国産大口径レンズの黎明期2 KONISHIROKU HEXANON 52mm F1.4 | シネレンズとオールドレンズで遊ぶ!

シネレンズとオールドレンズで遊ぶ!

カメラマンヨッピーのブログ。シネレンズやオールドレンズなどのマニュアルフォーカスレンズをミラーレスカメラに装着して遊び、試写を載せていきます。カメラ界でまことしやかに語られているうわさも再考察していきます。

KONISHIROKU HEXANON 52mm F1.4

 

 今回のレンズはKONISHIROKU HEXANON 52mm F1.4だ。KONISHIROKUとは若い方には馴染みがないかも知れないが、『小西六写真工業』の事でコニカのかつての社名だ。コニカの創業は1873年(明治6年)で小西屋六兵衛店といった。浅沼商会と並んで日本写真産業の最古参だ。ちなみにコニカは小西六のカメラのブランド名で頭文字からとられた。

 

 このレンズのオリジナルは1960年に発売された『KONICA F』用の標準レンズである。

 KONICA Fは当時世界最速の1/2000シャッターを搭載した一眼レフカメラで、コパルスクエアの原型となった金属板幕のフォーカルプレーンシャッタを採用していた。また国産では初めて露出計を搭載した一眼レフでもあった。様々な先進機能を搭載したカメラであったが非常に大きく、重く、高価であったため、そのほとんどは輸出され国内ではごくわずかに販売されたのみであった。

同年KONICA F用の金属シャッター製造を引き継いだコパルから発売されたコパルスクエアー(コパルスケヤ)シャッターを搭載した普及機のKONICA Fsが発売される。今回紹介するレンズはそのFs用の標準レンズだ。

 FsはコニカFマウントという独自のバヨネットマウントを採用していた。1965年にはKONICA AUTOREXでARマウントが採用されたためわずか5年あまりの短命なマウントであった。そのためレンズ数も少なく変換アダプターも少ない。純正のF-AR変換アダプターも幻といっていいほど希少で見かけても数万円の値が付く。今回はKONICA Fの接写リングを応用してSONY Eマウント化することに成功した。

 

 

 KONISHIROKU HEXANON 52mm F1.4の構成は典型的なダブルガウスタイプ。本来のダブルガウスは絞りを挟んで前後対称型であるがこのレンズは後ろが一枚多い。これは明るさを稼ぎながら収差を抑える為で枚数を増やして曲率を分散するための方法だ。当時は絞りより前を分割する前玉分割と後玉を分割するもしくは分割しないという3つの方法がよく用いられた。

  前玉分割は設計の自由度が高く様々な個性て設計出来る反面、収差も増大しやすいので癖玉になりやすい。

後玉分割は現在でもスタンダードな設計で収差を抑えながら明るさを増す事が出来る。もちろん当時は手探りであったので各社あらゆる構成が存在する。分割しない設計の場合補正出来る収差に限界があり、なにかを犠牲にする必要がある。

どの構成でも第2群の貼りあわせをはがして間に空気間隔を作って設計の自由度を上げる方法があるが、二群をセパレートすると生産精度が上がってしまうため当時は技術的に難しかった。初代ズミクロンの空気レンズはこれにあたる。

 HEXANON 52mm F1.4の描写は線が細くシャープである。その反動で後ボケにザワザワとした硬さが残る。ややトーンが浅めなのはHexanonシリーズの典型的な特徴だ。

また、黎明期の大口径レンズに共通の問題点も抱えている。まずはコマフレア由来のコントラスト低下だ。F2クラスでは克服された問題であるが未だF1.4クラスでは課題として残っていた。もう一つは虹状のゴーストだ。ズマリットなどで有名な半円形のゴーストである。

ザワザワとしたボケと浅めのトーンが良く分かる。写りはシャープである

 

虹状の半円形ゴースト

 

逆光でコントラスト低下が起こる。柔らかくていい世界観だ。ピント部はちゃんと解像しているのでしっかりとした絵作りが出来る

 

ゴーストとフレアをミックスしてゆく。後ボケもつられて柔らかくなっている。

実際の色はもっと淡いのだが、カメラ側でビビットに補正している。

黎明期の大口径レンズの最大の魅力は際立った個性である。KONISHIROKU HEXANON 52mm F1.4も期待を裏切らないじゃじゃ馬レンズだ。振り回されるか乗りこなせるかは撮り手の技量次第といえる。