『アラン使道伝』その3~‘処女鬼神 저녀귀신’①~ | ruriのブログ 韓国ドラマ独り言(혼잣말)

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韓国のドラマが好きで、俳優のイ・ジュンギ氏のファンです。韓国ドラマについて感じた事などを中心に独り言を書きます。ネタバレもあります。

処女鬼神(저녀귀신


1話冒頭の山中のシーンでウノがトルセの後ろを指して「処女鬼神(チョニョグウィシン)!」と叫び、トルセが恐れおののいていますが、日本人には何の事か分からないので、「女の幽霊が!」と訳されています。

韓国での『アラン使道伝』に関連したバラエティー番組や記事の中でも時折、処女鬼神という言葉が使われていました。


処女鬼神とは、結婚適齢期を過ぎて未婚のまま亡くなった女性の霊の事で、韓国では、幽霊といえば処女鬼神というほどメジャーで恐れられている存在だそうです。

呉善花さん(1956年に国済州島で生まれ、日本に帰化した。拓殖大学教授)によると저녀귀신보다 무서운게 없다 チョニョグウィシン ポダ ムソウンゲ オプタ  処女鬼神ほど怖いものはない」と言われるそうです。


処女とは韓国では未婚の女性のこと、独身のままで死ぬと、その鬼神、つまり霊の恨みはどこまでも深く、恐ろしい威力を発揮するといわれてきた。

独身男性の死霊も怖いが、女性霊の怖さからすればたいしたことはない。

恨みの理由は、性的な関係ができずに死んだから、子どもを産む力を発揮できずに死んだからということだが、なによりも子孫を残していないことが、深くて強い恨みとなる。

その第一は、自分の子どもがいないと、死後に自分の霊を祭祀してくれる者が存在しないことになってしまうからである。

そうなると、拠り所のない霊は村中をさまよいながら、村人たちや親戚の間を動き回っては苦しめる。

李朝時代には中央から派遣されてきた守令(村長・町長に相当する地方官)には、その村や町に未婚の男女がいればなんとしてでも結婚させることが役割のひとつでもあった。

国家的にも由々しき問題であったのだ。

独身のままで女が死んだ場合、霊の威力を少しでも緩和させるため、墓の中に男の服を着せた藁人形を作って入れたりする。さらには、よそから独身で死んだ男を探してきて「死後結婚」をさせるケースも少なくない。

その場合、その死んだ男の戸籍に死んだ女を入籍させる。そうして死後の夫婦となったところへ親戚から養子をもらい、その養子に祭祀をしてもらうのである。

参考文献1)


未婚のまま死んだ霊魂の呼び方はいろいろあり、地方によっては適齢で結婚していない男性の死んだ鬼神を「モンダル鬼神」といい処女の死んだ鬼神を「邪鬼」と区別するが、一般的には区別しないで適齢で未婚の男女の死亡した鬼神をすべて「モンダル鬼神 몽달귀신という。(参考文献2)

「モンダル」とは「禿(ち)びた」という意味で、庭の竹箒が使い古されて先がちびてしまったような状態、本来あるべき長さのものが短く縮まっているありさまを指すとの事である。(参考文献3)


女性の方を 「孫閣氏 손각씨 ソンカクシ」・「王神 ワンシン」・「孫万明 ソンマンミョル」、「サグイ 邪鬼」、「ヨグイ 女鬼」、男性の方を「総角鬼神 チョンガッグウィシン」と呼ぶ場合もあるそうです。


参考文献4では「孫閣氏 ソンカクシ」の他に「冤鬼 えんき」を挙げ、(朝鮮民俗が最も恐れ忌避するのが、この「冤鬼 えんき」で、無実の罪で死んだ者の恨みが凝ってなった鬼であるが、最も多いのは、処女、人妻、寡婦などの、その貞操を疑われ、あらぬ噂をたてられたりして、怨み死にした女の「冤鬼」である。

この「冤鬼」の特徴は、噂をたてた無責任者に祟るより前に、まず、郡一道の主管である郡司、監司に祟って死に追いやることで、郡司が在任中、三代つづけて死んだら、その理由の如何にかかわらず、「冤鬼」の所業と見て、その郡を潰すか、郡役所を他の町に移すかしたという。

各所に多い烈女廟や碑は、たいていこの「冤鬼」の鎮魂のために建てられたものである。(参考文献4)


中央集権国家である朝鮮王朝では、地方官は中央から期限付きで派遣されており、監察使と都事は在職期間三百六十日、守令は千八百日、堂上官および家族を引率しない守令と訓導は九百日が過ぎれば移動するということです。

1年から5年の任期の地方官が在任中に三代続けて死ぬというのは、確かに異常な事態と思われ、昔の人が恐れたのも無理はないと思われます。

参考文献

1呉善花2003同 『濃縮パック コリアンカルチャー』 三交社 

2崔吉城 1992 『韓国の祖先崇拝』 お茶の水書房

3竹田旦 1983 『木の雁 韓国の人と家』 サイエンス社

4知切光歳 1978 『鬼の研究』 大陸書房