「コミットメントと一貫性」の功罪 ~『影響力の武器』でハッとしたこと | naturalfeminine1のブログ

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「コミットメントと一貫性」の功罪

「コミットメントと一貫性」とは何か。第3章には次の記述がある。
ひとたび決定を下したり、ある立場を取る(コミットする)と、自分の内からも外からも、そのコミットメントと一貫した行動をとるように圧力がかかります。(略)そして自分が正しい選択をしたと自分に言い聞かせるだけで、本当に、自分の決定に対する満足度が上がるのです。(p.97)

コミットというと一般的には「宣言する」「約束する」ということでプラスの意味で語られることが多い。
ただ、人間はひとたびコミットすると、コミットした自分との一貫性をとろうと考える性質があり、そこに功罪両面の影響がある、というのだ。

功(プラス面)

「結果にコミット」というCMがはやったことは記憶に新しい。
また、「目標は紙に書き、他人に宣言するとよい」ということもよく言われる。

これらは「コミットメントと一貫性」のプラス面といえる。
本書にも次のような記述がある。
言行一致している人は、人格的にも知的にも優れていると考えられるのが普通です。一貫性こそ、論理性、合理性、安定性、そして誠実さの核心をなすものなのです。(p.100)
そもそも僕がこの本を読むきっかけは、後述するオンラインサロンの課題図書のよびかけに「読みます!」とコミットしたから。一貫性に突き動かされる形で読みきることができた。
仕事でも私生活でも、この原理が役立つシーンは多い。

罪(マイナス面)

一方、一貫性にしがみつくことの愚かさ についても指摘がある。

特に、販売・勧誘・説得のシーンでは、この原理がテクニックとしても使われている。
なにげない質問で引き出した回答(コミットメント)をもとに、要求への協力(一貫性)を求めていく。例えば、寄附依頼の電話テクニックについてこんな記述がある。

「○○様こんにちは。今夜の気分はいかがですか?」とか「お元気ですか?」と言うのです。こうした挨拶の意図は、単に友好的に見せるためだけではありません。このような丁寧で中身のない挨拶は、礼儀正しくかつ中身の無い返答、「うまくいってます」「大変いいです」「ありがとう。元気にやっています」などを引き出そうとしているのです。(p115)
こういうことはよくありそうだが、実は…

うまくいっているという返事をあなたが口にした途端、電話してきた人の仕事、つまりあなたを追い詰め、まったくうまくいっていない人びとに対して援助させることがとても簡単になります。「それはよかったです。本日お電話を差しあげたのは、不幸にも○○で被害を受けた人たちを支援する募金にご協力いただけないかと思いまして……」(p115)

こんな風に活用されているのだという。

論理的な誤りに気づいても…

そんな子供だましにはひっかからない?
僕もそう思ったのだが、次のストーリーに「え!? そうなの??」と驚いた。


話は、著者チャルディーニ氏が友人とともに、ある超越瞑想(TM)プログラムの勧誘講座に潜入したときのこと。心の安らぎが手に入る、という効能から始まって、さらにプログラムが進むと、空中浮遊や壁抜けまでできるというトンデモな講座だった。
論理的に矛盾した説明をきいて我慢できなくなった友人(大学教授)が、質疑応答の時間に、丁重な表現ながらも講座の背景となっている理論がありえないことを指摘し、主催者がぐうの音も出ないほどやりこめた。
…にもかかわらず、そのやりとりを聴いていた他の参加者で、頭金(75ドル)を払って講座に申し込んだ人が多数いたのだという。不思議に思ったチャルディーニ氏が声をかけるとこんな反応が返ってきたそうだ。

「今夜は、お金を払うつもりなんてなかったんですよ。(略)でも、あなたのお友達の方が話しはじめたとき、すぐ申し込んだほうがいいと思ったんです。このまま家に帰ったら、彼の言ったことをまた考えはじめてしまって、もう絶対に申込なんてしないに決まってますから」(p.106)

人は切実な問題や悩みを抱えると、解決の可能性にすがりたいし、そのチャンスが消滅する恐怖に耐えかねて、行動(講座入会、教材購入 等)をしてしまう。さらに、その行動(コミット)に対して一貫性を保とうとしてしまう。
論理が自分の信念を完全に打ちのめし、再び希望がもてない状態になる前に、すぐ何か手を打たなくてはいけません。(略)「早く、考えることから隠れる場所を! これだ、お金を払ってしまおう。ふー、危なかった。これでもう考える必要はない」。(略)「TM? きっと役に立つと思うよ。きっと続けるだろうね。もちろんTMの効果を信じてる。だって、もう頭金を払ってしまったじゃないか」。(p.106)

払ったんだから効くはずだ!?
因果関係がおかしいのだが、コミットメントと一貫性が逆向きに働いて、コミットを強める形になってしまっている。

この部分、とても危険だと感じた。と同時に、身近でも多く起きているような気がする。

「コミットメントと一貫性」の防衛法

では、これらを避ける方法はないのか?
本書には、それぞれの原理について「防衛法」という項目があり、「コミットメントと一貫性」については次のように書かれている。
私が知る限り、コミットメントの法則と一貫性の法則が結びついた形の影響力の武器から身を守るための効果的な方法は、1つしかありません。それは、一貫性は基本的にはよいもので、不可欠でさえあるけれども、なかには馬鹿げていて、コントロールしにくい、避けるべき種類の一貫性も存在すると意識することです。

具体的には、身体の2箇所から送られてくるサイン(合図)に気づけ、とのこと。
以下は、p.182 のまとめからの記述。

胃からのサイン

胃からのサインは、コミットメントと一貫性圧力のせいで、やりたくもない要求を飲まされそうになっていると気づいたときに現れる。
チャルディーニ氏いわく、みぞおちのあたりから発せられ、胃が硬くなったように感じる、のだとか。
そのような状況で一番いいのは、相手に対して、こんなふうに丸め込まれそうになっているのは、馬鹿げた一貫性を保とうとしているからであり、自分はそんなものにこだわりたくないと説明することである。
自分自身の発言で窮地に追い込まれないように、自分の過去の発言にはこだわらない、ということを明確に相手に伝えるのがよい。

心の奥底からのサイン

胃からのサインは、だまされかけているのが明らかなときにあがってくる、のだとか。
一方、最初のコミットメントが間違っているかどうかが明確でないときには、こう問いかけてみるとよい。
「今知っていることはそのままにして時間を遡ることができたら、同じコミットメントをするだろうか」という非常に重要な質問を自分自身に問いかける必要がある。そのとき、役に立つ答えをもたらしてくれるのは、最初に湧き上がってきた感情である。
ここで湧き上がってくるのが心の奥底からのサイン。これをつかみとるようにせよ、ということだ。