トリプタン製剤の販売実績はなぜ伸びなかったのか? 2013/03/01 | 頭痛 あれこれ

頭痛 あれこれ

 「慢性頭痛」は私達の日常生活を送る際の問題点に対する”危険信号”です。
 このなかで「片頭痛」は、どのようにして引き起こされるのでしょうか。
 慢性頭痛改善は、「姿勢」と「食生活」の改善がすべてであり、「健康と美容」のための第一歩です。

これまでOCNのブログ「頭医者のつぶやき」に掲載していたものです。
アクセス数の多かったものを、ここに再度掲載させて頂きます。


 2000年にトリプタン製剤の注射薬が販売されるようになって以来、各種のトリプタン製剤が利用可能となっています。そして関係諸団体の啓蒙活動が、これまで盛んに行われてきたにも拘わらず、片頭痛で医療機関を訪れる方々は一部の「頭痛外来」を除いて、相変わらず少なく、このため製薬メーカーが期待した程には、過去14年間、販売実績の増加傾向にはないようです。この理由はどこにあるのでしょうか?


1.まず、挙げられることは「薬価」が高い点です。


 昨年の12月には、イミグラン錠だけは後発品が販売されるようにはなりましたが、先発品の薬価が、927.90円に対して、後発品は 502 円となお高価な値段のようです。
 これでも、イミグラン錠の効く方には朗報であることは事実のようです。
 トリプタン製剤が販売される以前には、鎮痛薬としてセデスGが9円、エルゴタミン製剤のカフェルゴットが22.30円 と比較にならない位安価な値段でした。
 カフェルゴットは確かに使いにくい”おくすり”でしたが、効く人にはトリプタン以上の効果を示していたことも事実でした。また、セデスGは、私自身片頭痛で悩んでいた時代は愛用しておりましたが、その服用のタイミングを外さないように心掛け、1日3回服用することによって診療業務を何とかこなすことが出来ました。私自身は、トリプタン製剤が出現した時点では、片頭痛も殆ど起きなくなり、飲み比べたことはありませんが、患者さんにお聞きしますと、トリプタン製剤では得られない効果がセデスGにはあったと申されます。このような効果のあった安価な薬剤がどうして販売中止になったのでしょうか?

 その経緯について述べておきます。


 セデスGは、その切れ味のよさから、多くの愛好者がいた頭痛薬でした。ところが成分の一つであるフェナセチンによる腎障害が問題になり製造中止になりました。というよりもセデスGは数種の薬の入った合剤であり、結構製造に手間がかかる割りに儲けが少ない(薬価が1g9円位で、製造コストが8円以上かかる)ので、製造元の塩野義製薬としては、持て余していました。そこにフェナセチンの問題が生じ、フェナセチン抜きの薬の製造ラインを新たに立ち上げても、コストと利益が見合わないという判断から、セデスGを製造中止にしたという経過があります。
ところが多くのセデスG愛好者の圧力が、医療現場から塩野義に伝わり、セデスGからフェナセチンを抜き、かわりにアセトアミノフェンにした製剤である「SG顆粒」が生産、販売されました(薬価が1g11.4円と、会社も多少報われるようになりました)。
 ちなみに、販売中止になったのが、トリプタン製剤が販売された翌年の2001年でした。


 エルゴタミンは 1926年に片頭痛の治療薬として使用され、その後カフェインと併用することによって効力が増大することが確認され、酒石酸エルゴタミン1㎎と無水カフェイン 100㎎の合剤が、カフェルゴット®の商品名で長きにわたって片頭痛の主力薬剤として国際的に広く使用されてきましたた。
トリプタンの出現によって、カフェルゴット ®の存在価値が低下したことから、ノバルティスでは世界的に販売中止の方向性が決定され、海外工場からの調達が困難になるため、日本では2008年3月31日をもって販売中止し、4月に薬価削除申請、11月頃から経過措置期間となり2009年3月31日をもって保険薬価削除となりました。

結局、両薬剤ともに、いくら製造しても儲からないというのが理由のようです。
確かに、セデスGは腎障害があるという別の理由がありましたが、これはあくまでもセデスGを連用した場合のことであって、副作用を起こされた方々を詳細に検討してみますと、信じられない位長期間にわたって服用された方々だけでした。
最近では、厚生労働省は有害事象のある薬剤はことごとく販売中止にして、責任逃れをする傾向にありますが、ここには多くの問題が存在します。
例えば、血栓溶解剤である薬剤を例にとれば、以前は「ウロキナーゼ」がありました。当時は、閉塞性脳血管障害には何でもかんでも使用され、とんでもない宣伝がなされていたことは以前にも記事にしました。ところが2005年に開発された血栓溶解剤の「アルテプラーゼ」は誰でも使用できないように決められております。熟練した脳卒中専門医でしか使えないように規定されております。
このように、誰でも、何でもかんでも使うといった考えではなしに、きちんと適応を決めて、使用基準を定めて使えば、セデスGも問題はなかったように思います。
といいますのは、昭和50年代から、週1回午後から頭痛外来を行っていましたが、当時は、一般外来での頭痛患者は二次性頭痛の除外を行うのが精一杯で「慢性頭痛」に対応する時間がなかったため行っていましたが、当時は「セデスGによる薬剤乱用頭痛」の治療が主な診療でした。それ程、多かったものです。これは一般内科医が、患者さんが頭痛を訴えた場合、診断も下さず、安易にセデスGを無作為に処方した結果でした。このように振り返ってみれば、一概に患者さんの責任でもないように思えてなりません。
少なくとも、麻薬並の扱いをして、「処方医」を限定すれば済んだことです。
個人的に言えば、頭痛が消えるのであれば、少々の副作用があろうとも服用し続けただろうと考えます。それにしても値段が安いのが取り柄ではないでしょうか?
このように考えますと、セデスGが残っておれば、私の推測ですが、トリプタン製剤の売り上げは半減していたと考えます。それ程の効果がセデスGにはありました。


2.服用のタイミングの難しさ


 トリプタン製剤が発売された当初は、頭痛発作が起きたらいつでも服用しましょうということでした。ところが患者さんサイドは、これまでの鎮痛薬の値段の100倍以上もする
高価なトリプタン製剤は最後の”切り札”として我慢に我慢して耐えきれなくなって初めて服用するとか、始めは一般の鎮痛薬を服用し、治らなければトリプタン製剤を服用するとか、かなり大切にして服用されておられたようです。その結果、効果が十分に得られなかった方々も多かったようです。このため、服用のタイミングとして、”頭痛発作が始まれば直ちに服用する”ように指導されるに至りました。
 ところが患者さんサイドからは、このようなタイミングでなく、前兆としていよいよ頭痛が始まる直前の信号を把握して、”アッくると思った”瞬間に、自分に合う市販の鎮痛薬をタイミングよく服用しさえすれば、わざわざトリプタン製剤まで服用しなくても、治まってしまう方々が如何に多いかを知らされております。極めて早期に服用されています。
 要は、どのような薬剤を服用するにしても、服用のタイミングがあるようで、このあたりは患者さん自身が賢明のようです。
 また、朝起床時にすでに頭痛発作が始まってしまわれる方々は、トリプタン製剤の内服薬が効かない方も多く、このような場合、点鼻薬が推奨されているようですが、これでも的確に治る方は少ないようです。こうした方々は注射薬しかないようですが、毎回皮下注射をされる方々も少ないようです。
 こうしてみますと、結局、トリプタン製剤そのものが敬遠されてしまっているようです。


3.いつまで服用し続けるのか?


 トリプタン製剤が販売された当初は”片頭痛の特効薬”として、新聞・テレビなどのマスコミで盛んに宣伝されました。ところが、患者さんは毎回、頭痛発作の都度服用するにも拘わらず一向に片頭痛が治ってくる気配がみられず、それも10年来服用するにも拘わらずです、こうした場合、このような疑問は当然持つのは不思議ではありません。
 このように長期間、トリプタン製剤を持続して服用される方々は極めて珍しいと言わざるを得ません。特効薬と言う以上は、ある一定期間服用して治るというべきものであって際限もなく服用し続けるものであれば、一般的な鎮痛薬と何ら変わらないことになってしまいます。ただ、効き目が多少よいだけのことになってしまいます。
 ところが、一部の頭痛研究者は「一般の鎮痛薬で痛みを抑えていると、一部の脳の活性が高まり、そこにつながる血管が異常拡張して、痛みが生じ、血管の異常拡張がさらに脳の活性をもたらし、それが再び血管の異常拡張へとつながり、つまり、悪循環が終わらなくなり、それによって常に片頭痛がある状態になり、血管の拡張が繰り返されると、血管自体に炎症やむくみが残って、さらに頭痛を起こしやすくなる。」
 このような、見解を述べ、片頭痛発作時には、必ず「トリプタン製剤」を使用すべきと説かれ、このように対処していないと後々「ややこしい状態」に移行すると主張され、トリプタン製薬メーカーが聞けば、”随喜の涙”を流されることでしょう。
 こういった宣伝を現在されておられるようです。


4.トリプタン製剤の有効性はどの程度か?


 これまで、トリプタン製剤は片頭痛の特効薬と言われているにも拘わらず、その有効性は明確にはなっていないようです。確かに、トリプタン製薬メーカーの市販後調査が出されてはおりますが、これらは有名な頭痛専門医が出したものです。どこまで信憑性があるか・・。大半は、極めて有効とだけです・・
 トリプタン製剤が大半の片頭痛患者さんに有効であれば、これとは別な新薬の開発の必要性はないはずですが、現在さらにCGRPといった新薬が開発の途上にあるようです。
 しかし、現在での諸団体の啓蒙活動では、トリプタン製剤が”すべて”といった印象を受けますが・・・この点、全く奇異な感じがします。
 この有効性に関しては、頭痛発作の重症度・服用のタイミング・トリプタンの種類・さらに患者さん自身の薬剤との相性度にも関係するため一概に論ずることは不可能と思われます。しかし、トリプタン製剤全般の有効率は是非知りたいところです。


5.片頭痛は改善できるのか?


 問題点3の箇所でも述べましたが、果たして「抗てんかん薬」もしくは「抗うつ薬」をトリプタン製剤と併用して使っていけば、片頭痛は治ってしまうものなのでしょうか?
 これとは別に、鹿児島の田村正年先生は、片頭痛予防薬の多剤併用療法を行えば、最短で8カ月で、長くて数年で片頭痛が起きなくなると申されます。先生はこの「多剤併用療法」で治すと力説されます。

 しかし、大半の頭痛専門医は、「片頭痛は、高齢になると自然になくなっていく場合もありますが、治療によって片頭痛を治してしまうことはできません。したがって、片頭痛のある人は、片頭痛と生涯うまく付き合っていく気持ちが大切です。」このように申されて、頭痛発作の度に、トリプタン製剤を服用し、適当に予防薬を使いましょうと言います。

 このような考え方で医療機関が診療しているために、ネット上では小橋雄太さんのブログ「イミグラン錠・副作用なしで偏頭痛を治しちゃえ」で、片頭痛は医療機関では治らないと公言されている始末です。
 さらに、ある人からは「クスリは飲んではいけない」と、片頭痛患者さんがトリプタン製剤の服用されることに対して警告を発しておられるようです。
 「某トリプタン製薬メーカー」側は、トリプタンに関する研究を行う先生には援助は惜しまず、さらにこのような先生方には書籍の出版を多く依頼されるとのことです。このような事実は、昨年末当ブログの過去の記事を全て削除する際に知らされました。ということは、トリプタン製剤が発売されて以来極めて多くの「片頭痛の一般啓蒙書」が出版されておりますが、これらは殆ど「某トリプタン製薬メーカー側からの依頼による」とのことでした。
 まさに恐ろしい世界だと思われます。
 ここが一番の問題点のように思われます。といいますのは、患者側からすれば、何時まで高価な「トリプタン製剤」を服用しなくてはならないのか不安に思い、中断しようものなら、今後、どのようになるかと脅迫されているようなものです。


6.それでは、今後、どうすべきなのでしょうか?


 以上のように、患者さんにとっては、際限もなくエンドレスに「トリプタン製剤」の服用を勧められ、片頭痛は治らないといった前提で相手にされるため、さらなる悲劇です。

 国際頭痛センターの坂井文彦先生は、片頭痛は”自分で治す工夫をすべき”とされます。
 そして、これまで多くの方々が、自分で治されている事実が存在します。
 このため、現段階でなすべきことは、片頭痛を治された方々と治らない方々の相違を徹底的に比較・調査しさえすれば、自ずと問題点が明確になるはずです。
 こういった簡単な臨床研究すらなされていない現実が存在します。
 このような研究にこそ、トリプタン製薬メーカーは援助すべきで、エンドレスな「トリプタン製剤」の服用はどなたも求めていないはずです。
 こういった「片頭痛はこうすれば改善できる」といった最終目標があってこそ、初めて「トリプタン製剤」の販売売り上げが増加するのではないでしょうか?
 メーカーの「当初の目標」が違った方向に向いていた結果としか思われません。もっと有効な手段をとるべきであったと思われます。

 もっと述べたいことは多々ありますが、昨年末に私のブログに”いちゃもんを付けた”輩を再度刺激することになると想像されますので控えますが、これが「片頭痛医療」の現状です。

 きちんとした現実を見据えた「片頭痛医療」のあり方を、これらの方々に希望しますが、恐らく到底不可能と思われます。ここが一番の問題の根源と考えております。

 この点は、片頭痛でお悩みの患者さん自身が判断すべきと考えます。


今後、是非ご覧頂きたいのは以下の書籍、ブログ、ホームページです。


「クスリは飲んではいけない!」(船瀬俊介著 徳間書店」
「イミグラン錠・副作用なしで偏頭痛を治しちゃえ」 ブログ 小橋雄太
頭痛.com 田村脳神経外科クリニック ホームページ