もはやSFではない 米陸軍のレーザー兵器 | 因幡のブログ

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 多くの方はレーザー兵器というと「スターウォーズ」などのSF(サイエンスフィクション)作品を連想されるかと思いますが、実は現在レーザー兵器は既に米軍において実用段階に入っているのです。そこで今回は、米軍の中でも米陸軍のレーザー兵器に注目していきたいと思います。

トラック搭載型レーザー

 米陸軍が本格的に可搬式レーザー兵器の実用化を目指した研究を開始したのは2006年頃からで、当時は100kwクラスのレーザーを作ってそれを米陸軍の中で最大のトラックである「HEMTT(重高機動戦術トラック)」に搭載する計画でした。しかし当時の技術で100kwクラスのレーザーを作ると、サイズがあまりにも大きくなって実際の運用が難しいことが分かりました。そこで米陸軍は方針を変更し、技術的な成熟を目指して段階的に100kwクラスのレーザーを開発することにしました。

 その第一段階として2010年から2014年にかけて試験が行われたのが、先述したHEMTTに10kwレーザーを搭載した「HEL-MD(高出力レーザー 機動デモンストレーター)」です。

{C347D661-04A9-4E22-AD91-C8C8313721A3}(ボーイング社が開発したHEL-MD。米陸軍が使用するHEMTTに10kwレーザーを搭載している。画像はhttp://www.boeing.com/features/2014/10/bds-helmd-10-13-14.page より)

 HEL-MDは最低1両で運用可能で、必要な人員も運転手とレーザーオペレーターの2名、レーザーの操作はラックトップ一台というコンパクトさです。にも関わらず搭載するレーザーは迫撃砲弾や無人機(UAV)を撃ち落とすことができます。実際に米陸軍が2016年にオクラホマ州のフォートシルで実施したMFIX(機動射撃統合実験)では、日本ではドローンとして広く知られている小型無人機や、固定された迫撃砲弾を破壊しています。またボーイングや米陸軍が実施した他の試験では、飛翔中の60ミリ迫撃砲弾を探知・追尾・破壊することに成功しています。また実際の運用を想定して、先述したMFIXではHEL-MDを米陸軍の指揮統制ネットワークに初めて組み込み、防空システムの一環としてHEL-MDが試験されました。

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(飛翔中の60ミリ迫撃砲弾にHEL-MDがレーザーを照射する様子。画像は http://www.boeing.com/features/2014/10/bds-helmd-10-13-14.page より)
 そして今年、米陸軍はロッキードマーチンから60kwレーザーを受け取り、これをHEL-MDに搭載することになります。これによりさらに強力な攻撃力を手に入れることになります。

 また、米陸軍はより実戦における運用を意識したトラック搭載型レーザーを模索しています。それがHEMTTより小型のトラックである「FMTV(中型戦術車両ファミリー)」に100kwレーザーを搭載するというものです。HEMTTは大型であるため、不整地での運用や展開に難がある可能性があります。そのためより小型で、部隊に随伴できる車両にレーザーを搭載することによる柔軟な運用を目指しているのです。これは「HEL-TVD(高出力レーザー 戦術車両デモンストレーター)」と呼ばれ、2022年頃の試験を予定しています。

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(米陸軍が使用するFMTV。実はこのFMTVもHEMTTも同じオシュコシュ社製の車両だ。画像はhttps://en.m.wikipedia.org/wiki/Family_of_Medium_Tactical_Vehicles# より

ストライカー装甲車搭載型レーザー


 現在米陸軍はストライカー装甲車にもレーザーを搭載しています。それが対UAV用ストライカー搭載システム「MEHEL(機動高出力レーザー)」です。MEHELは去年2kwレーザーを搭載してデビューしましたが、現在はMEHEL2.0というシステムになり、レーザーは2kwから5kwへと出力が向上し、またUAVの通信を妨害する電子戦装置を搭載しています。MEHELを搭載したストライカーは先述したMFIX(機動射撃統合実験)にも既に参加しており、多くの無人機を撃墜しています。また同ストライカーは、来年4〜5月にドイツで実施される「AJWA(陸軍統合戦闘評価)」演習に参加するのではないかとも見られています。

 MEHELの利点として、システムの取り扱いが容易という点が挙げられます。実際に兵士がMEHELの取り扱いを習得するまで30分程度しかかからないという話もあります。またMEHELは電子戦装置を使用することにより、敵のUAVをほぼ無傷で手に入れることも可能です。これはUAVから敵の情報を入手出来る可能性を従来より格段に向上させます。

 また将来的な構想として、ストライカー装甲車に50〜60kwのレーザーを搭載し、より大型の無人機や砲弾などを迎撃する能力を与える計画もあるようです。

AH-64搭載型レーザー

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(AH-64に搭載されている白いポッドがレイセオン製のレーザー。画像は https://youtu.be/qW757uG8Op0 より)

 現在米陸軍がレイセオン社と協力して開発しているのが、レーザー搭載型のAH-64戦闘ヘリコプターです。レイセオンによると、今月にレーザー搭載型AH-64の試験を実施し、飛行中における複数目標へのレーザー照射を行なったようです。興味深いことに、今回の試験ではAH-64が機首部に装備する目標捕捉・照準システム(TADS)を使用して目標を捜索したのではなく、先進的な電子光学・赤外線センサーであるマルチスペクトラル照準システム(MSTS)を使用して目標を捜索・レーザーのビームコントロールを行なったようです。おそらくこのMSTSはAH-64に直接装備されているのではなく、レーザーポッドに統合されていると思われます。

 今回試験されたこのレーザーに関する詳細は未だ不明で、出力も何kwなのか判然としません。しかし今回リリースされた試験映像を見る限り、このレーザーの標的はコンテナ状の物体であることが分かります。つまり敵のセンサーに対する目潰しなどを目的としたソフトキル(目標を直接破壊しないで、センサーなどを無力化することにより戦闘能力を喪失させること)だけではなく、目標を直接攻撃するレベルのレーザーでもあると思われます。
  
 実は米軍は対テロ戦争における経験として、敵が使用する民間車両を改造した武装車両(テクニカル)に対して高価なミサイルを使用することは費用対効果の観点からあまり好ましくないとの考えを抱くようになりました。そこで、こうしたレーザーにより武装車両のエンジンを破壊することで、ミサイルに比して安価でしかも簡単に車両を無力化することを考えています。おそらく今回試験されたレーザー搭載型AH-64も、こうした考えに基づくものなのではないかと筆者は考えています。また車両に限らず、敵の物資集積所等にある弾薬類をレーザーで破壊するということも考えられるでしょう。

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(試験において目標にレーザーを照射する様子。コンテナ状の物体であることが分かる。画像は https://m.youtube.com/watch?v=qW757uG8Op0&time_continue=46&ebc=ANyPxKob_rhi53xp8Y9pYuzCZEsmBxBc-U-a7oLEhD5T73WKosirxyuiFNig9uWM3B_zXVuQuGBB29P3Tgd0vs0QKIgCWJknGQ より)

レーザーの活用を目指す米陸軍

 こうして見てきた通り、米陸軍は幅広い範囲でレーザーを活用しようと考えています。この理由として、敵の安価な無人機や砲弾を迎撃するためにはこちらも安価な手段が必要とされていることが挙げられます。例えば1機数万〜数十万円の安価な無人機を撃墜するために、その何倍も高価な対空ミサイルを使用することはあまり好ましくありません。そのため、電力さえあれば撃てて、しかも1発あたりのコストが非常に安いレーザーに注目が集まっているのです。現在米陸軍は敵のUAVや砲弾・ロケット弾を迎撃するシステムを開発中ですが、現在これに使用されるのは既存の対空ミサイルや新開発の小型対空ミサイルです。しかしレーザーがこれに加われば、瞬間的に多くの目標を安価に迎撃できるようになります。これは大きな利点でしょう。

 ただし、レーザーも万能ではありません。たとえば砂塵がまったり天候が悪ければレーザーは目標に到達できない可能性があるなど、運用に際して気象条件に大きな影響を受けます。また、目標に反射板が取り付けられてしまうとレーザーが反射してしまい、目標を破壊することが非常に困難になります。しかしこうしたデメリットを考慮しても、レーザーが有効な兵器であることは間違いありません。

 米陸軍の今後のレーザー兵器開発に注目が集まります。

参考記事

・Defense News「DoD Presses On In Pursuit of Laser Weaponshttp://www.defensenews.com/articles/dod-presses-on-in-pursuit-of-laser-weapons(2017年7月1日20時16分最終閲覧)

・Boeing「Blown Away: HEL MD Destroys Mortars Midflighthttp://www.boeing.com/features/2014/10/bds-helmd-10-13-14.page(同上)

・Defense News「US Army gets world record-setting 60-kW laserhttp://www.defensenews.com/articles/us-army-gets-world-record-setting-60kw-laser(同上)

・Army Times「Soldiers use laser system to destroy drone during exercisehttps://www.armytimes.com/articles/soldiers-use-laser-system-to-destroy-drone-during-exercise(同上)

・Defense News「Army renames experimental and prototyping exercise, heads to Europe in 2018http://www.defensenews.com/articles/army-warfighting-assessment-heads-to-europe-in-2018-to-tackle-drone-threats-with-laser(同上)

・Defense News「US Army tests laser on Apache helicopterhttp://www.defensenews.com/articles/us-army-tests-laser-on-apache-helicopter(同上)