空模様のかげんが悪くなる前に 空の歌#6 | 鳥肌音楽 Chicken Skin Music

鳥肌音楽 Chicken Skin Music

WRITING ABOUT MUSIC IS LIKE DANCING ABOUT ARCHITECTURE.

$鳥肌音楽 Chicken Skin Music

「空の歌」特集の第5弾です。前回のニール・ヤングの「アバウト・トゥ・レイン」を聴くと"雨が降りそうな空”という歌詞から数珠繋ぎで思い出してしまう歌があります。それは、CHARの76年のデビュー・アルバム『CHAR』の中の曲「空模様のかげんが悪くなる前に」です。

空模様のかげんが悪くなる前に


空模様のかげんが悪くなる前に 行くあてのない旅に出よう
昔から人は皆 旅が好きなんだ
北の果てにも人生があり 南の果てにも歴史がある

旅先で訪ねた民家の玄関に 一歩足を踏み入れた時
旅の良さがわかるはずさ
北の果てにも人生があり 南の果てにも歴史がある

静かな緑に包まれたなら 耳をすますと聞こえるメロディー
それは木漏れ日 落ち葉の吐息か
北の果てにも人生があり 南の果てにも歴史がある


杜甫や芭蕉みたいというか、アメリカのホーボー・ソングみたいというか旅がテーマで”北の果てにも人生があり 南の果てにも歴史がある”という印象的なリフレインのある歌詞を書いたのはNSPの天野滋だったんですね、今日初めて知りました。というかアルバム持っていたので知ってたのに忘れてしまっていたといった方が正しいのでしょうけど。若くしてプロのギタリストとなったCharは、金子マリとのスモーキング・メディシンなどで天才ギタリストの名を欲しいままにしますが、自身のレコード・デビューはなかなかできず、セッション・ギタリストとして活動していました。当時、大人気の3人組NSPのバックでもギターを弾いており、その縁でCharのデビュー・アルバムの歌詞を担当したようです。

「コンクリートの壁にはさまれて」NSP


牧歌的な「夕暮れどきはさびしそう」のB面にはこんなギターがギンギンの曲が収録されていたとは。Charのデビュー曲である「ネイビー・ブルー」も天野の作詞ですね。

ネイビーブルー Char


「空模様のかげんが悪くなる前に」にしても「ネイビー・ブルー」にしても歌謡ロックっぽく聴こえてしまいます。それは歌詞のせいというのもあるのかもしれませんが、この頃の日本のロックは多かれ少なかれ歌謡曲的な匂いが感じられることが多かったような気がします。音にガッツがなく(by山下達郎)ロック的じゃない。これは当時のスタジオでは普段は歌謡曲のレコーディングが行われており「ロック」的な音が録れるエンジニアやスタッフがあまり居なくて試行錯誤していただろうということが考えられます。当時ライヴでギンギンのハードな演奏をしている連中から軟弱なロックと思われていたシュガーベイブの『ソングス』が今聴くともっとも「ロック」的な音像なのは福生スタジオという大瀧詠一の個人スタジオで録られていたからというのは何とも皮肉なものを感じてしまいます。

Charは1stアルバムの後、歌謡曲的な音になる日本のスタジオを逆手にとったような、そのものズバリの歌謡ロック「気絶するほど悩ましい」をシングルとして発表し大ヒット。そのルックスの良さも相まって「ロック御三家」として活躍したのはご承知の通り。阿久悠が詞を書いているせいかジュリーっぽい感じも少ししますね。

気絶するほど悩ましい / Char


PS.ストロボを使ってCharを背景から浮き上がらせたジャケットはこのアルバムの半年程前に発売されて日本でも大ヒットしていたボズ・スキャッグスの『シルク・ディグリース』からの引用じゃないかと思われます。

$鳥肌音楽 Chicken Skin Music