「孫閣氏」は自分が人生の楽しみを経験しなかった恨みから、他の年頃の娘が楽しむ様をひどく妬み、取り憑いて悪をほしいままにするという。
そんな「孫閣氏」に取り憑かれて祟りがないように、年頃の娘を持つ母親たちは関心と注意を払っていた。
娘がひとたび病に罹れば、巫女を招いて「孫閣氏」の祟りかどうかを確かめたそうだ。
憑かれていると判断された場合は、ただちに祈祷を依頼する。
もし、そのかいもなく、娘が「孫閣氏」に祟り殺されてしまった場合は、その娘も「孫閣氏」になる恐れがあるので、埋葬する時に、特別な儀式を行う。(参考文献3)
独身のまま死んだ女性が処女鬼神になるのを防ぐ方法には、前記のものの他に通常とは逆さまにして墓穴に葬る、遺体の胸のあたりに石を載せて棺に入れる、顔に「ふるい」など網目のものや油しぼりの袋をかぶせる、頭に鉄製の釜蓋や鏡のガラスを被せる、棺の上下にトゲのある木をたくさん詰め込む、入棺時に男の服を着せる、未婚の男性のすぐ側に埋める、人のよく通る三差路のわきにそっと埋め、大勢の人に踏んでもらう、柩の中に2、3升の胡麻を入れて埋葬するなど地方により色々な方法があるとのことです。
(参考文献3・4・5・6)
胡麻を柩に入れるのは、鬼神が地下世界で胡麻の粒を数えるのに忙しく、地上に現れて人々を害する時間がなくなるようにするためである(参考文献4)というのが面白いです。
顔に「ふるい」など網目のものをかぶせるという方法と似た風習に、「夜光鬼 やこうき」という妖怪に靴を盗まれると、不吉な禍にあうと言われ、それを防ぐために戸外におおきな「ふるい」をかけておき、その目を数えさせるというものがあり、目を数えているうちに、朝になり、太陽を嫌う夜光鬼は逃げ出すという事です。
日本でも一つ目小僧が「篩 ふるい」の目を数えるという言い伝えがあるそうで(参考文献3)、韓国でも日本でも「ふるい」・「箕 み」・「かご」・「ざる」等は魔除けや民俗儀礼等に使われる事の多い道具で興味深いです。
参考文献7によると、網目のものは無数の目、光明をあらわし、魔をはらう力があるとのことです。
全羅南道長城郡のある村で、道路工事中にブルドーザーの運転手がY字型の三叉路を掘り起こしたところ、道の下や付近から若い娘と思われる人骨が何体も出て来て驚いたという話があるそうです。(参考文献1)
参考文献
1竹田旦 1983 『木の雁 韓国の人と家』 サイエンス社
2知切光歳 1978 『鬼の研究』 大陸書房
3水木しげる 『水木しげるの続・世界妖怪事典』東京堂出版
4『韓国文化シンボル事典』2006 株式会社平凡社
5金 渙2000『韓国歳時記』明石書房
6呉善花1997『恋のすれちがい 韓国人―それぞれの愛のかたち』角川文庫
7李杜鉉 張籌根 李光奎 1977『韓国民俗学概説』 学生社