Kバレエ・オプト「シンデレラの家」@東京芸術劇場プレイハウス | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

演出/振付/舞台美術 ジュゼッペ・スポッタ

作曲/編曲 クリストフ・リットマン/和田永(S.プロコフィエフ「シンデレラ」)

原案/詩 最果タヒ「シンデレラにはなれない」

小林美奈/森優貴(客演)/酒井はな(客演)/岩井優花/白石あゆ美(客演)/杉野慧

 

 K-BALLET Opto 第3弾公演です。旗揚げ公演「Petit Collection ―― Petit, Petit, Petit!」と第2弾「プラスチック」はKAATでの上演で、家から遠いのを理由に💦パスしたんだけど、今回は行ってまいりました。今回の作品は、義母姉に虐げられるシンデレラという設定を借りて、主人公を家族の世話や家事に明け暮れるヤングケアラーにした現代翻案版。王子さまもガラスの靴も出てこない、とてもシビアなダンス作品でした。家族への愛を捨てきれない主人公が悲しい😢 最果タヒ(私は初めて知る詩人です)の書き下ろし詩集「シンデレラにはなれない」が原案らしい。

 

 ネタバレあらすじ→シンデレラ(小林美奈)は、認知症の祖父(森優貴)、精神を病んで怒りを制御できない母(酒井はな)、その母と新しい男との間に生まれた義妹(岩井優花)の世話をしている。自分を犠牲にして家族のために生きるシンデレラは、そのくびきから解放されたいと思っている。学校で舞踏会があり、シンデレラは家を留守にできないので行くのをためらい、母も自分たちを放っておかないでと取り乱すが、祖父に促されて参加する。舞踏会で束の間の幸福感を味わっているところに祖父の訃報が届き、現実に引き戻される。やがて母は精神病院に入院する。自分の自由を奪ってきた祖父と母は家からいなくなったが、シンデレラは喪失感に襲われ呆然とする。終わり。

 

 最後、シンデレラと精神科医(杉野慧)が互いに惹かれ合い希望を感じさせるエンディングかと思ったら、そういう甘っちょろい話ではなかったです😓 シンデレラを救い出してくれる王子が現れるどころか、世話をする対象(祖父と母)がいなくなり解放されたかに思えたシンデレラは、家族を深く愛していたことに気づき、もっと深い孤独に襲われたような……。そして「ケア」というルーティンを失った彼女はこれから何を目標に生きていけばいいのか、みたいな残酷な現実を突きつけられる話でした(←個人の解釈です)。

 

 舞台美術はミニマルで具体的な背景は作っていないけど、小道具の使い方が興味深い。シンデレラはガラスの靴ではなく長靴を履いていて、その日の家族の世話が終わると長靴を脱いでソロを踊る。長靴は労働/足枷の象徴なのかな。上面が傾斜したテーブルは、冒頭でシンデレラが上に登ろうとしても滑り落ちてしまう状況を見せたり、壁や囲いになったり、終盤では祖父の遺体が横たわる台になったりと大活躍。ヤングケアラーの群舞が操る木枠は、後半でその木枠に身体を入れ身動きが取れなくなるようなシーンがあるので、自分を縛る「家族」「家」のことなのかと納得しました。

 

 その群舞の在り方もナルホドと思わせる。シンデレラや祖父と同じ衣装を着た男女の群舞が登場するのは、ヤングケアラーや認知症あるいはケアを必要としている家族は日本の至る所にいるという意味でしょう。舞踏会でシンデレラと踊る群舞のダンスも面白い。このときはミラーボールみたいな光が客席を照らしたりと唯一煌びやかなシーン。でも午前0時になると群舞は機械的な動きになり、ケアラーたちと入れ替わる(だったかな?)。夢の時間は終わりシンデレラは容赦ない現実に直面するのです。

 

 個々の役としては、シンデレラの物語だけど祖父と母の存在が大きかったな。舞踊言語的には私の感性が追いつかない部分が多々あったけど、2人のダンスにはその不安を忘れさせる力があった。祖父役の森優貴さん、私は初めて知るダンサーですが、強靭かつ柔軟な身体表現が素晴らしく、認知症を患う祖父という難しい役ながら、その孤独や現実対応へのもどかしさ、彷徨いながら何かを探すような動きなど、抱える苦悩をよく表現していた👏 孫娘シンデレラへの愛情をまだ忘れていない感じ、彼女を舞踏会へ促すために長靴を脱がせ衣装を着せるところも印象に残りました。

 母役の酒井はなさんも素晴らしいダンス表現で、舞台にいるだけでオーラを感じさせる圧倒的な存在感がありました。心を患っていて感情をコントロールできないという役どころゆえ、感情の激しい発露、それを自制しようとするねじれたパワーなど、見事なダンス🎉 祖父が亡くなった後、精神をさらに乱した彼女を医師が病院へ連れて行こうとします。終盤のその、酒井さんと杉野さんのデュエットが全部持ってったような凄さで、圧巻でした。身をよじらせて苦悩する酒井さんを見つめる杉野さんの眼差しには、医師を超えた、人としての優しさと悲しさが見え、役者やな~と感心しましたよ👏

 

 岩井優花さんの義妹と、白石あゆ美さんの伯母は、その役柄として登場する意味がイマイチ分からなくて、性格もちょっとはっきりしない存在だったな。

 でもってシンデレラ役の小林美奈さんですが。私は初日に観たんだけど、終演してすぐの、主なダンサーが一列に並び順番に前に出てレヴァランスするとき、下手端にいた杉野さんが最後に前に出ようとしたら、小林さんたらそれ無視して(まぁ、端の人まで見えないから、忘れて……だと思うけど😑)両サイドのダンサーの手を取って前に出て行く、で、みんなも引っ張られて一斉にレヴァランス。森さんが隣の杉野さんにアレレ?って残念そうな表情を見せると、杉野さん少し苦笑い。あれはひどかったな。小林さんの頭の中に杉野さんの役、存在が完全に抜けてたってことでしょ。初日で緊張していたから、とかいうシロート臭い言い訳は通用しないよ、プロなんだから😠 ずいぶん失礼な話だし、真ん中に立つ人にあるまじき失態。なので小林さんのパフォーマンスについてコメントする気が失せました🙇‍♀️悪しからず。

 

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