『無法弁護士』視聴後の感想と韓国の死刑制度(ネタバレ注意) | ruriのブログ 韓国ドラマ独り言(혼잣말)

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韓国のドラマが好きで、俳優のイ・ジュンギ氏のファンです。韓国ドラマについて感じた事などを中心に独り言を書きます。ネタバレもあります。

イ・ジュンギさんの最新主演ドラマ『無法弁護士』を視ました。私は、ジュンギさんが主演した作品の中では、『イルジメ』と『犬とオオカミの時間』が甲乙付け難く好きです。『無法弁護士』は、『犬とオオカミの時間』のキム・ジンミン氏の演出なので、期待していましたが、期待を裏切らず面白く、ジュンギさんの演技もアクションも素晴らしかったです。特に格闘シーンの足技にますます磨きがかかって惚れ惚れしました。

 

私は、韓国の現代物のドラマは、あまり多く視ておらず、韓国の事情にも詳しくないので、ドラマを視ていて、「(o・ω・o)?ホエ? 」と思い、後で韓国に関する本を読み、「ああ、そういうことなの?!」と思うことがあります。

2010年に犯罪がらみの某ドラマを視て、「なぜ、こんな極悪人が死刑にならないの?」と思いましたが、参考文献1を読んで、「韓国では、死刑の執行が停止され、事実上、死刑廃止国とみなされている」ということを知り、「それが理由かしら?」と思いました。

この本には、「韓国では、2010年の時点で58人の犯罪者が死刑囚として収監されているが、97年以降死刑の執行はされておらず、海外からは事実上の死刑廃止国とみなされている。韓国の国民感情は、未成年者の性犯罪など凶悪犯罪には厳罰を求める傾向が強い。しかし、同時に人名尊重的なキリスト教徒の国民や政治家も多く、それが法曹界にも影響を与えているためのようだ。」と書かれています。

 1999年に韓国で行われた調査では、死刑支持率が66%であり際立って凶悪な事件が起きると、死刑執行を求める声が強くなるということです。(参考文献2・3)

ドラマ『無法弁護士』には、ストーカー行為の末に女性を惨殺した被告に対し死刑判決が下されたことに市民が拍手喝采し、「執行されるかどうかが問題だ」というようなことを言っているシーンがありました。

なるほど、こういうところは韓国の現状を反映しているのですね。しかし、犯罪がらみのドラマでは、日本人なら死刑になって当然ではないかと思えるような極悪人に対し、死刑の判決すら出ないことがしばしばあります。ストーリー展開上、そのように描かれているのでしょうか?それとも日本人には、わからない事情があるのでしょうか?気になったので、本でちょっと調べてみました。

 

韓国と日本の死刑制度について(参考文献2・3・4)

韓国では、死刑に処しうる犯罪、「死刑相当犯罪」が刑法、特別法、国家保安法、軍刑法にあり、刑法のレベルでは日本と大差ないが、それ以外の法に「死刑相当犯罪」が多い。韓国の刑事訴訟法は、日本と同様、「法務大臣が死刑確定から六か月以内に執行を命じる」とある。しかし、法務部長官は、政治的・社会的に判断し、大統領の了解を得なければ執行命令を出せず、死刑執行を最終決定するのは大統領である。

1948年の政府樹立から最後の執行が行われた1997年まで50年間、韓国で執行された者は延べ902人、年平均18人にのぼり、その40パーセントが国家保安法やその前身である反共法である。国家保安法は、北と南に分かれ、南に政権が樹立されて間もない1948年に制定され、当初は共産主義者を取り除くという名目で、「反共法」と名付けられた。そのモデルは、日本の「治安維持法」である。この法律は、「治安」より「体制」の維持に悪用されることが多く、国家保安法違反により、多くの人々が処刑された。その中には、「赤狩り」の魔女裁判により犠牲にされた人々も少なくない。

死刑が最も多かったのは、朝鮮戦争の休戦(1953年)直後の1954年で、68人が処刑され、そのうち38人の容疑は国家保安法と非常措置令違反であった。朴正熙(パク・チョンヒ)大統領政権下の1974年には、58人が執行されたが、そのうち19人の罪は間諜罪(スパイ容疑)であった。朴正熙大統領自身も軍隊での左翼活動で死刑判決を受け、責任者に命乞いをした経験持ち主であった。

軍人出身ではなく、みずから「文民政権」を名乗っていた金泳三(キム・ヨムサン 任期19931998)大統領は、死刑を廃止するか、少なくとも執行はしないだろうという死刑廃止運動家の予想は裏切られ、57人が処刑された。

金大中(キム・デジュン 任期19982003年)大統領は、軍と市民が衝突した「光州事件(1980年)」に反逆罪により死刑判決を受けた経験を持ち、死刑反対派であった。

後継の慮武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は、金大中氏と政治理念を共有しており、政権下の200308年にも死刑を執行しなかった。20071230日、韓国は「10年間執行がない」というアムネスティ・インターナショナルの基準により、「事実上の死刑廃止国」となった。2003年9月から2004年まで21人を殺害し、死刑判決を受けた柳永哲(ユ・ヨンチョル)の死刑を法務部が執行しようとしたが、大統領は許可しなかった。以後現在まで死刑は執行されていないが、毎年、死刑判決は出ている。

李明博(イ・ミョンバク)大統領(任期20082013年)は、韓国メディアの取材に、死刑を支持する立場を示している。2009年に女子中学生の強姦殺人犯が逮捕され死刑執行の世論が沸騰すると、それを口実に与党に死刑執行を論議するよう指示したが、様々な理由により執行されなかった。

韓国の死刑執行停止は法改正を伴っておらず、いつでも執行が再開できる状況にある。 1974年に政治犯として逮捕され、軍事裁判で死刑判決を受けた経験を持つ柳寅泰(ユ・インテ)前国会議員は、2004年に死刑廃止に取り組む宗教団体の支援を受け、国会の過半数を超える議員の賛成署名とともに、死刑廃止法案を提出した。議会でカギとなる委員会に属する検察官出身議員の抵抗により、死刑廃止法案は成立には至っていないが、柳氏は国政を離れた今も死刑廃止運動に取り組んでいる。

 

世界全体の70%の国家が法律上あるいは事実上死刑を廃止している現在、死刑制度を維持する日本に対しては、風当りが厳しくなっているが、日本で2004年に行われた世論調査では、死刑に賛成する人の割合が81.4%に達している。宗教学者の山折哲夫氏は、「ヨーロッパの人々は、人権尊重のような普遍的な理念を精神の根底に持っている。これに対し日本人は、時々の社会の規範、現在であれば凶悪犯罪に厳罰を求める姿勢を重んじる。さらに日本人には、極限の償いを求める精神文化がある。そのため命を奪ったら命で償うという死刑制度の維持に、大多数の人が共感する」と分析しているとのことです。

 私の個人的な見解では、極限の償いを求める精神文化には、武家政権時代の影響があるのではないかと思います。日本人はあまり意識していませんが、現代の日本の社会や日本人の精神構造の中には、武家政権時代の名残がみられると言われています。

 

先日、日本で多量の死刑が執行された際に、韓国のネット上には、「日本では、死刑が執行されるんだ。うらやましい。」、「日本を見習って、韓国でも死刑を執行しろ!」などという書き込みが少なからずあったようです。

参考文献2の著者朴秉植(パク・ビョンシク 韓国の東国大学を卒業後、明治大学に留学、法学博士を取得。龍仁大学教授を経て、現在東国大学法学部教授)氏は、延べ9年4カ月間滞日し、日本で死刑廃止の理論を勉強した。帰国後、韓国の死刑廃止運動を手伝ってきた氏は、最近の「日本のような先進国も死刑を執行している。」といって死刑を正当化する韓国の状況を嘆いている。氏は、長い留学生活の経験から、日本人はどこの国の人よりも優しい心をもっていることを体得した。ところが、「国家」や「制度」のレベルになると、急に優しい心が消えてしまうことがある。死刑制度もしかり。日本はなるべく良いモデルになって欲しい、と書かれています。

氏には、申し訳ないですが、私自身は今のところ、死刑廃止論者にはなれそうにありません。

冤罪などで無実の人を死刑にすることを防ぐために死刑を廃止すべきであるという意見も理解できますが、明らかに何人もの人を殺害しておきながら、反省の色も見せず、一生かかっても更生しそうにない犯罪者が少なくありません。死後の審判や因果による転生などを信じている人も多いと思いますが、私は、神や仏はいるかもしれないし、天国や地獄はあるかも知れないし、無いかもしれないと思っています。罪も無い人が他人の身勝手な欲望や感情・衝動などのために命を奪われ、命を奪った犯罪者が天寿を全うするということには納得できません。

また、死刑に犯罪抑止効果があるという科学的根拠は無いと言われていますが、本当でしょうか?私には、立証出来なくても潜在的な効果はあると思えます。死刑になりたくて罪を犯す人もいますが、ごく少数です。刑務所に入りたいがために罪を犯す人の数は、それをはるかに上回るようであり、懲役や禁固の犯罪抑止効果はあまり高くないと思われます。死刑が無くても犯罪を抑止することが出来、全ての犯罪者を更生させることが出来れば良いとは思いますが。

 

参考文献1 造事務所 2010『こんなに違うよ!日本人・韓国人・中国人』PHP文庫

参考文献2 朴秉植 2012『死刑を止めた国・韓国』インパクト出版会

参考文献3ディビッド・Tジョンソン、田鎖麻衣子 2012『孤立する日本の死刑』株式会社 現代人分社

参考文献4 読売新聞社会部 2009『死刑』中央公論社