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「安定ヨウ素剤」を、配布・服用していた福島県立医大関係者  2/27 蔵田計成 (ゴフマン理論研究会所属)


◇福島県は「イチエフ・クライシス」直後に、県外機関から114万錠の「安定ヨウ素剤」(放射性ヨウ素被曝予防薬)を取り寄せ、半径50km圏内の各自治体に配布していた。しかし、県民に配布され、投与されることはなかった。結果的には、「三春町民」(50Km圏、3300世帯の95%、町独自の決断で服用、3/15)以外に、県立医大関係者(医師、看護婦、職員、家族、学生)が服用していた事実が、地元医師の情報公開請求で分った(週刊誌「フライデー」3月7日号)。同誌によると事故直後、以下のような文書通達や、発言がなされていた。

「指示がでるまで勝手にヨウ素剤を服用してはいけない」(放医研通達3/14)
「福島原発から30kmほど西に離れれば、被曝線量は1mSv以下であり、ヨウ素剤は不要であ
る」(山下俊一発言3/18)

◇原発事故が起きた直後の、安定ヨウ素剤の投与(服用)の重要性は、関係機関、関係者にとっては半ば常識であった。これはチェルノブイリ事故災害の教訓でもあった。
「甲状線ガンに関するウクライナの失敗とは、事故直後にヨウ素剤を配布、投与することができなかったことである」(ウクライナ医学アカデミー放射線医学研究センター)(注1)
福島県は、事故直後に大量の安定ヨウ素剤を調達したわけであるが、福島県立医大の医師たちも、事故翌日、1号機が水素爆発した3月12日に、県から4000錠(追加4000錠)を入手した。その日からただちに、1000錠単位で院内の各科に「秘かに」配布し、医師、職員、家族、学生など県立医大関係者(患者除く)に投与・服用させたという。
県当局の担当者は、県民への投与・服用を保留したことについて、不安を煽ることになり「判断するデータがなかったから踏み切れなかった」と同誌上で弁明している。また、県立医大が投与した理由は「事故が発生して病院に来なくなった医師もいて、動揺が広がっており、院内の混乱を鎮めるために、上層部が配布を決めた」という。だが、すでに医大では事故翌日から医療従事者だけではなく、家族、学生に至るまで早々と投与・服用させていた。
これら両者の弁明の本音は、行政側がみせた秩序優先(パニック回避)であり、医大側が露呈した、患者不在の自己保身である。両者の弁明には住民の命を守るという使命感のかけらもない。「三春町」の決断とは対極であった。それは座礁した船の乗客を置き去りにして逃げ出したイタリア船長の所業と変わらない。おまけに、医大上層部は、配布について箝口令(かんこうれい)を敷いたという。

◇このような事態が生じた背後には国が定めている「投与指示基準」という規則がある。「1歳、被曝線量、積算100mSv(外国:50mSv、WHO:10mSv)が予想される」ときに、国→県→自治体→住民という指示系統によって「服用指示」が発令される仕組みになっている。だから、あのようなSPEEDIのデータ隠しひとつで、事態は暗転する。放射線被曝の過小評価、被曝防護の軽視、欺瞞と無策が大量の甲状腺被曝傷害をもたらすことになる。

◇県立医大が身内へ配布し、投与し、服用させたことは、それ自体は正当な選択であった。だが、問題は別なところにある。医大は「安定ヨウ素剤」投与の重要性を熟知していた。にもかかわらず、自己保身という卑劣さを隠すために、パニック防止を理由にして口を封じたことは背信行為である。果たすべき役割は、専門的立場から行政に対してヨウ素剤投与を進言し、患者や県民の被曝防護という医者の使命を貫くことであった。そのような無責任な行為は、いまもなお進行中の犯罪的行為にもつながっているから、強く糾弾すべきである。

◇『チェルノブイリ被害の全貌』(岩波書店刊)の著者ネステレンコは、事故直後、当局に対して「周辺住民への即座の安定ヨウ素剤の配布を要求した。だが、当局から住民にパニックを引き起こすという理由で拒否された。次いで、彼はポーランドの同僚にもすぐさま連絡し、すぐヨウ素の錠剤を配布するように促した。そのため、ポーランドでは…甲状線ガンのリスクを避けることができた」(注2)。実際に、ポーランドでは子ども1050万人、大人700万人が服用したという。(注3)

◇福島県HPによると、小児甲状腺ガン発症が、昨年12月末までに検査25万件中「75件」(検査率67%、発表2/7)に達した。これを単純に計算すると「100万人に300人」となる。通常、小児甲状線ガン発症は「100万人に1人」(御用学者は1~2人)とされているから、この発症数は通常の300倍(150倍)となる。成人時被曝の甲状腺ガンも、遅れてその後に続くはずである。小児甲状腺ガンの発症は、事故1年後から発症し、4年後から急増(40倍)したという。この事実はチェルノブイリ現地研究者の報告によって明らかにされた。

◇これまで世界の定説とされてきた、甲状線ガンの潜伏期間は「10~15年」であった(放影研論文、注4)。その他の潜伏期間の通説もことごとく誤りであることが、チェルノブイリの事実によって立証されようとしている。そればかりではない。既成の通説の発信源、広島・長崎の原爆資料は「偽り」「不完全」(注5)と断罪されている。いまや、被曝の真実はチェルノブイリでしか見出せないほどである。広島・長崎の原爆資料を占有している「日米共同研究機関・放影研」も、その誤りを大幅に訂正している。たとえば、潜伏期間の臓器別設定(10~30年)を撤回して、すべて「10年」と改訂し、白血病の潜伏期間は半分に短縮した(注6)。また、20歳の被曝危険度は30歳に比べて29%高いという統計結果を発表した(第14報、12年)。これらの訂正は不完全とはいえ、明日の福島事故災害を考えるうえで、御用専門家の虚説に重要な示唆を与えている。

◇今後、福島県外や首都圏でも、ヨウ素131、132などの短寿命核種による大量の初期放射線の被曝による発症増が懸念される。その他の放射性核種による累積被曝が懸念される。それに対する当面の最善の被曝防護はいくつもある。非汚染地域への集団避難は、いまも緊要な課題である。また、小児甲状腺ガンについては、広範囲に精密な血液・尿検査を行い、早期発見をすること。さらに、被曝拡散防止、内部被曝・外部被曝の累積被曝を阻止すること。詳細な汚染分布を明らかにして、土壌汚染(ベクレル)、空間線量(シーベルト)の環境汚染の実態を解明し、情報を提示し、住民が納得できる対策を講じることである。「不安を煽る」元凶は、事実の隠蔽である。正確な事実を知ることが正しい被曝防護の大前提となる。

(注1) 文科省委託研究「チェルノブイリ事故の健康影響調査報告書」p.136、2014年2月公開。 
(注2) コリン・コバヤシ『国際原子力ロビーの犯罪』p.152、以文社)。
(注3) 原子力安全委第28回被曝医療分科会、12/7。
(注4) 放影研論文『原爆放射線の人体影響1992』(文光堂、p.14)
(注5) ホリシュナ『チェルノブイルの長い影』p.77、新泉社
(注6) 2009年、白血病潜伏期間、放影研「リチャードソン論文Fig.1、」。2013年8月22日、固形ガン潜伏期間、放影研「現時点での私たちの理解」、筆者への放影研疫学部広報室回答)。




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