統合失調症当事者から観た映画『ビューティフル・マインド』 | とかげ日記

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(この感想は映画のネタバレを含みます。あと、「愛」という言葉が頻出するので、そういうのはクサくて読んでられないという方は、そっとページを閉じてください。)





ノーベル賞を受賞した数学者のジョン・ナッシュの生涯を描いた作品。これは現実なのか、妄想なのかーー。映画『ビューティフル・マインド』には、ジョンの統合失調症患者としての苦しみが如実に描写されていた。同じく統合失調症である僕には、過去を思い出して目を背けたくなるシーンがいくつもあった。それでも、当事者から観てもこの映画は傑作と言えるだろう。

映画を観た方は、現実だと思っていた描写がジョンの幻覚であったことに驚くだろう。そして、彼の見る世界のどれが現実でどれが幻覚なのか分からなくなってしまうだろう。統合失調症患者の多くも、どれが現実なのか分からなくなってしまう体験をする。あるいは、幻覚を現実だと思ってしまう体験をする。その苦しみは、映画で描写されているように深刻なものだ。

あるいは、映画にもあったように、統合失調症を治療するための薬を飲んでいると、頭がボーっとしてしまい、何も考えられなくなるという問題も患者は抱えている。それを避けるために薬を飲まないでいると、病気が進行して取り返しのつかないことになる。どっちに転んでも、にっちもさっちもいかない、そんな悩みを患者は抱えているのだ。

しかし、ジョンの時代とは違い、今は医学も発達し、副作用のなるべく抑えられた薬もできてきている。僕はその薬を飲み、陽性症状である幻覚や妄想の症状は出ていないし、職場に通うこともできている。ただ、陰鬱な気分になる陰性症状は日頃からあるし、認知機能の低下により、記憶力が常人以下になり、集中力の持続時間も短くなるという問題を抱えてはいるが。だが、病状は日増しに良くなっていると実感している。この病気とはまだ長く付き合っていかなければいけないが、寛解(症状が出ずに日常生活を送れること)する日もあと10年もすれば見えてくるのではないかと楽観的に考えている。

だが、ともすると妄想の世界に溺れそうになるのだ。映画のジョンの場合はソ連のスパイに襲われるという妄想だが、僕の場合、自分は天使であるとか悪魔であるとか、この世は天使と悪魔の絶え間ない争いで成り立っているといったような妄想に。

しかし、妻であるアリシアがジョンを狂気の世界から救ったように、人を狂気の世界から救うのは、身近にいる人の愛なのだと思う。この映画は統合失調症の新奇な面だけに注目するのではなく、愛が人を狂気から救うということが感動的に描かれているのが良かった。統合失調症患者にとって、身近な人の愛とは、家族や恋人や友人の愛だったり、それらの人がいなければ、医師や支援者の愛だったりするだろう。統合失調症を抱えている人は、身近な人の愛がなければ、そしてその愛に気づかなければ生きていけないのだと思う。狂気という非日常の悪夢に打ち勝つことができるのは、日常的な愛の確かさだけなのだから。

僕はこの映画を観て、僕の妻に再び感謝した。僕の妻もこの映画のアリシアのように偏見なく僕のことを愛してくれている。

ところで、僕はゲーム『サモンナイト3』の二周目を一周目が終わってから10年ぶりくらいに始めた。このゲームも愛が狂気に勝つということを雄弁に語るゲームだ。『サモンナイト3』の主人公であるアティのように、人に愛を与え、人から愛を与えられるような人間に僕もなりたい。

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