北朝鮮の新型ミサイル 本当に日本に関係があるのか | 因幡のブログ

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 先日北朝鮮西岸から発射された新型中距離弾道ミサイル「火星12」について、日本の報道機関の注目点が少しズレていると筆者は感じています。どういうことか、簡単に解説したいと思います。

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(北朝鮮が発射した新型中距離弾道ミサイル火星12 画像は毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20170515/dde/001/030/063000c より 2017年5月16日23時最終閲覧)

到達高度とミサイル防衛

 今回の火星12の発射で日本の報道機関が最も注目しているのがその到達高度の高さです。弾道ミサイルは目標地点まで弧を描いて飛んでいきます。通常火星12のような中距離弾道ミサイル(射程3000〜5500kmの弾道ミサイル)は、普通に飛ばした場合その孤の1番高いところ、つまり到達高度はだいたい1000km以下と言われています。しかし、今回の火星12の到達高度はそれを遥かに上回る2000km超でした。これには理由があり、弾道ミサイルをわざと高く打ち上げるいわゆる「ロフテッド軌道」というものを用いたためでした。このロフテッド軌道をわかりやすく例えるならば、ホースで水を撒く時に普通にすれば遠くまで水を撒けるものを、ホースを真上に向けると水が高く上がって手前に落ちて来る、という具合です。

 さて、今回北朝鮮がこのロフテッド軌道を用いたために、日本の報道機関は2000kmという到達高度と日本のミサイル防衛態勢とをリンクさせて報じています。現在日本はイージス艦から発射する「SM-3ブロック1A」という迎撃ミサイルと、地上配備型の防空システム「PAC-3」の二段構えで、日本に飛来する弾道ミサイルを撃ち落とす態勢を整えています。しかしSM-3は最大でも500km程度、PAC-3は20km程度の高度までしかミサイルを迎撃できません。つまり、今回のように2000kmもの高度を誇る弾道ミサイルを迎撃するタイミングはかなり限られてしまい、なにより高いところから落ちてくれば当然速度も速くなるため、より迎撃が難しくなるのです。そのため今回の火星12は日本のミサイル防衛態勢を突破するのではないか?という報道がなされているわけです。

本来の目標はグアム

 ここまで聞くと、火星12は日本にとってとてつもない脅威という風に感じる方も多いでしょう。しかし、これには根本的な視点が抜け落ちています。それは「火星12が本来どこを狙うよう作られたか」という点です。今回火星12は先述した通りロフテッド軌道という特殊な撃ち方がなされました。では特殊ではなく一般的な撃ち方(専門的にはミニマムエナジー軌道と言います)をするとどうなっていたでしょうか。今回火星12の飛翔距離は水平方向に約800kmでした、しかしミニマムエナジー軌道の場合は約4500km飛翔したのではないか?という分析が韓国や日本でなされています。つまりこの火星12は本来ならば北朝鮮から4500kmも先にある海域に着弾させる能力を有しているということになり、これは北朝鮮から約3500km離れている米国のグアム島を攻撃できることを意味しています。つまりこの火星12の目標はグアム島ではないか?というのが筆者の考えです。

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(北朝鮮とグアム島との位置関係 画像はGoogle Earthより)

 従来グアム攻撃には火星12と同じ中距離弾道ミサイルの「ムスダン」が用いられるとされてきました。しかしムスダンは今まで8回の発射試験が行われましたが、うち成功はたった1回のみと、兵器としての信頼性がすこぶる低かったのです。そこで今回の火星12は、このムスダンにとって代わる弾道ミサイルになると思われます。

日本とは切り離して考えるべき

 つまりはっきり言って、火星12と日本はあまり関係がないことになります。なにより北朝鮮は、既に日本を標的とした弾道ミサイルであるスカッドER(射程約1000km)・ノドン(射程約1300〜3000km)・北極星2号(射程1300〜3000km)などを開発・配備しています。そこにきて、まだまだ数も種類も圧倒的に少なく貴重な存在である対グアム用の弾道ミサイルを、わざわざ日本に撃ち込む必要はほぼ無いように思われます。

 日本が備えるべきはこうした起こる可能性が低い火星12による攻撃ではなく、既に多数配備されているスカッドERやノドンといった準中距離弾道ミサイル(射程1000〜3000km)の飽和攻撃です。高い高度を飛ぶ弾道ミサイルを迎撃する手法を開発したり配備するより、さらに低いところを飛び(準中距離弾道ミサイルは高度300〜500km程度)且つ日本を狙っているこれらの準中距離弾道ミサイルにより効率よく対処する手法を開発したり配備するべきなのです。

 火星12は北朝鮮のミサイル技術がいかに躍進したかを示す、極めて厄介な存在であることは間違いありません。しかしそれは、あくまで北朝鮮が従来より遠距離を攻撃する能力を得て、さらに米本土を攻撃するための大陸間弾道ミサイルの開発に一歩近づいたことを意味しているのであって、日本が直面している脅威は別にあることを認識しなくてはなりません。