ヒトラーとロンギヌスの槍 | 日常にスパイスを

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●ロンギヌスの槍を追い求めた独裁者の運命






~黒魔術の信奉者が熱望した世界支配の力をもたらす槍~






ユダヤ教の戒律に反した罪を受け、ゴルゴダの丘で十字架にかけられたイエス・キリスト。彼に由来するもののなかには、現代もなお「聖遺物」として伝えられているものがある。聖杯や聖骸布、聖十字架、聖釘、そして聖槍だ。


聖槍は別名「ロンギヌスの槍」と呼ばれていて、もともとはガイウス・カシウスという男が持っていたものだ。イエスが磔にされて3日目、その死を確認するため、ガイウスは槍で脇腹を突き刺した。するとイエスの体から血と水が流れ出したのだ。これが「奇跡」とされ、ロンギヌスの槍も「聖なる槍」と呼ばれるようになったのだ。その後、聖槍はしばらくカシウス家に保管されていたが、やがて人手を点々とする。すると、聖槍を手にした人たちは皆、絶大な権力を手に入れたため「聖槍は世界を支配する力をもたらす」という伝説が生まれたのだ。


実のところ、本物の聖槍とされる槍の穂はいくつか存在している。もちろん本物はたったひとつだが、このなかで、もっとも由緒正しいと考えられているのがオーストリアにあるハプスブルグ家の美術館に収蔵されていたものだ。この槍穂は歴代のドイツ国王が所有し、栄華の象徴となってきた。しかし、誤って聖槍を紛失した者は、その直後に命を落としてしまうという恐ろしい伝説も残っている。


そしてこの聖槍と、オカルトや黒魔術に傾倒していたナチス・ドイツの総帥アドルフ・ヒトラーが、歴史上で交錯しているのだ。


アドルフが聖槍に強く魅かれるようになったのは、彼がドイツ労働者党(のちのナチス)に入党する1919年よりも遥か前のことだ。ウィーンで貧しい絵描きとして暮らしていたアドルフは、聖槍が自分にとって特別な意味を持ち、聖槍にまつわる力が彼の野望を実現してくれると考えていた。オカルト的な霊力を持つとされている聖槍は、彼の目的=第三帝国達成にとって、魅力的なアイテムだったのだ。


アドルフは聖槍を追い求めるかたわらで、ナチスの党首として頭角を現していく。1933年には首相、翌34年には総統に就任。ドイツの全権を掌握すると、4年後の1938年には、ウィーンの英雄広場でオーストリアを第三帝国に併合することを宣言した。この広場のすぐ横に、聖槍の収蔵されているハプスブルグ家の美術館があり、アドルフは数多くの略奪品とともに聖槍をドイツ国内に運び込んだ。翌年、ポーランド侵攻を皮切りに第二次世界大戦が勃発。聖槍を入手したアドルフは聖槍の伝説を信じ、世界征服という野望を目論んだ。


しかし、1945年4月20日、アメリカ軍にニュルンベルクが占領され、地下壕に隠していた聖槍は連合国側に奪われてしまった。失意に陥ったアドルフは、その10日後、ベルリンでピストル自殺し、その生涯を閉じたのだ。