野外で写真撮影をする上で切っても切れないのが天気だ。特に大規模撮影の際には最も気になるファクターの一つだ。
これは僕がスタジオでのロケアシスタントをしていた時代の話である。ある大御所カメラマン(現在も活躍されてます)の撮影にアシスタントで参加して神奈川の三崎に向かっていた。ある酒造メーカーの広告だった。代理店のラフデザインは茜色の空のした何かを語らうように遠くを見据える親子が描かれていた。
しかし天気は雨、しかも今でいうゲリラ豪雨のような状態だった。僕はロケが早々に終わることを予想してどこでサボるかを考えていた。広告撮影では基本的に天気予備日が設定されているので無理せず天気予備日で撮影するものだと思っていた。
我々ロケアシスタントはピックアップから8時間までが基本料金なので早めに撮影が終わったときは終了予定時間までサボれるのが暗黙の了解だった。
しかし僕の予想に反してカメラマンの車はまっすぐロケ現場に向かっていた。「とりあえず現場に行くのか。律儀な人だなあ」なんて心の中でつぶやき同じ車で現場に向かった。雨はどんどん強くなり高速道路では視界が危ういくらいの水しぶきになっていた。
「今日天気悪いですね。」ストレートにカメラマンに話しかけてみたが、あまり気にしているそぶりもなく違う話になった。
現場に着くと先発部隊がセッティングを終わらせていた。カメラの上には簡易テントが張られ雨にぬれないようにはなっていたが、とても撮影できる状態ではなかった。しかしカメラマンは粛々と撮影準備を進めていた。
この日の撮影は4×5(シノゴ)。雨の中の4×5(シノゴ)の撮影は困難を極める。しかも無理を承知で撮ったところでコンテとは似ても似つかない。どうしたものかと様子を見ていると、ふと雨が止んだ。
すかさずスタンバイしていた親子役の役者さんが定位置についてポラロイドを撮る。
その間にもどんどん雲が晴れてゆく。
ポラロイドが仕上がる頃には雲の隙間から薄明かりがさしはじめていた。
「じゃあ本番行きましょう!!」カメラマンが掛け声をかける頃には夕暮れの茜色の太陽が雨でぬれた道を照らし、映画のワンシーンのようになっていた。本番直前に撮った最終ポラには茜色の世界の中に遠くを見つめる親子の背中が写っていた。
その絵は代理店のコンテよりもはるかに美しく、力強かった。
最後まで疑うことなく準備していたからこそこの瞬間を撮影することが出来たのだと思う。
きっと僕がカメラマンだったら早々に諦めていただろう。
最後の最後まで諦めない人に恩恵をもたらすのが写真なんだなぁと感じたロケだった。