今注目の「集団的自衛権ではない米艦防護」とは | 因幡のブログ

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 本日付けの朝日新聞に「海自艦、初の米艦防護へ 四国沖まで、安保法制に基づきhttps://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170430-00000005-asahi-pol (2017年4月30日午前9時54分最終閲覧)という記事が掲載されました。実はこの場合の「米艦防護」は、2015年の安保法制で注目された集団的自衛権の行使としての措置ではないのです。どういうことなのか、今回はこれについて簡単に解説したいと思います。

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(今回米艦防護を実施する護衛艦いずも 画像はwikipedia https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%81%84%E3%81%9A%E3%82%82_(%E8%AD%B7%E8%A1%9B%E8%89%A6) より)

「武器等防護のための武器使用」とは

 普通米艦防護と言われると、多くの方は「集団的自衛権」を連想されるのではないでしょうか。たしかに集団的自衛権の行使としての米艦防護も存在します。しかし今回実施される米艦防護は、「武器等防護のための武器使用」による「警察権の行使」としての米艦防護です。
 
 ではまず、武器等防護のための武器使用とはなんなのかについて解説したいと思います。武器等防護のための武器使用というのは、自衛隊法第95条を根拠法とするもので、たとえば自衛隊の武器庫や装備品をテロリストが壊そうとしたりした場合に、自衛官がこれを武器を使用して阻止するといった措置のことです。この法律の立法趣旨は「自衛隊の装備品が破壊されると我が国の防衛力が低下してしまうので、これを防ぐために自衛官が武器を使用出来るようにしよう」というものです。ただし、武器等防護のための武器使用は以下の5つの要件を満たす必要があります。

①武器を使用出来るのは、職務上武器等を警護する自衛官のみ
②武器等を退避させてもなお回避できない場合など、他に適当な手段がない場合のみ武器を使用できる
③武器の使用は警察比例の原則(相手方より強力な武器は使用できない)に基づき、事態に応じて合理的に必要と判断される限度まで
④防護対象の武器が破壊されたり、相手方が襲撃を中止した場合は武器使用をやめなければならない
⑤正当防衛または緊急避難の要件を満たさなければ、人に危害を加えてはならない

 こうした厳しい要件が課せられているために、実は海外で自衛隊が活動している場合に現地で仮に「国または国に準ずる組織」が自衛隊の武器庫を襲ってきた場合でも、これに対して武器を使用しても憲法上禁止されている「武力の行使」には当たらないというのが従来からの政府解釈です。

米艦防護としての武器使用

 武器等防護のための武器使用について解説した上で、今回注目されている米艦防護に話を移そうと思います。2015年の平和安全法制で、先述した自衛隊法第95条に新たに「合衆国軍隊等の部隊の武器等の防護のための武器の使用」を追加したことにより可能になったのが、この米艦防護です。実施の要件に関しては先述した5つの要件に加えて

①防護の対象は我が国の防衛に資する活動(情報収集や警戒監視活動・そのまま放置すれば我が国に重要な影響を及ぼす重要影響事態に際して行われる輸送や補給活動・共同訓練)に現に従事している米軍その他の外国の軍隊等に限定
②武力行使との一体化(他国が行なっている武力行使に自衛隊が間接的に関わることで、外見上自衛隊が当該の他国の武力行使と一体化していると見なされる状態)を防ぐために、現に戦闘行為が行われている現場では防護を実施できない
③米軍等からの要請があり、防衛大臣が必要と認める時に限り、自衛官が警護を行う

という3要件が新たに追加されています。これらは第95条の立法趣旨に照らした場合に、米艦等を防護しなければ「我が国の防衛力が下がってしまう」という理由付けを行うことを可能とするための措置です。

 この米艦防護が想定しているのは「テロリストなどの不法行為を働く集団」から米艦等を防護することで、つまり武力攻撃にあたらない侵害から米艦等を防護することを目的としています。つまり通常であれば北朝鮮のような「国または国に準ずる組織」からの攻撃を、この武器等防護規定で自衛隊が防護することはできません。ただし政府は例外として、国または国に準ずる組織であっても「敵対意図が明確でない場合」は防護を実施できると説明しています。

ここは少し複雑な話ですが、まずどのような事態が「武力攻撃」に当たるのかから説明します。日本政府の定義として、武力攻撃とは「一国に対する組織的計画的な武力の行使をいう」(1)としています。武力の行使を行えるのは「国または国に準ずる組織」と限定されていますので、つまり武力攻撃とは「ある国がある国に対して行う組織的計画的な武力の行使」と定義できます。この定義に基づけば、国ではないテロリストなどからの攻撃が武力攻撃にあたらないのは当然ですが、例えば何も起きていない公海上で何処からともなくミサイルや魚雷が飛んできたなどの「相手が国なのかテロリストなのか、国だとしても一体誰が撃ってきたのか分からない」事態や、「相手が国だと分かっていても、計画的な攻撃なのかあるいは誤射なのかなど、敵対意図の有無の判断がつかない」事態では、例え相手が国だとしてもこれを武力攻撃と判断するのは極めて困難です。そこで政府が平和安全法制で整備したのが「武器使用による米艦防護」というわけです。

 現在北朝鮮情勢はその緊迫度を増していますが、米艦防護を実施する状況がこないことを祈るばかりです。

参考
(1)「衆議院議員金田誠一君提出「戦争」、「紛争」、「武力の行使」等の違いに関する質問に対する答弁書http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b153027.htm (2017年4月30日 11時41分最終閲覧)

・横山絢子(2016)「平和安全法制における米軍等の部隊の武器等防護の国内法上の位置付け ー自衛隊の武器等防護との比較の観点からー」,参議院事務局企画調整室編『立法と調査 No.378』.