名勝負選 三沢光晴VSスタン・ハンセン【緑の虎は死して神話を遺す・三沢光晴物語】 | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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緑の虎は死して神話を遺す
平成のプロレス王・俺達の三沢光晴物語
名勝負選
1992.8.22 日本武道館/三冠ヘビー級選手権試合(全日本プロレス)
(挑戦者)三沢光晴 VS スタン・ハンセン(王者)




みんなの夢が叶った万感の3カウント!
~俺達の王者・三沢光晴 最強の不沈艦を破った比類なき人間力~


三沢光晴にとって、ジャンボ鶴田とともに高い壁として立ちはだかったのは不沈艦スタン・ハンセンだった。この試合は、最強王者ハンセンを破り、悲願の三冠王座奪取を果たした歴史的一戦。そういえば三沢の初の三冠戦の相手も、初のチャンピオンカーニバルの決勝戦の相手もハンセンだった。何度も何度も最強の必殺技ウエスタン・ラリアットの前に撃沈してきた三沢。


「この試合に負けることがあれば、二度と三冠王座に挑戦しない」


退路を断って、この一戦に挑む三沢だったが、試合1か月前に左肩を脱臼し、満身創痍の状態。過去に三沢VSハンセンでは、三沢がハンセンの腕を殺していく試合展開だったが、今回は違った。王者ハンセンは、三沢の左肩を徹底的に痛めつけた。打撃も左肩に集中させ、ワキ固めや腕十字といった普段あまり見せない関節技、挙句の果てには、ショルダーバスターや鉄柵を使っての左肩攻めまで披露した。悶絶する三沢だったが、必死に耐え忍んだ。

そんな三沢に武道館の大観衆は、何度も何度目も悲鳴と絶叫が混じったこのコールが巻き起こる。


「三沢!三沢!三沢!三沢!」


この三沢コールをエネルギーにして立ち上がる三沢は、過去のハンセン戦では取らなかった戦術に出る。敢えて、正面からぶち当たっていったのだ。ハンセンの打撃にも怯まないで打撃でやり返し、エルボーやキックをハンセンの左腕ではなく、顎やテンプルを狙っていく。正面から戦う三沢に恐らくハンセンは面を食らったかもしれない。





左肩が痛む三沢は、得意のフェースロックで絞め上げる時も力が入らない。左腕からグリップして相手の顔面を決めるからだ。そこで閃きの天才は、右腕から相手の顔面を絞め上げたのだ。これこそ三沢の真骨頂。追い込まれたとき、苦しい時に火事場の底力を発揮するのが三沢光晴の人間力なのだ。





激闘の中で遂にハンセンに決めた三沢光晴、渾身のエルボー。

三沢のエルボーを放った瞬間、ハンセンは前のめりに倒れた。そして、三沢も倒れた。

ファンは心から祈る。立ち上がってくれ、三沢!早くカバーに入ってくれ!

その思いはセコンドも同じだった。特に小橋健太はまるで自分が戦ったいるかのように、顔をクシャクシャにさせながら、三沢に声援を送っていた。

やっとの思いでハンセンを反転させて、覆いかぶさった三沢は片エビ固め。

ジョー樋口レフェリーがマットをゆっくり叩く。

武道館のファンは一緒になってカウントを大合唱。


「ワン!」


大丈夫かな…やっぱりハンセンは強いから返すよな…


「ツー!」


ここで返して、逆転のラリアットで勝つんだよな…


「スリー!」


入ったよ!今、3カウント入ったよな!本当に入ったよな!三沢が勝ったよな!ハンセンに勝ったよな!


やった!!!






武道館は総立ちとなる。涙を流すファンや拳を突きあがて勝利を喜ぶファンがどれだけいたか…

ファンみんなが三沢とともに万感の思いで、聞いた3カウントだった。


全日本プロレスのファンは、いつからかこのような夢を抱くようになる。


「俺達の三沢光晴が三冠王者になってほしい!」


その夢が、みんなの夢が今、叶った瞬間だった。

どこまでも鳴り止まない三沢コール。その雨の中で、深々と頭を下げる三沢。

三沢光晴、悲願の三冠奪取ほど我々の心を揺さぶり、一緒になって喜んだ王座交代劇はない。

比類なき人間力でハンセンを破り、三冠王座を奪取した三沢は、1990年の三冠王座の象徴となるのである。

(番外編4 追憶 歓喜編 完)


1992.8.22 日本武道館/三冠ヘビー級選手権試合(全日本プロレス)
(挑戦者)○三沢光晴 (24分4秒 体固め) ●スタン・ハンセン(王者)
※エルボーバット。ハンセンが4度目の防衛に失敗、三沢が第10代王者となる。