楳図かずおのマンガ『漂流教室』の連載が週刊少年サンデーで開始されたのが1972年。中学生の時だった。
今でも大好きな作品だが、連載当時は何といっても主人公の名前が印象的だった。その名は高松翔。普通の小学生なのに名前が「翔」である。それまで見たこともない名で、マンガにはカッコいいネーミングが多い中でも、特にカッコいいと思っていた。
ちなみに「翔」という文字そのものは知っていた。だって小学時代に読んでいた『巨人の星』の単行本第5巻の副題が「飛翔編」だったんだもん。これもカッコよかった。
「翔」という名前を見たことがなかったのは当然で、当時の人名用漢字表に入っていなかったからである。だから、現実には学校にも親戚にも「翔」なんて少年がいるはずがなかったのだ。
終戦後、子供の名前に使える漢字が戸籍法によって定められた。当初は当用漢字だけだったために、名前によく使われる漢字がない場合が多かった。それ以来、国民の要望等によって人名用漢字が数回に亘って追加されてきている。
さて「翔」だが、『漂流教室』当時にはまだ使える漢字ではなかった。しかし現在、「翔」「翔太」などの名前はたくさんいる。多すぎるくらいだ。
『漂流教室』から5年後の1977年、「翔んでる女」という言葉が流行った(ちなみにマンガ『翔んだカップル』の連載が始まったのが翌年の1978年)。
そんな影響もあって、多分「翔」の字を名前に使いたいという要望が高まったのではないだろうか。人名用漢字として追加されたのは1981年10月1日である。
このように、とある名前がとある日を境にしてあったりなかったりするという現象が、この国にはたくさんあるという結論である。現在、人名用漢字(常用漢字以外で名付けに使える漢字)は861字にもなっているそうだ。
〈追記〉
中学生時代のおれは、作家の柴田翔はまだ知らなかった。この人は戦前生まれなので、本名だとしても有り得るわけである。
画像はグァムの観光名所、恋人岬。高校生の頃に『愛と誠』で見たあの場所をついに訪れたのであった。