みてごらん 雨になりそうな空だよ 空の歌#5 | 鳥肌音楽 Chicken Skin Music

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「空の歌」特集第5弾です。今日は「青空」ではなく今にも雨が降り出しそうな曇空を歌ったニール・ヤングの「アバウト・トゥ・レインSee The Sky About To Rain」です。この歌ニール・ヤングの曲の中でも最も好きな歌のひとつなので、ブログを始めた頃にも記事にしたことがあったので、今回はその7年前の記事をリミックス/リマスターして再掲させていただきます。手抜きちゃいますよ(笑)。


「アバウト・トゥ・レイン」の収録されたニール・ヤングのアルバム『渚にて』は1974年7月発売で、1973年10月発売のライヴ・アルバム『時は消え去りて Time Fades Away』と1975年7月発売の『今宵その夜Tonight's The Night』の間に位置する作品です。『今宵その夜』の次が1975年の暮に出た『ズマZuma』で、このアルバムが僕にとってはじめてリアル・タイムで聴いたニールのアルバムでした。

75年暮に『ズマ』を聴き、それからさかのぼって『今宵その夜』や『いちご白書 Neil Young With Crazy Horse』『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュAfter The Gold Rush』といったLPを買ったりして、76年に一気にニール・ヤングのファンになります。そんなニール・ヤング初心者の当時にとても不思議だったのが『今宵その夜』と『ズマ』の落差の大きさでした。

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Neil Young                Neil Young & Crazy Horse
Tonight's the Night              Zuma

ジャケの色を見ても想像がつく通り『今宵その夜』は暗く陰鬱で『ズマ』は明るく開放的。ニールが『今宵その夜』を作るきっかけとなったのはクレイジー・ホースのギタリスト=ダニー・ウィッテンとローディであったブルース・ベリーの突然の死で(タイトル曲『今宵その夜』ではブルース・ベリーの死が直接的に歌われています)二人ともドラッグの過剰摂取による死でした。そんなボロボロで傷ついた心をむき出しにしたようなアルバム『今宵その夜』のわずか半年後に「泣くなよ 涙はいらんよ」(Dont Cry,No Tears)という明るい歌声で始まり、ギターもギンギンに弾きまくるテンション高い(アゲアゲの)『ズマ』がきたわけで、このLOWからHIGHへの移行、そんなに早くできていいのニールさん?。というのが当時の僕にはどうにも解せない謎でした。

Mellow My Mind__________________________________________________Don't Cry No Tears
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(いつも「メロウ・マイ・マインド」を聴くたびに、ここまで裸で歌っちゃっていいのかと思いますが、そのへんを気にしないのがニールなんでしょね。「ドント・クライ・ノー・ティアーズ」はけっこう暗い歌詞なんですが吹っ切れた明るさを感じます)

この2枚の落差の理由は、昔からのニールのファンには周知のとおり、実は『今宵その夜』と『ズマ』は発売こそ半年の差ですが、録音された時期でいうと2年近くの開きがあるのです。ダニー・ウィッテンの死は1972年の11月18日、ブルース・ベリーの死は1973年夏前でニールはその直後からスタジオに入り8月中には『今宵その夜』の録音を終え、年明けにリリースする予定でした。大ヒットした前作『ハーヴェスト』から間が開きすぎるのを穴埋めするためか10月には全曲新曲という前代未聞のライヴ・アルバム『時は消え去りて』が発売されます。

time
ニールのカタログの中でサントラ『過去への旅路』とこのライヴだけが未CD化となっています。なんとかCD化してほしいものです。

大ヒット『ハーヴェスト』路線のアルバムを求めるファンの期待は散漫なサントラ『過去への旅路』に引き続きこの『時は消え去りて』で再び裏切られてしまいます。そして次にリリース予定なのが思いっきり暗い『今宵その夜』ときては発売元のリプリーズも堪忍袋の緒が切れたのかアルバムの発売にストップをかけます。三度もファンを裏切れないというか、もう儲からないアルバムはごめんだというわけです。

*実際この時期のニールの置かれている状況はかなりやばかったようです。リプリーズからいつ首を切られてもおかしくない状況であったようですし、評論家やファンからも「ニールはもう駄目だ」と半ばあきらめの気持ちで見られていました。1974年に一瞬CSN&Yが再編されアメリカ・ツアーを行います。ニールにとっては本意ではない再編だったようですが、ファンを呼び戻す起死回生の手段としてはこれしかなかったというのが真実ではないでしょうか

そこで73年11月にニュー・アルバムのために再度のセッションがもたれ、そこにはラルフ・モリーナ、ビリー・タルボット、ベン・キースというクレイジー・ホース組に加えザ・バンドのリック・ダンコとレヴォンヌ・ヘルムそしてクロスビーとナッシュが参加していました。この豪華なメンツが集められたのも話題性を作る目的もあったのではと勘ぐりたくなりますが、それだけ危機的状況だったということなのでしょう。こうして新たに録音されたのがアルバム『渚にて』でした。

Walk On


結局スタジオ・アルバムとしては前作『ハーヴェスト』から2年半後の74年7月に発表された『渚にて』ですが、発売されるやいなやローリングストーン誌のレビューで「10年間でもっとも絶望的なアルバム」と評されてしまいます。もし従来の予定通り『今宵その夜』が発売されていたらいったいどんな評になっていたのでしょうね、「100年間でもっとも絶望的なアルバム」でしょうか(笑)。『今宵その夜』があっての『渚にて』という事でアルバムを聴くとそこには「絶望」というよりは「絶望」したあとの「諦観」「達観」を僕は感じます。

そしてその「諦観」を最も強く感じる曲が「アバウト・トゥ・レインSee The Sky About To Rain」なのです。


ごらんよ 雨が降り出しそうだよ
ちぎれた雲と雨
蒸気機関車が列車をひいて行く
汽笛が頭の中に鳴り響き
信号は大平原に投げ出され
列車は再び線路を下っていく
ごらんよ 雨が降り出しそうだよ

あるものは幸せに向かい
あるものは栄光に向かう
またあるものは貧しさに向かう
誰が君の物語を語るのか?

ごらんよ 雨が降り出しそうだよ
ちぎれた雲と雨
蒸気機関車が列車をひいて行く>
汽笛が頭の中に鳴り響き>
信号は大平原に投げ出され
列車は再び線路を下っていく>
ごらんよ 雨が降り出しそうだよ

ディキシーランドに下り
フィドルを弾いていた
大きな音で弾いていたら>
男が真ん中から割ってしまった

ごらんよ 雨が降り出しそうだよ
あぁ 

あぁ 雨が降り出しそうだよ
ごらんよ 雨が降り出しそうだよ  by Neil Young



>あるものは幸せに向かい
あるものは栄光に向かう
またあるものは貧しさに向かう
誰が君の物語を語るのか?

「栄光」と「幸せ」とはイコールではないとして、「栄光」を捨てようとしたニール。ニールとの活動で「栄光」が待ち受けていたはずなのに、ドラッグに溺れ「死」へと向かってしまったダニーとブルース。どんな物語であろうと自分の物語は誰でもなく自分自身で語られなければいけない。このアルバムがあったかこそら明るい「ズマ」を生むことができた 僕はそんな風に思います。

ですから この時期のニールを聴くのなら

  

という発売の順ではなく


  

という、録音順に聴くのをお勧めしたいと思います。

(なんか、「空」とはほとんど関係ない文章ですね、やっぱり手抜きかコレ)

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PS.「See The Sky About To Rain」にはこの人たちの名カバーもあります

byrds-
ザ・バーズ オリジナル・バーズ 29秒あたりから始まっています。

渚にて/ニール・ヤング


今宵その夜/ニール・ヤング


ZUMA/ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース


オリジナル・バーズ/ザ・バーズ