この事件については内容がよくわからないのでなんとも言えないのだが、
この事件から離れて、弁護人が証拠隠滅に加担したならば当然処罰されるべき。
そのことは措いといて、
この記事の最後にある
という部分について。
この記事を書いた岩田恵実記者は何を根拠に書いているのだろうか。
拘置所や警察署などに収容されている人と弁護士との面会について、刑事訴訟法や刑事収容施設法という法律があるが、そのどこにも「弁護人が接見室に入るときには携帯電話を持ち込んではならない」などという規定はない。
「禁止」をするには、ルールがあるはずです。
拘置所といった国家が、一市民である弁護士に対してある行為を「禁止」するには、法律によるのが基本です。
ではなぜこの記者は「接見室には弁護人も含めて携帯電話の持ち込みが禁止されている」と書いたのか。
それは、拘置所や警察署が弁護人に対して一方的に「携帯電話持ち込みは禁止しています」と言っている(あるいはそのような貼り紙をしている)からだと思われる。
この「携帯電話持ち込み禁止」について法律の根拠はないのです。
(ちなみに国は、このことが問題になったときには「施設管理権」が根拠だと言うことが多いです)
弁護人と依頼人との接見室での面会は、憲法上秘密が保障されています。誰も立ち会うことは許されません。
では、弁護人は何をしてもいいのかと言われれば、もちろんそんなことはない。
弁護人が証拠隠滅行為などに加担してはいけないことは当たり前で、それは職業倫理によって担保されています。
(倫理に悖る行為があれば当然懲戒される)
警察署や拘置所の接見室で弁護人が何を持ち込むか、そこでどういう方法で法的なアドバイスをするかなど干渉されるいわれはないんです。
実質的に見ても、いまやスマートフォンにはあらゆる情報が入っており、例えばスケジュールなどもすべてスマートフォンに入っているし、事件の資料もスマートフォンからアクセスすることもできる。
接見室で依頼人と打ち合わせをするときに、「次にいつ面会に来れそうですか?」と聞かれれば、スマートフォンのカレンダーアプリを見ないと少なくとも私は答えられません。
依頼人から「前回の証人のあの証言、私はおかしいと思うんですけど?」と聞かれれば、自分の備忘メモにアクセスしないと正確なアドバイスはできないかもしれません。
接見室にスマートフォン(携帯電話)を持ち込むことを禁止することは、明らかに依頼人が弁護人から十分な援助を受ける権利を侵害するものであるし、弁護人にとっても十分な防御を尽くすことができなくなるんです。
法律の規定によらずに(「施設管理権」というよくわからないものを根拠に)弁護人が接見室に携帯電話を持ち込むことを禁止するなんてことは許されないんです。仮に「禁止」したら違法、違憲だと私は思います。
そして実際にも、警察署や拘置所で私たちが接見をする際に携帯電話をどうしているかというと、千差万別です。
職員から「携帯電話持ってますかー?持ってたら中で通信しないでくださいねー」という注意喚起だけの場合もあれば、
「もしよかったら預けてください」などと言われ、こちらが「いや、お断りします」と言えば、あちらも「あ、そうですか。わかりましたー」という反応のこともある。
中にはもっと強く要請をしてくるケースもある。
もしこれが一般的に「禁止」されているのだとすれば、こんな対応にはならない。
話は朝日新聞の記事に戻って、この記事を読んだ読者はほぼ全員が
「接見室には弁護人も含めて携帯電話の持ち込みが『禁止』されている」としか思わないだろうし、
その『禁止』をかいくぐって携帯電話を持ち込んだことが悪いんだと思うだろう。
しかしそれは誤りです。
(もしこの記事通りの事実があったならば)悪いのは、中で携帯電話を証拠隠滅行為に用いたことそのものなんです。
そして弁護士にはそのようなことをしない職業倫理があり、そのような倫理によって弁護人と刑事被告人との関係は保たれてる。