消防のエリートコースとは | 札幌のNPO サポートシステム研究会 高橋 潤のブログ

札幌のNPO サポートシステム研究会 高橋 潤のブログ

札幌の非営利団体のサポートシステム研究会代表理事の独り言です。
ソーシャルビジネス支援のNPOです。

 

 

しばらくブログをさぼっておりました。

ヤフーニュースで消防ネタがあったので、前職のことを書いてみたいと思います。

 

私は15年間東京消防庁に勤務しておりました。

辞めてからだいぶたちますが、消防の世界は世間にあまり知られていないと感じることが多々あります。

それで東京消防庁におけるエリートコースにつき書いてみたいと思います。

首都東京の消防は、地方の消防とはかなり人事制度等が違います。

まず大きな違いは、東京消防庁は東京都職員であることです。

そして、全国の消防で唯一、消防総監という最高位の階級があるということです。

 

では、どういう人がこのクラスまで出世するのかを以下に、私の同期の例をもとに解説していきます。

 

東京消防庁には、全国ただ一つ国の官僚と同じようなキャリア制度があります。

採用区分が分かれています。一類という大卒程度採用試験の上に、専門系というほぼ10名しか採用しない、通称特別幹部候補生がいます。

給与も大卒よりは高いです。

私の当時は理工系は受験資格が大学院卒で、法律系だけが学部卒で受験できました。

試験はかなりの高倍率で難関です。

有名大学出身者ほぼ占めます。

 

私の同期では、横浜国立大院、筑波大学院、都立大学院などです。

ほぼ理工系が多く、法律系は2名でした。うち一人は中央大法卒です。

 

この専門系採用者がどれほど優遇されているかというと、無試験で消防士長という小隊長クラスまで3年で昇任できます。

そしてほぼ全員が消防司令という大隊長クラスまで、30代でなれます。

司令試験の実務年数も大卒より短いです。

私の同期で消防司令まで昇任できなかったのは、1名だけです。

そして、その大半が消防監から消防正監という、署長以上の高級幹部まで出世しています。

この専門系採用者が事実上、消防総監候補となることが多いです。

過去の消防総監の学歴は、東大法、京大法、北大院、日大理工、埼玉大、早稲田大理工、専修大法、中央大法、などで、現在の総監は防衛大学理工卒のもと幹部自衛官です。

 

そしてこの専門系採用者は、現場が短く、消防署勤務を短期間で終え、すぐ消防士長クラスで大手町の本庁勤務となり、重要な課へ配置されることが多いです。

本庁と消防署をいききしながら、どんどん出世していきます。

だいたい消防署には二年程度しか勤務しません。

 

さらに、東京消防庁には委託研修生という国内留学制度があります。

有名国立大学大学院の修士課程に留学して、修士号をとります。

行先は、東大院、政策研究大学院大学、筑波大学院、東工大院、都立大院などです。

この委託研修生の選抜試験は非常に難しく、この研修に派遣されれば、人事は本庁扱いとなり、専門知識を活かしたポストにつくことになります。多くは本庁勤務が中心となります。

この委託研修生は、専門系採用者が合格することが多いです。

 

つまり、東京消防庁の高級幹部は、いわゆるダブルマスターがいるということになります。修士号を2つもつ人が多くいる高学歴集団ともいえます。この点が地方の消防と決定的に違うところです。

世界最大の消防機関、職員数1万8500人という巨大組織は、官僚的に運営されており、高級幹部はこの組織運営の中枢となります。

 

この中でも、もっともエリートコースなのは、専門系採用者かつ政策研究大学院大学か東大院へ国内留学した委託研修生です。

私の同期や後輩、同僚をみると、ほぼ本庁の部長級である消防司監や都の局長級である理事や次長、総監にまで昇進しています。

同期では方面本部長、消防正監に昇進しています。

民間で言えば、役員クラスの高級幹部です。

 

しかし、やはり大組織のエリートの道は厳しいです。

当然、要求される能力は高いものがあります。

全員が本庁部長級までいけるわけではありません。

 

このコースの中でも、ふるい分けがあります。

まずは、消防司令補か消防司令の階級の時に、総務省消防庁か東京都へ出向するかどうかです。外部の民間研究機関に派遣されることもあります。

この出向に行くかどうかが署長以上に昇進できるかどうかの境目です。

一類採用者でも、優秀で若手のうちに本庁勤務歴があり、将来性が見込める場合は、多くは司令補か司令時代に国に派遣されます。

つまり、東京消防庁においては、ずっと消防署勤務をしているようでは、上級幹部へは昇進できないということです。

 

ここでまとめると、まずは専門系区分で採用され、委託研修生となり、国か東京都へ派遣されるというのが、基本です。

副署長から署長へ昇進することも少なく、それ以上の昇進はありません。副署長からだと、がんばっても副本部長程度です。

ここでまず定年です。

高級幹部の特徴は、現場経験が少ないことです。

 

私の採用当時から、救急部も有力部署となりました。

同期でエースはほぼ中級幹部時代に本庁救急部へ配属されています。ここから有力署署長へなった方が多いです。

救急専門でも、早期に救急救命士となり、救急隊長とへと昇任し、大学病院の救命センターで研修を受けた人は、消防司令試験を一度でクリアして、本庁勤務となり、署長まで昇進します。

 

一類採用者でも、昇任試験をすべて一回で合格して、消防司令まで早期に昇任し、消防大学校上級幹部科へ派遣されれば、署長にはまずなれます。

 

この他にも英会話研修生や外国語研修生となると昇進に大きく影響します。私は初代外国語研修生として韓国語を学び、その後某署で重要ポストである指揮隊勤務となりました。研修同期は消防司令長から消防司令まで昇進しています。

 

いわゆる専門系採用者で優秀な人は、もう消防司令補にだいたい28歳で昇任します。中隊長の階級です。この段階で中隊の指揮官ですから、どれだけエリートかわかります。

消防司令がなる大隊長には早い人では34歳くらいでなります。

地方の消防なら、大隊長は50台です。

専門系採用者で優秀なら、署長も50歳くらいでなります。

 

同期の典型的な昇進パターンをみると。

専門系で理工系区分で採用 理系修士号あり

政策研究大学院大学へ国内留学 修士号取得

消防士長で本庁企画課勤務

消防司令補で消防署管理部門勤務

その後総務省消防庁へ派遣

消防司令で救急部勤務

消防司令長で外郭団体事務局長

本庁予防部参事

消防学校副校長

小規模署署長

有力な方面本部長

予防部長消防司監

総務部長

理事兼警防部長事務取扱 東京都局長級

次長

定年後日本最大の警備会社本社顧問へ天下り

 

東京消防庁では消防司令長以上の階級で退職すれば、外郭団体や大手企業へほぼ再就職できます。

消防総監までいけば、引く手あまたです。

 

このような人事のため、東京消防庁は人気があります。

出世をねらう野心的な学生には魅力があります。

全国の消防で一番給与が高く、福利厚生も充実しています。

 

私は地方国立大学法学部出身でしたので、主流にはなれませんでした。

もともとあまり出世欲も能力もないので、災害の多い激務な署ばかりで、限界にきて15年で退職しました。

あのまま定年までいれば、退職金は2500万円程度もらえ、年金もかなりの額であったことは間違いないです。

 

消防においても高級幹部はこのようなコースで出世していくのです。

もちろん、多くは消防司令補か消防士長で、現場の隊長クラスで定年となります。本庁勤務者はほんの一握りです。

私でも本庁に行ったのは外国語研修生の時と、指揮隊勤務の時だけです。

大手町の本庁は遠い世界でした。

方面本部ですら、数回しか行ったことがありません。

なにせ、消防署だけでも81署、方面本部も10もあるので。

 

東京ならではの世界ではあります。