「ハムレット」@東京グローブ座 | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

作 ウィリアム・シェイクスピア

演出 森新太郎

菊池風磨/南沢奈央/大谷亮介/安蘭けい/大鷹明良/宮崎秋人/章平/小柳心/福原冠/味方良介/花王おさむ/風間由次郎/森田甘路/末原拓馬/冨永竜/天野勝仁/駒井健介/新垣ケビン

 

 森新太郎さんが「ハムレット」を演出するというので、これは観たい、観なければと思った舞台。期待どおりで面白かったです✌️

 ミニマムな舞台セットと衣装、25分の休憩入れて4時間で(セリフのカット&整理はあるけど)シーンはあまりカットしていない。ひねった解釈を加えたり奇をてらったりせず、ストレートに攻めた丁寧な演出。セリフの力を信じた、まさにセリフで見せる聞かせる舞台でした🎉

 今回は本読みの日数を普段の倍くらい取り、セリフの扱い方や言葉の解釈など、かなり丁寧に進めたらしい。これって、時にセリフ劇とも言われるシェイクスピア劇をやる上での王道じゃないかな。その指導成果は本番で確実に表れていて、全ての役者さんのセリフが(発声も、言葉の意味の伝え方も)明瞭。作品の面白さを堪能できました👍

 

 実際のグローブ座を意識した張り出し舞台。でも矩形ではなく円形(回転舞台)で、シェイクスピアが他の芝居で書いている名言「All the world’s a stage」の象徴化みたい。その床に、シーンによって文様がライティングで映し出されます。最初の独白では暗雲のようなものが渦巻き、クローディアスの祈りのシーンではステンドグラスが浮き上がる。また、盆が回ることでシーンが立体的になり、セットのシンプルさを補っていました。

 

 菊池風磨くんは初見でしたが(ジャニーズ系の俳優さんに弱い🙇‍♀️)ストプレが初めてとは思えない、とても良いタイトルロールだったな✨ 真っさらな状態で正面から役に向き合ったからこその、力みや背伸びのない自然体、等身大のハムレット。家族の絆を失い、正当な継承者なのに王冠も奪われ、宮廷での居場所、あるべき自分の姿を探すハムレットの、ナイーブさ、迷いや悩み、成長などを、とても丁寧に表現していました。

 独白が良かったな。たとえば例の「To be……」。技巧を凝らすことのないセリフ回し、でもその一語、一句、一文に気持ちを乗せることで、言葉の意味と彼の胸の内が伝わってきます。他の独白でも、焦りや逡巡からひとつの決意をするまでの心の動きを素直に表現していて、気持ちに寄り添えました。

 続くオフィーリアとのシーン、最後の「尼寺へ行け!」での懇願するような切ない表情。オフィーリアを救いたいけれど、狂人を装わなければならないから、こういう言い方でしか伝えられないのね。その辛さ、そこにオフィーリアへの強い愛が感じられました😭

 ギルデンスターンを力尽くでやり込めるところでは、メランコリックで腺病質ではない、むしろ肉体的に逞しく力のあるハムレットを垣間見ました。彼は剣術にかなり優れているわけだから、これは正しい造形かな。

 欲を言えば、終盤に入ってからの、諦観し運命の流れに乗ろうと心を決めてからの変化がもう少し明確だと面白いかなと思った(もっと大きく変わっていいのかも)。

 

 南沢奈央のオフィーリアは歯切れの良いセリフや快活な動きから、聡明で芯が強そうな女性に見えました。彼女が心を壊したのは精神的なもろさからではなく、重なる不幸を理性で整理できず、自分を律していた支えが折れてしまったからと思えた。黒い布を頭からかぶって登場した時はびっくりしたけど、精神を病んだ彼女なりの、父の死を悼む喪服なのかもね😢

 2度目の登場で、摘んできた野の花を(兄と王と王妃だけじゃなく)民衆にも配るのは上手い演出だと思った。もう誰が誰なのか見分けがつかなくなってしまったということなのでしょう。で、最後の花を王妃に渡したあと、横にいる王を無視して去っていったのには笑った😆

 

 宮崎秋人のホレイショーは、ハムレットと割と距離を保っているように見えて、良く言えば冷静さを感じたのですが(あまりバディっぽくない)、最後まで黒いガウン姿で、これは大学のフェローという設定なのかな。十字架を下げているのも妙に目だったし、そういう身なりにしたことに役柄上の意味があるのか、関係ないかもだけど少し気になりました🤔

 

 気高く凛とした、やや浮世離れした雰囲気の安蘭けいガートルードも(オフィーリア溺死描写のセリフが詩のようで美しかった)、いろいろ悪いことしてるけど、やるべきこと(国政)はやっている感じの大谷亮介クローディアスもサスガでしたですが、ベテラン勢では大鷹明良ポローニアスが印象に残りました👏  このポローニアスは愚かで滑稽な老人ではない。王の周りでうまく立ち回り取り入り、王をバックアップして目をかけてもらう、やり手の侍従長だった。留学中の息子を見張る使者レナルドーとのシーンを入れてあるため、子供たちをコントロールしたがる彼の一面も強調されてたね。

 ちなみに、このレナルドーが気取り屋の胡散臭い感じで面白かったです😎  他の登場人物も、一人一人しっかりキャラ付けされていて、とても良いです。

 

 正攻法とはいえ、いくつか、んん!?となる、変化球演出もありましたよ😑  例えば、王妃の居間でハムレットがポローニアスを刺し殺すとき、(テキスト通りの)カーテン越しじゃなく、わざわざカーテンの向こうに回って刺すのね。あれだと相手がポローニアスだって分かるだろうし、カーテンの向こうからの声に驚いてとっさに刺してしまったという緊迫感も偶発性もないし、ちょっと意図がわからなかったな🙄  単に、ハムレットの衣装に血糊を付けるために一旦引っ込んだとは思いたくないし。

 エキセントリックだったのは、墓掘りたちが土の中から(テキスト通りなら)頭蓋骨を掘り出すところで、キャスター付きの人体骨格模型が舞台の袖から滑り出てくるの💦  これって森さんなりのブラックユーモアなのでしょうか。ここは大きく笑うところだったかもねー😬

 まあ、それはそれとして、とにかく全体的にとても手堅い作りで、十分楽しみました🎊

 

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