ふだん何かと理屈でものごとを整理しがちなので、
時々カチカチになった頭をほぐすために脳をシャッフルします。
シャッフルする方法のひとつが、理解しがたい人物が登場する小説を読むこと。
今回の主人公は、私にはまったく理解できない、どうしようもない女性でした。
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I'm sorry, mama / 桐野夏生(集英社文庫)
2004年刊、2007年文庫化
お気にいりレベル★★★☆☆
文庫本250ページほどが12章から成ります。
はじめから7章までは、被害者側からの視点から主人公が犯す事件が描かれます。
被害者はなぜ自分がこんな目に遭うのかわからないまま、犯行の標的にされます。
主人公の生い立ちや人生がおぼろげに伝えられながら、おぞましい殺人がいとも簡単に続きます。
8章以降は主人公のルーツを巡る物語です。
主人公が生まれ育った場所に出入りしていた人々の経歴洗浄の物語と重なりあいます。
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読み進むにつれ、
主人公の生い立ちに同情すべき点があることから、
主人公の少女時代の奇行にも、その背景を慮る余地はあります。
それでも、彼女の犯行動機はわからず、理解するきっかけを探しつづけました。
怒り、憎悪、嫌悪、憧れ、孤独、安堵、危機感、虚無感、諦め etc.といった感情が
どのように化学反応を起こして犯行におよんだのか、
結局、私にはわからずじまいでした。
かといって同情や憐憫の気持ちが湧いてはきません。
そういう意味では、
理解不能なものに接して私自身の脳内をシャッフルする目的には適った小説でした。
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主人公以外の登場人物もこんなひとクセある人たちで、読んでいて心の底から心を寄せきることはできず、自分の感情の置きどころに苦慮しました。
母子を装う歳の離れた夫婦
寝たきりの妻の服を着てでかける夫
華やかな経歴をメイドに聴かせる、長年ホテル暮らしの老女
横須賀のドブ板通り裏に住む、新興宗教に入信したアル中の老女
ギャンブラーの夫に女帝に仕立てあげられてホテルチェーンを築いた女性社長
妻から見ても見分けがつかないように装う双子兄弟 etc.
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ただ、読み終えてこの小説をふりかえると、
もし守るべきものが自分だけだったとして、
自分の責任ではないのに不遇で周りから悪意の矛先にされたら、
いつでも、どこでも、こんなことをしでかす人物が表れても不思議ではありません。
縁などなくても、街のどこかでちょっとしたきっかけで、
こんな感覚をもつ人物に遭遇するかもしれないし、
親しくなってもそんな人物とは気づく自信はありません。
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