認識を改めるほどの傑作 ゴジラ -1.0(マイナスワン)感想 | 司法書士のゲームブログ

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最高でした

 

 

ハリウッドのギャレゴジから始まり、シン・ゴジラ、キングオブモンスターズ(KoM)とここ10年で次々と傑作を生みだしているゴジラシリーズだが、間違いなくここに並ぶ作品の1つだったと言えるだろう。

 ⇒ ちなみにその1段下にゴジラVSコング、さらにその1段下に映画アニゴジ1・2が位置している。アニゴジ3はさらにその3段下ぐらいか。

 

 

この映画で印象的だったのは、自分が「こういう映画になったら嫌だなあ」と思っていたものがそのまま出てきて、しかもそれがどういう訳か滅茶苦茶面白かったという事である。

 

自分の中で何となく出来上がっていた「面白くないタイプのゴジラ」像。そこに属するはずの映画なのに、そのマイナスイメージを覆すほどの面白さ。「こういうゴジラ映画でも面白くできるのか」と、認識を改めさせられた。

 

 

 

 

本作は一言でいえば、史上最も人間ドラマ部分の完成度が高かったゴジラである。

 

もちろんバトル面での面白さ・迫力も十二分にあり、「とにかくゴジラが大暴れしてくれればそれだけで満足!」という自分のような人間もキチンと楽しめる内容なのだが、それだけではない。

 

むしろ普段ゴジラを観ないような人、「ゴジラが暴れて何が面白いの?」と感じる人にも勧められる内容で、より懐の広い作品になっている(実際、自分も普段ゴジラなど全く興味のない母に勧めた)。

 

 

また、本作はゴジラ映画で最も海戦に力を入れている作品でもある。

 

ゴジラといえば、海からやってくる事こそ多いものの、基本的に海では足止め作戦ぐらいしか行われない。

 

本格的なゴジラ迎撃作戦は陸に上がってからであり、ゴジラの大暴れも、上陸以降が本番というものが多い。

 

ところが本作はガッツリ海戦メインであり、最終決戦も海上で行われる。陸上での大暴れもあるにはあるが、そんなに尺は割かれていないし、ゴジラも気が付くと海に帰っている。

 

 

立案されたゴジラ討伐作戦が割と現実的ですんなり納得できたのも印象的か。

 

ヤシオリ作戦のようなぶっ飛んだ内容でもなく(いや、あれはあれで非常に面白いのだが)、科学的な考察はともかく理論的には「確かにこれなら人間の力でも何とかなるかも」と思えるもので、作品のリアリティ向上に一役買っている。今回ゴジラの戦闘力がデフレ気味なのも、それに拍車をかけている。

 ⇒ 水島四郎(小僧)が出てからの展開はちょっとご都合感強めだが。とはいえ彼の見せ場を作る必要もあったし、これぐらいはご愛嬌だろう。

 

 

 

さて、そんな「傑作」評価の本作ではあるが、初めて予告動画を観たときの期待度は決して高くなく「期待半分、不安半分」という感じだった。

 

 

***【余談】**************************************

 

しかし思い返してみると、ゴジラって予告動画を観た時点ではいつも不安を抱いている気がする。

 

シン・ゴジラの時は人々がギャーギャー騒ぎながら逃げ惑うだけで「これで一体何を期待しろと?」と言いたくなる内容だったし、

 

KoMの時も(20年前にはとっくに語り尽くされたような)古臭~い思想を学者がペラペラと語り続けて「ひょっとしてゴジラが環境保護団体のプロパガンダにされちゃうんじゃ……」と嫌な予感しかしなかった。

 

しかし蓋を開けてみればどちらも名作だったわけで、ゴジラ映画の面白さは予告だけでは判断できない、という事だろう。

 

まあ、予告で抱いていた不安がそのまま的中してしまった「ゴジラVSコング」やアニゴジという作品もあるので、打率100%という訳ではないのだけど……。

 

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自分が抱いた不安、それは一言でいえば「感動路線だけは止めてくれ」という事である。

 

本当に、それだけは絶対に避けてほしかった。

 

というのは、「ゴジラ」と「感動」という2つが、それこそウナギと梅干しレベルで食い合わせの悪い、最悪の組み合わせだと思っていたからである。

 

まあこれは、邦画全体のレベルの低さというか、「微塵も面白くないお涙頂戴映画」に辟易されられている事による一種の被害妄想、偏見も含まれているかもしれない。

 

本当に、安易な感動路線に走ろうとする、安っぽくて退屈な邦画の何と多いことか。

 

そういった映画の共通項として、まず脚本も演技も「わざとらしい」。そしてその手の映画を見分けるのも簡単である。そういった映画は大抵において「叫びすぎ」だからだ。

 

作り手側は盛り上げるつもりで叫ぶシーンを入れているのだろうが、ちょっと考えれば分かるように、日常で叫ぶ場面などそうはない。大人なら年に1回あるかないかだろう。

 

それなのに安易に叫ぶシーンなど入れるものだから、「なんでこいつはこんなに叫んでるんだ?」と、盛り上げるどころか逆に白けた空気が漂う。酷い場合は薄ら寒さに鳥肌が立つ。

 

その点、予算が潤沢にあるハリウッド映画はちゃちな感動話で尺を稼ぐ必要もないので、退屈せずに済むことが多い。せいぜい申し訳程度のラブシーンが挟まれる程度で、その意味では見ていて「安心できる」。

 

 

いい加減脱線しすぎなので話を戻すが、そんな「お涙頂戴映画」に嫌気が差している自分としては、ゴジラとそれを組み合わせることだけは止めてほしかった。

 

だいたい、前提として自分は「ゴジラを観に」来ているのである。俳優を観に来ているのでも、感動話を観に来ているのでもない。

 

それなのに、しょーもない人間ドラマでゴジラの尺が奪われようものなら「そんな話はど~~~でもいいからさっさとゴジラを見せてくれ!」と思うのも当然である。

 ⇒ また、そういった邦画にありがちな要素を悉く排除した映画がどれだけ面白くなるかは、シン・ゴジラの例を見れば明らかである。

 

 

だが、本作の予告を見ると嫌な予感しかしない。いかにも感動系になりそうな「きな臭さ」を感じる。

 

 

 

 

そもそも舞台が戦後すぐの日本である。シン・ゴジラやハリウッドと違って、ゴジラに対抗できる戦力がほとんど残されていない。という事は、必然的に人間ドラマに割かれる尺が長くなるのではないか?

 

しかも監督はあの「ドラ泣き」で有名な山崎監督である。

 

友人は、同監督の「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」の評価がすこぶる悪かったらしく、そこも不安に繋がったようだ。

 

自分はドラクエを観ておらず、「鎌倉ものがたり」が好きだったのでそんなに悪印象はないのだが、とはいえやはり「ハートフル系に強い監督」のイメージであり、ゴジラとの相性は良くないのではないかと思っていた。

 

予告にはバッチリ叫ぶシーンも映っているし、「またこういう映画かよ……」と嫌な予感がヒシヒシした。

 

 

 

それが、蓋を開けてみればこれほどの傑作なのだから、本当にゴジラ映画は分からない。というか、ゴジラと感動系って実はそんなに相性悪くないのか?

 

元々、自分も感動系の映画が嫌いではない。涙腺ユルユル人間だし、いい映画を観るとボロボロ泣いてしまう。

 

このマイナスワンでも何度も「うるっ」ときたし、終盤では「ほろり」とさせられた。というか、人間ドラマのシーンでは基本泣いてたと思う(笑)。


例の叫ぶシーンも、「確かにこの場面なら叫んでもしょうがないよな」という納得度の高いもので、観客側の空気を白けさせるものではない。

 

どうやら、自分の中で凝り固まっていた「ゴジラと感動系は相性が悪い」というイメージは、「日本のお涙頂戴映画はつまらない」という先入観から生まれた偏見に過ぎなかったようだ。

 ⇒ まったく関係ないが、先の「ウナギと梅干し」の食い合わせも、昔から言われていて何となく悪いイメージがあるが、最近は考え方が改められていて医学的・栄養学的にも全く問題ないらしい。いや、まったく関係ないのだが

 

いやしかし、まさか、ゴジラ映画でこんなに感動してしまうとは。今までゴジラ映画に人間ドラマなんて蛇足なだけだと思っていたのに……。

 

まあでも、今後もゴジラ映画を感動路線にして欲しいかと言われたら、今回が奇跡の完成度だっただけで、やっぱりそれはご免被りたいと思うのだが(笑)。

 

 

 

その他、色々な感想。

 

 

■熱線

 

シン・ゴジラともハリウッドともアニゴジとも異なる、また新しいタイプの放射熱線である。火炎放射でもレーザービームでもない、単発型の熱線とでも言うべきか。

 

最近、ゴジラの熱線シーンが「映像屋の腕の見せ所」「最大の見せ場」のような立ち位置になりつつある気がするが、それはともかく、さすがVFX制作者として名高い山崎監督であり満足度は非常に高い。

 

海中が青白く光っただけでワクワクするし、陸上での熱線シーンはしっかり尺を割いて観客のテンションを否応なしに高めてくれる。

 

歴代でも間違いなく上位に入るカッコよさの熱線だと言えるだろう。

 

 

 

■ゴジラの弱さ

 

先ほども言ったが、今回、戦後すぐの日本という舞台の戦力不足を鑑みてか、ゴジラの戦闘力が大幅にデフレしている。

 

まずスペックから言って、身長50.1m・体重2万トン。KoMのゴジラが身長119.8m・体重約10万トンであった事を考えると、半分以下の体躯でしかない。

 ⇒ ちなみに、序盤では放射性物質を浴びて巨大化する前のゴジラも出てくるのだが、こちらはもっと小さく、最初見たとき「ゴジラ小っちゃ!!」と思ってしまった。

 

耐久力も正直高くなく、人間の武器が割とふつうに通用する。

 

ゴジラ討伐までを描く作品としてはあまりゴジラのスペックを盛るわけにはいかないし、デフレも止む無しだろう。

 ⇒ たとえば今回の海神作戦でギャレゴジを倒せるかと言われたら、それは無理だろう。

 

最近のゴジラは作品を重ねるごとに設定がインフレしていったが、そこに歯止めがかかった形とも言える。


 

もちろん、歴代ゴジラと比べて弱くなったからといって、作品がつまらなくなった訳ではない。

 

むしろ戦後日本という乏しい戦力で立ち向かうには「ベストな強さ」であり、作中では紛れもなく圧倒的な脅威として描かれているので、「弱っちいゴジラ」という印象はない。


やはりその作品に応じて「ちょうどいい強さ」というのがあるのであり、適当にゴジラのスペックだけ盛れば映画が面白くなる訳ではないという事である。どの作品がとは言わないが

 

また、マイナスワンのゴジラの特徴として人間をハッキリ認識し襲い掛かってくるというものがあり、ゴジラの「恐ろしさ」という点ではむしろ従来作より強化されている。

 

 

***【余談】**************************************

 

これと対称的な映画に「ゴジラVSコング」がある。

 

ギャレゴジ、KoMの続編であり、この2作を愛してやまない自分としては、もちろん公開してすぐ観に行った。

 

観に行ったのだが、なぜか前2作ほどハマれなかった


映像は相変わらずド迫力のハリウッドクオリティだし、実際自分も字幕と吹き替えで2回観に行ったにも拘わらず、である。

 

2回観ておいて何故かレビューを書く気にもなれず、自分でも不思議だったのだが、最近ようやく理由が分かった気がする。

 

要するに、自分が観たかったのは「圧倒的に強い主人公としてのゴジラ」だったのだ。

 

ギャレゴジ、KoMのゴジラは間違いなくこの条件を満たしている。

 

しかしゴジラVSコングはどうか。あれはどちらかというと「コングが主人公」だったと思う。女の子と意思疎通ができるヒーローポジションだったし、地底探索など明らかにゴジラより活躍シーンが長い。

 

一応、「ゴジラVSコング」というカードだけを見ればゴジラの勝ちと言えなくもない展開だったが、出番や描写の質、最後の美味しいところもコングが持っていくなど、「試合に勝って勝負に負けた」ような内容だった。

 

「圧倒的に強い主人公としてのゴジラ」を求めて映画を観に行った自分としては、これでは到底物足りない。

 

ゴジラがメカゴジラ相手に苦戦する展開も気に入らない。メカゴジラといえばシリーズお馴染みのキャラクターであり、ゴジラを圧倒する事も多いのだが、やはりあまり好きになれない。

 

他の怪獣相手ならいざ知らず、メカゴジラに苦戦するという事は「人間の技術でも割とどうにかなってしまう」という事に他ならないからだ。

 

スペックはマイナスワンのゴジラより上でも、コングに苦戦するわメカゴジラに苦戦するわで、到底「圧倒的に強い」とは言えないゴジラだった。

 

しかも(メカゴジラを出すためとはいえ)人間側の技術力は明らかに現実離れしているし、作品のノリは悪い意味でハリウッドらしい軽薄さ、俗っぽさが出てしまっているし、ギャレゴジの時の静謐さやリアリティはもはや欠片もない

 ⇒ 予告映像で「イェーイ!カモーン!」とやたら軽い音楽が流れ始めた時点で嫌な予感はしていた。

 

まあ、映像は豪華なのでポップコーンムービーとしての優秀さは相変わらずなのだが。

 

ギャレゴジやKoMのような「滾らせてくれるもの」は全くない映画だった。

 

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ただ、ゴジラの強さがデフレしている事自体はいいとしても、ゴジラの強さの質に多少「う~ん」となってしまったのも事実。
 
まず、今回のゴジラの一番の強みは「再生能力」だと思うのだが、「強い主人公ゴジラ」を求める自分としては、再生能力が強みのゴジラはちょっと微妙。どちらかというとキングギドラっぽい。
 
また、(先ほども少し述べたが)ゴジラがはっきりと人間を認識し、殺しにかかってくるというのも近年のゴジラでは珍しい。
 
ギャレゴジやKoMのゴジラは人間など全く意にも介さず、それがまたゴジラの超越的な存在感、王者の風格を引き立たせていて良かったのだが、マイナスワンではかなり積極的に人間を殺しにくる。その分、ゴジラの脅威や恐ろしさが増しているのだが、引き換えに小物感もちょっと増したかな……。
 
また、今回は人間ドラマに重きを置かれているため、ゴジラが若干舞台装置と化している感も拭えない。
 
他の映画のゴジラは、紛れもなく「主人公」であり「物語の軸」である。他の登場人物や怪獣は、すべてゴジラというキャラクターを引き立たせるために存在する。
 
これに比べるとマイナスワンはまず「物語ありき」であり、ゴジラというキャラクターもその物語を動かすために存在する。実際、本作の主人公が「ゴジラか敷島か」と尋ねたら、けっこう意見が割れると思う。
 
 
 
■オチ

 

結末は予想しやすい。というか、かなり早い段階でオチが読めてしまった。

 

元々、結末が予想しやすいよう作られている作品だと思う。丁寧に伏線も張られていたし。

 

それでも、ラストを観るまでは監督の「ひねくれ」が発動して、予想を裏切ってくるんじゃないかとハラハラしたのだが、きちんと着地を決めてくれて一安心。

 

そもそも、今回のテーマ的に終わり方はあれしかない訳で、そこを裏切ったらこの映画そのものが無意味なものになってしまうのだが。

 

でも、たまに安易な感動に走ろうとしてそういう事をする監督がいる。でも、この監督はそんな事はしない。

 

観客が観たいものをちゃんと見せてくれる。大事なことだろう。

 

 

 

■登場人物

 

良キャラクター揃いである。特に「新生丸」のメンバー達は、ともすると陰鬱なだけになってしまいかねない本作の雰囲気を、大幅に中和する役割を担う。

 

「敗戦直後の日本をゴジラが蹂躙する」という、あまりにも凄惨な舞台設定の本作において欠かせないキャラクター達である。

 

主人公も、(当時の価値観だと非国民呼ばわりされるのかもしれないが)現代人には感情移入しやすい造形になっていて、好感度が高い。

 

あと、太田澄子(敷島のお隣さん)は聖人すぎると思う(笑)。

 

 

 

色々書いたが、とにかく多くの人に観てもらいたいと思うし、実際太鼓判を押してオススメできる作品である。

 

というか、感想を書いていたらまた観たくなってきた。あの熱線シーンももう1度拝みたいし、とりあえず来週もう1回観に行こうと思う