〇はじめに
 司法試験・予備試験受験生の皆様、いかがお過ごしでしょうか。さて、新型コロナウイルス蔓延により、不要不急の外出が自粛となっており、本日、政府より緊急事態宣言が発令されます。他方で、司法試験が5月13日、予備試験短答式が5月17日に実施されすでに官報で公開されています。しかし、こういった非常事態のもと、多数の受験生が集まる司法試験・予備試験(以下、「司法試験等」とします)の受験会場では、コロナウイルス感染の危険が高くなっており、一部延期ないしは中止すべきという声が出ています。現時点で、司法試験委員会等から発表はありませんが、現実に中止や延期が可能か、検討したいと思います。

 

〇延期・中止は法的に可能か
 まず、司法試験法第7条は「司法試験及び予備試験は、それぞれ、司法試験委員会が毎年一回以上行うものとし、その期日及び場所は、あらかじめ官報をもつて公告する。」とあります。つまり、現行法を前提とすると、最低でも年1回は開催する必要があるため、本年度の司法試験を中止することは違法ということになります。それでは延期についてですが、期日について官報掲載が要求されているものの、特に変更を禁止する規定はないため、司法試験委員会の決定のもと、再度官報掲載すれば法改正なくして変更は可能かと思います。まあ、法改正の要否を問わず、司法試験法特措法など立法措置を講ずればそれで足りますし、特に法改正それ自体を反対する意見はないでしょうから、あとは所定の法案提出・立法手続を迅速に採ることで足りると考えます。
 なお、司法試験の場合、5年に5回の受験制限がありますが(司法試験法第4条第1項)、これについても合わせて「特措法の規定により受験できなかった期間は除く」などとして、6年に5回などとすることになります。

 

〇延期は現実的に可能か
 問題は法改正ではなく、司法試験等の延期が現実的に可能かということです。なお、ここでいう延期は、8月や12月等、年内に実施することを意味します。
 
 まず、司法試験ですが、司法試験は合格発表後直ちに司法修習の手続がはじまります。9月の発表から、11月末の導入的集合修習開始まで、司法研修所、裁判所、検察庁、弁護士会、その他関係各所はその受け入れのための各種事務手続を行います。また、同時期は司法修習生(当該司法試験合格者の前の期の修習生)の集合修習や選択型実務修習、さらには二回試験の実施もあります。こと、司法試験に限定したとしても、論文式試験の添削に大学教授や実務家など多くの採点者がその時期を見越して予定を組んでいると思われるため、単にその時期をずらすというのは、採点者の確保・日程調整の手続が必要になります。いずれにしても、延期は困難かと思います。

 予備試験ですが、採点者や成績評価の日程調整、論文試験や口述試験の会場確保の問題はありますが、司法試験よりまた可能性はあるかと思います。とはいっても、困難であることには間違いないでしょう。

 

〇中止は現実的に可能か
 ここでいう中止は、令和2年度の司法試験を実施せず、令和3年度にまとめて実施するという意味です。事務手続や調整との関係からすると、延期よりかは「まだ」マシでしょうから、中止は現実的にありうるところです。しかし、中止となると、令和3年度の司法試験が、令和2年度の受験生と一緒に行うため、受験生は増加します。もちろん、令和2年度で不合格になるべき受験生が令和3年度の司法試験を受験することや、令和2年度の予備試験合格者が令和3年度の司法試験受験生にいないことを考慮すると、実際の受験生はもう少し減るのでしょうが、それでも受験者数が増加することには間違いありません。
 
 その上で、「合格者1,500人」を堅持するのであれば、合格率は当然下がります。昨年の合格率を維持すると、合格者数が増加します。ただ、過去には2,000人を超える合格者数もあったので、昨年の合格率を維持したまま合格者数を増やすことそれ自体は可能です。令和2年度の合格者がいないので、法曹人口の大幅増員による弊害もありません。

 そう考えると、令和2年度の司法試験等を中止にすることは、現実的に可能かと思います。


〇受験生の意見・希望


ツイッター上で、中止・延期・決行でアンケートを行っていますので、ご参考にしてください(2020年4月9日集計予定です)。

 

 

 

〇おわりに

試験直前ということもあり、当事務所の受講生含め、多くの受験生が動揺しています。そのため、司法試験委員会は、延期・中止・決行いずれにしても、早々に何らかの表明をしていただきたく思います。※4月7日、司法試験と予備試験について、延期の方向で調整されている旨の報道がされました。今後の動向を注視したいと思います。

 

 

 

(2020.04.07)