英語の民間試験導入は本当に不公平なのか | MATTのブログ ~ 政治・経済・国際ニュース評論、古代史、言語史など ~

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元新聞記者。 アメリカと日本を中心にニュース分析などを執筆します。

 

 

 

 

英語の民間試験導入に対する反対論に反論します

 

2020年からの大学受験制度の改革に際して、TOEFLやTOEICなどの英語の民間試験を取り入れることが決まった。英語の民間試験導入に関しては、メディアなどから反対論や疑念の声が上がっている。こういった民間試験導入に対する代表的な懐疑論について、一つひとつ考えてみたい。

 

1.    複数の異なる民間試験のスコアを用いて選抜するのは公平性を欠く

それでは聞きたい。一般受験とAO受験という複数の制度を併用している大学は、もともと公平性を欠いているのではないか?一般受験と帰国生受験の併用は公平と言えるのか?数学と社会をいずれか選択できるシステムにしている大学は公平と言えるのか?また、民間試験と大学独自の試験のいずれかを選択できるとした場合、それも公平性を欠くのではないか。それを言い出したら、完全に公平な大学受験など、実際には無理ではないのか?

 

2.    問題作成と採点にかかわる民間団体と受験者の間で、民間団体に利益をもたらす接触が規制されていない状況では、試験の公正な実施を損なう恐れがある

これは可能性がゼロではないが、それなら、大学が独自に実施する試験は、保護者からの依頼や金銭の授受により不正な点数操作や試験問題の漏洩が起こらないと言い切れるのか?民間試験だって、不正操作が行われているという風評が立てば、それこそ飯の食い上げだ。むしろ民間試験のほうが、安全・公正を重んじているということだって言えるのではないか。

 

3.    試験の公正・公平な実施環境が確保されない危険性がある

これも、大学の教室で行われる入試であれば、公正・公平な実施環境と言い切れるのか?受験地を2か所つくった場合、あるいは異なるキャンパスで実施する場合、必ず公平となるように実施できると言えるのか?民間試験の実施企業だって公正・公平な実施環境をつくるべく努力している。また、現場で実際に試験が公正・公平に行われているかどうかは、文科省の役人が行って監査することもできる。

 

4.    採点が適正に行われない危険がある

これも同じだ。大学が独自に実施する試験なら、必ず採点が適正に行われると言い切れるのか?大学教員が全員、それほどまでに倫理性が高いのか?私は決してそうとは思わない。大学教員にもいろいろな人がいる。また、民間だから倫理がないと考えるのは偏見ではないのか?

 

5.    地域的・経済的格差を助長する危険性や障碍を持つ学生への配慮が十分でない可能性がある

そもそも東京の大学の場合、地方の受験生には不利であり、宿泊も移動時間もお金も必要になる。これも地方格差を助長する差別にあたるのではないのか。それに比べて民間試験は大抵、全国各地の主要都市で受験できるので、普通の大学入試より地方格差は助長しなくて済むだろう。もしも大学が民間試験の成績証明書とスコアだけで選抜すれば、受験生が東京まで来る必要もなくなり、経済的にずっと楽になる。

経済的な問題は、たとえばTOEFLは1回受けるのに22,000円程度かかり決して安い金額ではないが、2回受けても44,000円だ。だが、私大の受験料は1校あたり30,000~35,000円で、もし4校受けたら12万円~14万円かかる。しかも移動交通費と宿泊費がかかる人はさらに上乗せだ。それと比べれば、受験生が住む地域で受けられる民間試験の受験料は、決してばか高いとは言えない。また、民間試験をつくり実施する負担が減るのだから、大学側がその分、受験料を安くすればよい。各大学が似たような英語の試験をそれぞれつくり、実施するのは、経済的な無駄であるともいえる。

障害を持つ受験生への配慮という意味でも、どうして民間試験のほうが大学の独自試験やセンター試験より劣っていると言えるのか?これこそ、文科省の職員がよく監査して、どういう配慮がなされているのか調べればいい。

 

6.    受験生の英語力を十分に識別できない危険がある

これもおかしな議論だ。それでは、大学が独自に実施する英語の試験なら、英語力を十分に識別できるのか。センター入試の英語試験なら可能なのか。そこに問題があるから、スピーキングも含めた4技能を識別できる民間試験を導入しようという話になっているのではないのか?

 

7.    学力評価に適さない問題や選抜試験として適切でない出題がある

なんのことを言っているのか、さっぱり分からない。たとえば、TOEICはビジネスに使う英語力を測定するのが目的だから、たしかに大学で使う英語とは異なるかもしれない。しかし、それなら完全に大学入試用につくられているTOEFLにすればよい。あるいは、スピーキングで「趣味について語れ」という問題が出たら、それが学力評価に適さないとか言いたいのか。そんなことはまったくないだろう。

 

8.    解答例の公表や採点ミス、機材故障に対する対応が万全でない

そんなことを言ったら、大学が独自に実施するテストは、採点ミスや機材故障に万全に対応しているのか?民間試験とどちらが万全なのか、よく研究してから言ってほしい。また、解答例を公表しなければならないと言っているのか?これもなんのためか、よく分からない議論である。

 

9.    受験生に対して過重な負担がかかることへの懸念

過重な負担がかからないテストが良いシステムなのか?それって、いったいどんなテストのことを言っているのか?寝る間も惜しんで毎日18時間勉強しなければ受からないテストとか、そういうことか。これもよく分からない議論だ。勉強を多くすれば(あるいは才能があれば)点数は上がり、少なく勉強すれば(あるいは才能がなければ)上がらない。それだけのことだ。受験生が楽ができる出題が本当に良いのであれば、最近流行りのバンド名やアニメの登場人物の名前でも出題していればいい。

 

10. 高校生の「英語力向上」に資する方策として適切ではないのではないのか

これもよく分からない議論だ。ではいったい、どんな方策が高校生の英語力向上に適切なのか?英文学から抜粋した英語教科書を毎日和訳させることか?

 

11. センター試験を運営するノウハウが喪失する

アメリカのTOEFLを運営する機関は全世界の受験生から受験料を取り、かなり稼いでいるのは事実だ。日本も本当にやりたいのであれば、予算も人も使って、TOEFLなどに匹敵する、スピーキングもライティングも含む日本発の英語テストを開発すればよい。だが、英語圏ではない日本がそれをするのは、相当に難関であることを承知してかからなくてはならない。それが嫌なら、既存の民間試験を使うしかない。