃止して酒の値段を安くして、誰でも自由に酒を醸造できるようにすべきでしょう(笑)
私は、教育無償化の財源は、将来世代への投資は無形資産とする解釈で建設国債によってまかない、消費税10%増税は中止すべきです。その上で財政法第4条は改正すべきです。
そして繰り返しになりますが、
財政法第4条を擁護する人たちは、なぜ西欧諸国が福祉国家なのに日本が低福祉なのか(税負担率では西欧も日本も大きな違いはありません)、なぜ民主党政権はマニフェストを転換して失敗したのかを考えた方がよいでしょう(※2)。
※1 フランスの日刊紙『ル・フィガロ』(2017年4月10日)に掲載された記事より。
Dette publique: Mélenchon fait le pari de l'inflation
Par Journaliste Figaro Guillaume Poingt
※2 あるいは民主党の小沢マニフェストは、政策実現の財源は行財政改革と特別会計の積立金、「霞ヶ関埋蔵金」でした。そして、いざ政権を取ったら早々に行き詰まり、「事業仕分け」で文教予算や福祉予算まで削られ対立を生み出し、鳩山政権の退陣と菅直人政権によってすぐにマニフェストは撤回され消費税増税が打ち出されました。
そして民主党が人事同意をした日銀の白川総裁は、リーマンショック後の不況を引きずっていたにもかかわらず、金融緩和にはきわめて消極的で小出しの金融緩和しか行わず、デフレと不況が深刻化しました。