(昨日北朝鮮が実施した北極星2号の発射の瞬間。画像は朝鮮労働新聞 http://www.rodong.rep.kp/ko/ より 2017年5月22日14時52分最終閲覧)
固体燃料による即応性
北極星2号の最も大きな特徴は、このミサイルが従来のスカッドやノドンのような液体燃料ではなく、固体燃料を用いている点です。
液体燃料というのは、ミサイルを飛ばすのに必要な燃料と酸化剤(弾道ミサイルは外から空気を取り入れることが出来ないため、酸化剤により内部で酸素を供給して燃料の燃焼を起こす)を液体の状態でミサイル内の別々のタンクに入れて発射する方式です。しかしこの液体燃料方式の問題点として、燃料と酸化剤の安定した保管が非常に難しく、ミサイルにこれらを長期間装填したまま放置することが難しいことが挙げられます。そのため液体燃料方式の弾道ミサイルは、発射直前に燃料と酸化剤を入れる必要があり、その作業に時間を割かれてしまい即応性が下がってしまうのです。
(液体燃料方式のミサイル内部。画像はwikipedia https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E6%B6%B2%E4%BD%93%E7%87%83%E6%96%99%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88 より)
対して固体燃料は、燃料と酸化剤を混ぜ合わせて固体状にしたもので、先述した液体燃料とは違って燃料と酸化剤を混ぜ合わせて固体状にすると、安定した保管が可能になるという特徴があります。つまりミサイルに装填したまま長期間放置できるため、発射直前に燃料と酸化剤の注入が必要な液体燃料方式の弾道ミサイルに比して、発射までに必要な時間がぐっと短縮されるのです。
(固体燃料方式の弾道ミサイル内部。画像はwikipedia https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BA%E4%BD%93%E7%87%83%E6%96%99%E3%83%AD%E3%82%B1%E3%83%83%E3%83%88 より)
つまり固体燃料を用いる北極星2号は、従来のスカッドやノドンのような液体燃料を用いる弾道ミサイルと比べて、発射場所への展開〜発射に至る時間が大きく短縮されるため、即応性が向上したと言えるのです。
装軌式のTELによる不整地走破能力
北極星2号のもう1つの特徴が、ミサイルを載せる移動式起立発射器(TEL)の足回りが、従来のタイヤ式ではなく装軌式(いわゆるキャタピラ式)になっていることにより得られる不整地走破能力です。
(北極星2号のTEL。足回りが装軌式であることがよくわかる。画像は朝鮮労働新聞 http://www.rodong.rep.kp/ko/ より 平成29年5月22日15時31分最終閲覧)
普通キャタピラを履いた車両がどんな道を進むかを想像してみてください。工事現場のシャベルカーやドーザー、さらに戦車などどれも不整地を走っていますよね。つまり北極星2号もこうした不整地を走破する能力があると考えられます。
従来のタイヤ式のTELではぬかるんだ道などの不整地を走ることが難しく、なるべく舗装道路を走ってミサイルを発射する場所に向かっていました。しかし北朝鮮で舗装道路がある場所は実はあまり多くはありません。そのためTELの移動ルート等はそれなりに限定されてしまい、柔軟な運用が難しかったと考えられます。また、米軍等がTELの移動を予測する手段として、この舗装道路が少ないという特徴を用いていた可能性もあります。しかし今回北極星2号は、今までの舗装道路主体という概念を覆し、道路が整備されていない地域にも展開できるようになりました。これは北朝鮮の弾道ミサイル運用能力をさらに柔軟にさせると共に、米軍等がTELの動きを予測しづらくなる可能性もあります。
北極星2号は日本を狙っている
ここまで北極星2号の特徴についてまとめてきましたが、我々が最も注目しなければならないのは、この弾道ミサイルが日本を射程に入れている準中距離弾道ミサイル(射程1000〜3000kmの弾道ミサイル)であるということです。つまり北極星2号は、先日発射された火星12のようにグアムを狙ったり、あるいはスカッドのように韓国を狙ったりしているわけではありません。その間にある日本を狙っているミサイルだということです。北朝鮮はこれまで日本を狙ったミサイルとしてスカッドERやノドンを配備してきました。しかしこれらはいずれも液体燃料方式の弾道ミサイルで、TELはタイヤ式でした。北極星2号は違うのです。我々はこの北極星2号について、真剣に考える時期に来ているのかもしれません。