「コミットメントと一貫性」の功罪
ひとたび決定を下したり、ある立場を取る(コミットする)と、自分の内からも外からも、そのコミットメントと一貫した行動をとるように圧力がかかります。(略)そして自分が正しい選択をしたと自分に言い聞かせるだけで、本当に、自分の決定に対する満足度が上がるのです。(p.97)
コミットというと一般的には「宣言する」「約束する」ということでプラスの意味で語られることが多い。
ただ、人間はひとたびコミットすると、コミットした自分との一貫性をとろうと考える性質があり、そこに功罪両面の影響がある、というのだ。
功(プラス面)
「結果にコミット」というCMがはやったことは記憶に新しい。
また、「目標は紙に書き、他人に宣言するとよい」ということもよく言われる。
言行一致している人は、人格的にも知的にも優れていると考えられるのが普通です。一貫性こそ、論理性、合理性、安定性、そして誠実さの核心をなすものなのです。(p.100)
罪(マイナス面)
特に、販売・勧誘・説得のシーンでは、この原理がテクニックとしても使われている。
なにげない質問で引き出した回答(コミットメント)をもとに、要求への協力(一貫性)を求めていく。例えば、寄附依頼の電話テクニックについてこんな記述がある。
「○○様こんにちは。今夜の気分はいかがですか?」とか「お元気ですか?」と言うのです。こうした挨拶の意図は、単に友好的に見せるためだけではありません。このような丁寧で中身のない挨拶は、礼儀正しくかつ中身の無い返答、「うまくいってます」「大変いいです」「ありがとう。元気にやっています」などを引き出そうとしているのです。(p115)
うまくいっているという返事をあなたが口にした途端、電話してきた人の仕事、つまりあなたを追い詰め、まったくうまくいっていない人びとに対して援助させることがとても簡単になります。「それはよかったです。本日お電話を差しあげたのは、不幸にも○○で被害を受けた人たちを支援する募金にご協力いただけないかと思いまして……」(p115)
こんな風に活用されているのだという。
論理的な誤りに気づいても…
そんな子供だましにはひっかからない?
僕もそう思ったのだが、次のストーリーに「え!? そうなの??」と驚いた。
「今夜は、お金を払うつもりなんてなかったんですよ。(略)でも、あなたのお友達の方が話しはじめたとき、すぐ申し込んだほうがいいと思ったんです。このまま家に帰ったら、彼の言ったことをまた考えはじめてしまって、もう絶対に申込なんてしないに決まってますから」(p.106)
論理が自分の信念を完全に打ちのめし、再び希望がもてない状態になる前に、すぐ何か手を打たなくてはいけません。(略)「早く、考えることから隠れる場所を! これだ、お金を払ってしまおう。ふー、危なかった。これでもう考える必要はない」。(略)「TM? きっと役に立つと思うよ。きっと続けるだろうね。もちろんTMの効果を信じてる。だって、もう頭金を払ってしまったじゃないか」。(p.106)
払ったんだから効くはずだ!?
因果関係がおかしいのだが、コミットメントと一貫性が逆向きに働いて、コミットを強める形になってしまっている。
「コミットメントと一貫性」の防衛法
私が知る限り、コミットメントの法則と一貫性の法則が結びついた形の影響力の武器から身を守るための効果的な方法は、1つしかありません。それは、一貫性は基本的にはよいもので、不可欠でさえあるけれども、なかには馬鹿げていて、コントロールしにくい、避けるべき種類の一貫性も存在すると意識することです。
具体的には、身体の2箇所から送られてくるサイン(合図)に気づけ、とのこと。
以下は、p.182 のまとめからの記述。
胃からのサイン
胃からのサインは、コミットメントと一貫性圧力のせいで、やりたくもない要求を飲まされそうになっていると気づいたときに現れる。
そのような状況で一番いいのは、相手に対して、こんなふうに丸め込まれそうになっているのは、馬鹿げた一貫性を保とうとしているからであり、自分はそんなものにこだわりたくないと説明することである。
心の奥底からのサイン
「今知っていることはそのままにして時間を遡ることができたら、同じコミットメントをするだろうか」という非常に重要な質問を自分自身に問いかける必要がある。そのとき、役に立つ答えをもたらしてくれるのは、最初に湧き上がってきた感情である。