松本清張「対談 昭和史発掘」(文春新書)のなかに、「お鯉事件」という、昭和の初めに、法務大臣に汚職の濡れ衣をきせるために、料亭の女将お鯉が偽証をさせられる話です。これは政党内部の勢力争いからくる陰謀なわけですが、この「お鯉」という女将はかつて桂太郎(総理大臣)の愛人で有名だった人、とのこと。
桂太郎は、山県有朋直系の、長州閥の中心です。このへんの人物は政党政治とは関係ない「超然内閣」のひとたち、ですね。
政党というのは、征韓論やその後の政変で政府を追い出された板垣退助や大隈重信が作ったものです。板垣退助は土佐、大隈重信は佐賀(肥前)ですから、ざっくり言えば薩長の藩閥主流派から弾き出された連中が徒党を組んだ、青臭い出来星の反体制ムーブメントです。
山県有朋は長州閥の中心人物でありバリバリの主流派ですから、政党なんていう怪しげな代物とは最初から無縁な人物です。
政治家というのは普通どこかの政党に属するもんだ、なんて常識は、この時代には全然ないんですよね。
そもそも首相は選挙で選ばれるのではなく、天皇から直接任命される(現実には、維新の元勲たちが内輪で決める)ものなので、政党を組んで世論に訴えたりする必要は全然ないわけです。