政府暗号通貨「松田プラン」第3回~デジタル円はなぜ政府発行でなければならないのか~ | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

[財政と金融の究極の一手、政府暗号通貨「松田プラン」第3回]

 

 今回の新型コロナウィルスで直面することになりそうなのが、未曽有の経済危機。こんなとき、筆者が提唱する「松田プラン」が実現していたら、どれだけ機動的で実効ある経済対策を講じることができたかと思う。

まだ未知のお金のことなので、少し気が早いと思われるかもしれないが、日本がデジタル法定通貨を発行するときには、どんな形でどのように発行すべきなのか。今回はこのことについて述べてみたい。実は、この話は決して、遠い未来の話ではない。

今回は、前回の第2回に引き続き、この「松田プラン」についての説明を続けたい。「松田プラン」の全体像については、こちらの前回の記事をご参照されたい↓

「国の借金をお金に変える政府暗号通貨『松田プラン』の概要」

https://ameblo.jp/matsuda-manabu/entry-12583865760.html

現在、各国が検討しているデジタル通貨は、いずれも中央銀行が発行するCBDC(Central Bank Digital Currency)が念頭に置かれている。少なくとも日本の場合、それではデジタル法定通貨を発行する意味はほとんどない。なぜなのか。

今回は、「デジタル円」がなぜ、日銀が発行する「日銀コイン」ではなく、政府が発行する政府暗号通貨でなければならないのか…という切り口から、「松田プラン」の意味について、さらにご理解を深めていただこうと思う。

 

●日銀に個人情報が集まる?…その管理は政府の役割

デジタル法定通貨をブロックチェーン技術を用いて発行するなら、それはビットコインのような分散型の仕組み(パブリックチェーン)ではなく、中央管理型(プライベートチェーン)になる。これは前回述べたところである。この場合、このお金の発行元である中央管理者には、このお金が実際にどのようにやり取りされたかを始めとして、たとえばマイナンバー制度などとは比較にならない高い精度で、お金のユーザーの個人情報など、膨大な情報が集中することになる。

日銀がデジタル円を発行すると、国民各人のデジタル円に関係する個人情報は日銀に集まることになるが、日銀はそれをどう管理することになるのだろうか。そもそも日銀は、国民の細かい個人情報を保有したり管理したりするような組織としてつくられたものではない。そうした情報を持っても、日銀には管理する意味がなく、持て余すだけだろう。

むしろ、厳しい個人情報保護が日銀にも強く求められることになるため、日銀にとっては余計なコストになる。情報漏洩事件など何か管理上のミスや事件があったときには、日銀の責任が厳しく問われることになるのは言うまでもない。

日銀としては、こんなものを委ねられたら、怖くてしかたがないのではないか。その組織の業務や目的にとって意味あるデータ管理なら、セキュリティにコストをかける意味があるが、中央銀行とはいえ、銀行に過ぎない日銀には意味のないお荷物だろう。現に、日銀筋からは、自分たちはビッグデータなど持ちたくないという、消極的な声が聞こえてくるようだ。

 では、デジタル円を発行することで集まる莫大な個人情報は、どこが管理すべきなのか?その答は間違いなく、日本政府であろう。すでに政府はマイナンバー制度で莫大な個人情報を管理下においている。

 

●すでに日本政府はマイナンバー制度を運営している

2016年1月1日から日本でスタートしたこの制度、筆者が衆議院議員だったときに、その法律の審議にあずかったものだが、当時から、国が個人のプライバシーに関わる情報を保有し管理する仕組みの導入に強い反対意見が出されていた。どうも、日本の国民には、戦前の国家統制時代のトラウマが強く残っているようだ。

ただ、多くの先進国では、個人番号制度はだいぶ以前から、国の重要な基盤として欠かせないものになっている。個人番号を使わないと日常生活もできない国々も多い。たとえば、自らの健康に関する情報が個人番号で特定されることで、どの医師や病院に行っても、検査や投薬や診療の履歴、病歴などが直ちに共有され、効率も効果も高い医療が実現している国々もある。

サラリーマン以外の方々が毎年、膨大な時間と労力をかけている税金の確定申告も、北欧やエストニア、お隣の韓国でも、国が申告書を作成してくれる。本人はOKならサインするだけで、5分で済んでしまうといったことまで実現している。

全体的にデジタル化が遅れた日本は、そのおかげで、こういった国々に比べ、国民にとって決して便利な国にはなっていないのが実情だ。他の先進国に比べてずいぶんと遅れたが、ようやく個人番号制度が、最初は、税金と社会保険関係(年金や健康保険など)と防災の3つの分野から「小さく産んで、大きく育てる」という考え方で導入されたのが、現在のマイナンバー制度である。「大きく育てる」というのは、いずれ、先を行っている国々と同様、銀行預金をはじめさまざまな資産や、健康・医療情報などまで、マイナンバー制度で個人番号と結び付けられる情報の範囲を広げていくことが目指されているからである。

ここで大きな誤解があるのが、国が個人のプライバシーを監視するという懸念だ。

実際には、国の側では、税金なら税金、健康保険なら健康保険というかたちで、マイナンバーで紐づけられる個人情報は分別管理されている。制度を超えて名寄せするということが容易にはできない設計になっており、マイナンバー制度で国が保有する自分の個人情報のすべてを知ることができるのは政府ではなく、本人だけ、という仕組みになっている。政府が目的外で個人情報を扱うことはできないため、プライバシーが監視されているという心配は不要である。

一応、政府の側には、このような個人情報管理の仕組みが確立されているため、少なくとも日銀に個人情報を預けるよりは、ずっと安心であろう。

ましてや、デジタル人民元や、それと結びついた電子マネーを通じて、個人情報を融通無碍に扱える中国当局に私たち日本人の個人情報を預けるよりも、はるかにマシである。

 

●便利な世の中になるからこそデジタル円を導入する意味がある

 日本の政府がデジタル円の発行元になることで、私たちの生活や経済活動は、ぐっと便利になる。通貨とは本来、一種の情報機能だからだ。これまでのお金には経済的な価値の情報しか乗せられなかったが、ブロックチェーンなどの最先端の情報技術を活用すれば、それ以外の多様な情報機能をお金に乗せることができるようになる。

しかし、日銀コインなら、いままでどおりの経済的価値にしか関われないお金になってしまう。日銀は国民生活に関するさまざまな制度の運営には関わっていない。

 すでにマイナンバー制度で政府はさまざまな情報を電子的に管理保有している。デジタル円が政府暗号通貨であれば、それは、個人情報をはじめ、政府が管理する各種の膨大な情報(電子データ)にアクセスできるトークンになるであろう。

たとえば、納税や社会保障などの諸手続きや政府関係の契約を、スマートコントラクトとして政府暗号通貨に内装すれば、国民はトークンエコノミー基づくワンストップ政府の利便性を享受できることになる。

何のためのデジタル円の発行なのかと問われれば、それぐらいのメリットがあるからこそ、いままでのお金とは別に、あえてデジタル円を新たに発行するのだ…、そう説明しない限り、国民もその必要性を実感し、納得することにならないのではないか。

ここで、ブロックチェーン技術の本質的な特性について述べたい。

ブロックチェーンは仮想通貨の基盤となる技術として知られているが、それはブロックチェーン技術の使われ方としては、ごく初歩的なものに過ぎない。この技術がそのメリットを真に発揮して社会全体に大きなインパクトを与えるのは、社会のさまざまな仕組みに実装されることによってである。

この点は機会を改めて詳しく説明したいが、政府暗号通貨がなぜ、便利なお金になるのかをご理解いただくために、次の点だけは押さえてほしい。

 

●ブロックチェーンなら政府への支払いや手続きがワンストップで

そもそもブロックチェーン技術とは、①電子データを改ざんできないよう管理する技術であるだけでなく、②スマートコントラクトを内装することで各種の手続きや契約などさまざまな用途に電子データを活用できる技術であり、③ユーザーがトークンでアクセスしてこの仕組みを利用するものである…これらの「三位一体」でこそ、従来はほとんど不可能だった便利さや効率など各種のメリットを実現することになるものなのである。

このなかで②のスマートコントラクトに、ブロックチェーン技術のイノベーションの中核がある。③のトークンは、広くユーザーが保有する。ブロックチェーンで管理された電子データと結びつくことで、これをお金のようにも使えるし、いろいろな手続きや契約なども、このトークンによるお金の支払いと同時一体でできることになる。

社会のさまざまなデータは、たとえば医療なら医療、年金なら年金、不動産登記なら不動産登記…といった具合に、それぞれのシステムごとに、それぞれの論理に従って管理されている。制度やシステムや仕組みが主役であり、データはそれに従属するものだ。

ブロックチェーンは、ユーザーの求めやニーズに応じて、その論理と電子データが結びつくことで、システムを超えて(システム透過的に)各システムを動かす。そこでの主役は各システムではなく、電子データであり、それをトークンを用いて利用するユーザーだ。

これ以上深入りすると難しくなるので、「松田プラン」との関係で簡単に説明すると、ここでは、こうしたトークンに当たるのが政府暗号通貨である。政府に関係する公的な制度や仕組みをブロックチェーン管理に移行すれば、たとえば、政府暗号通貨で納税すれば、納税に必要な手続きが税金の納付と一体で行われることになる。あるいは、介護に関係するいろいろなサービスに関する各種の手続きが、それらに関係する手数料を政府暗号通貨で支払うことで、一発で完了することになるだろう。

先日、お父様を亡くしたばかりの知人が、親が亡くなったことで必要となる手続きでいろいろな役所や機関に出かけなければならず、あちこち飛び回って似たような書類を何種類もたくさん書かされて、莫大な時間を使わせられた。これでは自分の仕事ができない…とこぼしていた。皆さんも引っ越しのときには、いろんな手続きで大変な思いをした経験がおありではないだろうか。

親の死亡に関してしなければならないこと、引っ越しに伴って処理しなければならないこと、それらはまさに、各種の制度を利用するユーザー側の「論理」である。政府暗号通貨というトークンを関係する支払いに用いれば、必要な電子データと結びついて一回で手続きが済むようになる。こうした一般の国民にとってとても便利なトークンエコノミーを、未来社会の基盤として整備することになるのが、「松田プラン」なのである。

 

●日銀の資産になるからこそ、金融緩和の出口は円滑化

 デジタル円が政府発行であるべき理由はまだある。

黒田東彦総裁のもとで日銀が2013年4月から始めた「異次元の金勇緩和」政策は、その目標であるインフレ率2%の達成のメドが未だに立たないまま、もう7年になる。このまま日銀のバランスシートは、国債などを買い続けることで500兆円、600兆円、700兆円…と拡大を続ける一方なのだろうか。

インフレ目標が達成されれば、金利も物価上昇率以上の水準へと上昇するだろう。全体的に金利が上昇したとき、国債を日銀に売ることで膨れ上がった日銀当座預金は基本的にゼロ金利なので、銀行からみれば金利を生まない資産を大量に持ち続けていることで、やがて銀行経営ももたなくなるだろう。もちろん、いまの異常な低金利がどこまでも長期化すれば、バブルになり、バブルは必ず崩壊する。

いつまでも続けられないこの政策は、いずれ、どこかで終わりになるものだが、どうやって終わらせるか…。これはリーマンショック後に、同じく量的緩和政策を採ってきたほかの国々(米国FRB、欧州ECBなど)の中央銀行にとっても難題なのである。

なぜ難しいか。この政策の「出口」に伴って必要なのは、膨れ上がった中央銀行のバランスシートを縮小させることである、それは中央銀行が持っている資産を売ることによってしか実現しないからである。詳しくは、このシリーズの第1回で説明した。日本の場合、日銀が資産として持っている国債を民間に大量に売り戻さなければならない。

そのようなことをすれば、どうなるか。金利が急激に上がって、金融市場が大混乱になるだろう。銀行が持っている国債の値段が下がり、かつての欧州債務危機のときのような信用収縮につながる懸念があろう。

しかし、日銀が民間に売る資産が国債ではなく、政府暗号通貨であれば、金利がついた資産ではないため、これによって金利が上がるということにはならない。「松田プラン」では、政府暗号通貨に対する民間からの需要に応じて、政府が暗号通貨を発行して、日銀が持っている国債を償還することになる。日銀が持っている国債という資産は、政府暗号通貨という資産に置き換わりる。これが民間に売られていくことによって、日銀のバランスシートは無理なく縮小していくことになる。

もし、デジタル円が日銀発行の日銀コインなら、それは日銀の資産(債権)ではなく、負債(債務)になる。資産は売れるが、負債を売ることはできない。金融政策の円滑な出口に向けた、こんな芸当はできなくなる。

 

●日銀コインは資本主義の否定になる…?

もう一つ、日銀がデジタル円を発行するようになると、何が起きるか。

いまの日銀は日本銀行券という一万円札などのお札を発行しているが、皆さんがそれを受け取るのは、市中の金融機関の口座から預金をおろしたときだ。皆さんがいまの日本の法定通貨である日本円で送金したり決済しているのは、民間の金融機関の口座を通じてである。

もし、日銀コインが発行されれば、皆さんは日銀に口座を設けて、日銀から受け取ったウォレットに日銀コインを入れて、日頃のお金のやり取りや貯金をするようになるであろう。いままでは、人々が一般に使うお金について、日銀が銀行を通さずに、直接、人々に供給するということは行われてこなかった。

それが、日銀が直接、お金を供給することになれば、最も信用できる銀行は中央銀行であるため、多くの人々が市中銀行への預金をやめて、日銀に開く口座にお金を移してしまうかもしれない。銀行業の本質は、預金を預かることで決済手段を提供することに基づいているので、「日銀よ、こんにちは、銀行よ、さようなら」ということになりかねない。

資本主義の基本は、市中の銀行が信用創造することにあるので、これは資本主義の否定にもつながりかねない。銀行が信用創造をして生み出すお金は、民間の自由な事業活動を裏付けとして生み出される。それで生み出される価値と結びつくのが、銀行の資産側に計上される貸付金である。

しかし、日銀コインは何を裏付けにして発行されるかといえば、それは日銀の資産であり、日銀の資産とは、そのほとんどが国債だ。国債は政府の経済活動の財源として発行されるものであるので、日銀コインは、政府の活動に応じて生み出されるかたちになってしまう。これでは社会主義であろう。これが中国なら、デジタル人民元を中央銀行である人民銀行が発行してもおかしくないが…。

 

●政府が発行するから国の借金が消える

前回の記事をお読みいただければ明らかなように、政府暗号通貨の新規供給は、それに対する民間からの需要に応えようとする市中銀行からの要請に応じて、政府が日銀保有国債の償還を政府暗号通貨で行うことによってなされることになる。その分の国債が消え、国の借金がお金に姿を変えることになる。

このような財政再建効果は、日銀コインでは仕組み上、あり得ないことになる。日銀コインの発行は、日銀の負債を拡大させるだけだからだ。

日本ではアベノミクスのもとで、日銀が大量の国債を保有することになったため、政府暗号通貨の発行を、国債の消滅とのセットで実行できるようになった。これはアベノミクスの大成果だ。いまもたらされている財政再建のチャンスを活かすことが国益であろう。

 しかも、「松田プラン」では、政府暗号通貨を発行する政府と、そのユーザーである民間との間に、日銀と市中銀行が介在する姿となっているため、これまでの金融システムと日銀の金融政策の有効性が維持されることになる。健全な資本主義経済が守られる。

 

 次回は、この政府暗号通貨について、その実施や普及に向けた課題や、実際にどんなメリットが生まれてくるのかについて、もう少し突っ込んだ内容の説明をしたい。