福島第一原発 水棺と循環冷却システム | ナンでもカンでも好奇心!(tomamのブログ)

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硬軟取り混ぜた種々雑多なネタについて書いてみようかと思います。
全くまとまりがないと思うけど、それが自分らしさということで。。。

福島第一原発で、外部に循環冷却系を設置し、「水棺」で冷却するシステムづくりに入るとの発表がありました。


http://www.asahi.com/national/update/0504/TKY201105040341.html


 東京電力は4日、福島第一原発1号機について、今月中旬から原子炉を安定した状態で冷やすシステムづくりに向けた作業に入ると発表した。格納容器内の水を外に引き出して仮設の装置で冷やして戻す仕組み。今月末にもシステムを稼働させたいという。



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まず、外付けの循環の冷却方式にすることは、ようやく当たり前の結論に達した、と考えます。

(冷却水の冷却は今回は空冷式となっていますが、海水との熱交換でもどちらでも構いません。)


「元々の設備の修理は困難なので、新しい設備を設置して冷却水を外部で循環する方式にせよ」とは、ジャーナリスト上杉隆氏との共同インタビューで原発設計者の上原春男氏が事故直後から訴えていると言っていることです。


私も同じ思いだったので以前にブログで伝えましたが、事故から2ヶ月近くたって、ようやくこの方法の「システムづくりに向けた作業にはいる」とは、東電も政府も何をやってるんだという思いです。


http://www.tsunabuchi.com/waterinspiration/?p=2347  



一方で、批判が大きい「水棺」方式を、やはり実行するつもりのようですね。

しかも、冷却水は圧力容器と格納容器の両方に入るような図になっています。中途半端な方法です。

どういう設計思想で流量の配分を行い、それをどうやってコントロールするつもりなのでしょうか?


私は以前に、京大の小出裕章先生も、共産党の吉井英勝議員(京大の原子核工学科出身)も、元東芝で原子炉の設計をされていた技術者の吉岡律夫氏も、水棺はやめるべきと主張していて、効果が小さくリスクが大きいのでやめるべきだと書きました。

http://ameblo.jp/tomamx/entry-10874044199.html



今日は、ざっと除熱の計算をしてみました。


まず、原子炉での発熱量ですが、崩壊熱がどのように減衰していくかのグラフはこのようになっています。

http://www.shippai.org/images/html/news559/YoshiokaMemo20.pdf


これによると、事故後55日目の現在で、低格出力のおおよそ0.15%程度と見積もられます。

福島原発1号炉の定格出力は46万kWですので、700kWくらいになります。



 次に冷却水の量ですが、朝日の記事によると、


冷却の仕組みは2段階。まず格納容器の水は原子炉建屋の機器搬入口に設置した熱交換器にポンプ(毎時100トン)で送られ別のルートの水に熱を伝えて冷やす。熱を受け取った水もポンプ(毎時200トン)で建屋横の装置に送られ大型ファンによる風で冷却する。これまでの毎時数トン規模の注水と比べ格段に冷却能力は高まる。


とされており、100t/hの水を循環できるようにするようですので、もしも、これを全量圧力容器に送って直接冷却できれば、 [ kW = kJ/s ]

 (700kJ/s)/(4.18kJ/kcal)*(3600s/h) / ((100,000kg/h)*(1.0kcal/kg℃)) = 6℃

冷却水の出口の温度は、入口の温度と比べて6℃上がるだけという計算になります。


これだけしか上がらないのであれば、100トン/hも流さなくても、例えば20トン/hなら30℃の上昇となり、入口が50℃としても出口が80℃程度です。


さて、元東芝の吉岡氏は、現在の注水がどこから行われているか不明としながら、「再循環系」かと予想されています。

http://www.shippai.org/images/html/news559/YoshiokaMemo30.pdf


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再循環系の下部側から冷却水を注水して「給水」配管を閉止すれば、反応容器は満水状態になって、水は炉心を下から上に流れて、「タービン行き」配管から流出することになるだろうと推定されます。いずれも配管サイズは、(20~)100トン/hの水を流すのには十分に大きいと推定されます。


これで十分に冷却できるはずなのに、なぜ強度の面でリスクがある「水棺」をやろうとするのでしょうか?


水棺の場合に熱がどのように奪われるか計算してみます。

この場合、「総括伝熱係数」を使って熱の移動を計算します。


圧力容器は直径 4.8m 高さ 20mとされていますので、伝熱面積を計算するとざっと 320m2。


圧力容器は炭素鋼150mm、ステンレス鋼10mmの二重構造でできているようで、それぞれの熱伝導度を50および15 W/m・Kとし、壁の内側および外側の境膜伝熱係数をともに1000 W/m2・Kと仮定すると、圧力容器の壁を通した格納容器への総括伝熱係数は、160 W/m・K 程度と推定しました。


仮に圧力容器への注水をなくして、この伝熱だけで700kWの熱を奪うとすると、圧力容器と格納容器とが持つべき平均温度差は、(700*1000)/320/160 = 14℃ と計算されます。

この計算通りなら、水棺方式での冷却でもうまく行けそうに見えます。


ただし、特に圧力容器内では炉心そのものが熱の伝導を邪魔する構造になっていることもあり、再循環系のポンプが稼動しなければ(しないでしょう)、直径4.8mもの容器を外壁から冷却するだけでは、実際には容器内でかなりの温度差がつくはずです。


(これを少しでも緩和するために、水棺を実施する場合でも、冷却水の一部を圧力容器に送る???)



さて、ではなぜ水棺を行わなければならないのでしょうか?


ひとつ思いついた要因としては、圧力容器に接続されている給水や再循環系の配管が大きく破損していて、数十トン/hもの冷却水を送って戻すことができないことです。


ただこの仮説は、1号機は唯一加圧系を保つことができていることと矛盾します。


もう一つは、ボイラー行き配管は当然ボイラー建屋までつながっているはずですが、再循環系の配管は原子炉建屋内にあり、放射線量が高すぎて配管の接続工事ができない可能性があります。


あとは先に書いたように、米国からの「水棺が実機で有効かどうかテストしてみたい」との意向に沿っているだけ、という可能性もあります。


このまま、複数の心ある専門家が危険だからやめるように進言している「水棺」を、実施してしまうのでしょうか?


しかも、格納容器が確実に破損している2号機や、破損が疑われる3号機(圧力が常圧)では、この手は使えません。どうするつもりでしょうか?




なお合わせて、循環冷却システムに関連してですが、以前、このような報道がありました。


http://www.asahi.com/national/jiji/JJT201104200031.html


フランスのアレバ社の技術を導入して6月までに近くに水処理施設を設置し、放射性物質を凝集沈殿させる。さらに塩分を除去し、再び原子炉注水に使う循環システムを7月に確立する方針。


私は、「循環システムに使うのなら放射性物質で汚染されていてもいいので、こんな馬鹿げたことはやるはずがない」と書いていましたが、案の定、今日の報道では、循環系に水処理施設は入っていませんね。


当たり前のことですが、この程度の技術レベルの報道がされているのだという事実として。