名勝負選 三沢光晴VS川田利明【緑の虎は死して神話を遺す・三沢光晴物語】 | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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緑の虎は死して神話を遺す
平成のプロレス王・俺達の三沢光晴物語
名勝負選
1993.7.29 日本武道館/三冠ヘビー級選手権試合(全日本プロレス)
(王者)三沢光晴 VS 川田利明(挑戦者)





やりすぎだよな… でもやらなければ…
~先輩・三沢と後輩・川田 分かり過ぎるが故に生じた異常事態~



それはあまりにも壮絶な光景だった…

三沢が放った受け身が取れない投げっぱなしジャーマン3連発によって川田は失神状態。

それでも三沢は川田を強引に起き上がらせてとどめを刺そうとしていた。

川田の目は閉じたままだった。

何故数か月前までタッグパートナーだった相手にそこまで非情に攻めるのか?

その答えは三沢と川田の複雑すぎる人間関係にあった。


三沢と川田は足利工大付属高校レスリング部の先輩後輩である。先輩の三沢が先に全日本に入り、後輩の川田は後を追うように全日本に入団した。

三沢がいたから、川田がいた。

そして三沢を常に追いかける川田がいた。


三沢が二代目タイガーマスクの覆面を脱ぐ時に、後ろで覆面のひもをほどいたのがパートナーの川田だった。打倒・ジャンボ鶴田、新時代を築くために超世代軍を結成し、タッグパートナーとして共に支え合った三沢と川田。

しかし、二人にすきま風が吹く。性格の違い、互いを知り尽くしているが故の心のすれ違い。すきま風はやがて、冷戦状態となり、川田は超世代軍を離脱した。


超世代軍を離脱した川田は田上明と聖鬼軍を結成し、三沢の対角線に立った。

二人がリングでぶつかると、意地のぶつかり合いとなる。

川田のステップキックに三沢は仁王立ちで立ちはだかり、三沢のエルボーには、川田は感情がこもったキックで対抗する。二人の緊張感のある攻防は新しい時代、すなわち四天王プロレスの夜明けだった。


1993年7月の三冠戦は、命と肉体を極限まで削り合う四天王プロレスが誕生する分岐点となった試合である。

二人はどこまでも感情を打撃に絞め技に込めた魂の張り合いを続けた。

エルボーにはエルボー、キックにはキックで、フェースロックにはストレッチプラム、仁王立ちには仁王立ちで…


あまりにも高ぶりすぎたのだろう。川田は顔面へのハイキックや反則のナックルパンチまで出した。 

三沢はここら辺から鬼になることを心の中で決断したのだろう。


何故三沢は鬼になる決断をしたのか?三沢は語る。

「川田は中途半端にやると、中途半端なことを言い出すやつだから。だからやらにゃいかん」




鬼になることを決断した三沢は川田に敢行した急角度の投げっ放しジャーマン。

川田は受け身が取れず後頭部からマットに落下していく。

当時の全日本でこの技の使い手は皆無で、またこの技の元祖のスタイナー兄弟とは違い、三沢はブリッジと背筋力を生かして投げたためものすごく危険な落下技に進化させてしまった…

川田を仕留めるのには十分な新兵器だった。

しかし、三沢はこの新兵器を3度も放つ。


三沢は語る。

「自分の発想としてはこの技はないね。だから、ぶっちゃけ勝ちにこだわった試合である。投げっ放しジャーマンって誰でもできるでしょう。ブリッジができないレスラーでもできるわけだから。そこらへんはある意味、非情さと勝ちにこだわらなければできない技ではあるよね」


一線を越えた攻撃に川田は失神。

その姿に川田のセコンドの渕正信が自らのTシャツを脱いで、試合をストップしてくれという意思表示で投げる異常事態が発生。

それでも試合は終わらない。


その時、三沢はこんなことを考えていた。


「やり過ぎだよな… でもやらなければあいつは言い訳をして負けを認めない… だからやらにゃいかん!」


三沢は川田を強引に抱えながら立たせてから、タイガースープレックスホールドで完璧な3カウント!

三沢が三冠王座を防衛した。

この試合はプロレスという一線を越えた二人だけにしか分からない非情なる私闘だった。




テレビ解説の全日本プロレス社長(当時)・ジャイアント馬場はこうコメントしている。


「三沢と川田の勝因なんて、テレビ解説者として恥ずかしいが、高度な展開すぎて俺には分からない…」


あの馬場をも絶句させ、理解の範疇を越えた二人の私闘。

勝ちにこだわり、非情に徹する三沢光晴の凄味が最も証明された試合こそ、この川田戦だった。


三沢はこの川田戦を最後にこう振り返る。


「最後は本当にいやだったよ。そしてなんだか悲しくなったよ…」


三沢に完膚なきまでに潰された川田はセコンドの渕に担がれて退場。

試合後のコメントはなかった。

ぐうの音も出ないとはまさしくこのことである…


(番外編4 追憶 宿敵編 完)


1993.7.29 日本武道館/三冠ヘビー級選手権試合(全日本プロレス)
(王者)○三沢光晴 (25分53秒 タイガー・スープレックス・ホールド) ●川田利明(挑戦者)
※第10代王者が4度目の防衛に成功。