②今の日本でマネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えない理由

 

 今の日本では、金融緩和による景気回復効果に疑問の声がありますが、その一つの指標として、金融緩和を行ってマネタリーベースを増やしても、金融機関が融資(信用創造)に熱心ではなく、したがってマネーストックが増えなくなっていることがあります。

 マネーストックが全く増えないのではなく、財政政策で政府が債務を拡大して支出した分だけは増えるのですが、金融政策における金融緩和の効果としての金融機関による民間への信用創造によるものが増えていないのです。

 他に、日銀が直接金融市場(証券市場)から株式や債券を買い入れたときは、中間省略で財市場に貨幣が供給され、マネーストックとマネタリーベースが同時に増えます、これは金融緩和の一種であると言い張ったとしても、貨幣供給政策として中小企業政策と競合する露骨な大企業優遇であ、むしろ中小企業などの弱者を保護しなければならない政府の政策としては考えられないもので、海外では禁止されているものです。

 このような方法では低所得者や貧困層への所得の分配は行われず、景気回復の役に立ちません。

 なぜ、このような大企業優遇をするのかというと、自民党が経団連の株主に代表される国際投資家の下僕となっているからです。

 日本は世界の中でも特殊な国で、恥知らずにもそれが行われているのです。

 日本では異議を唱える野党政治家や経済学者がいません。だから、与党自民党はやりたいようにやっていす。野党政治家や経済学者もまた国際投資家の下僕となっていると言って過言ではありません。彼らの共通する野心は、大金持ちの国際投資家たちに、自分たちの存在を知ってもらい、抱きかかえられたいばかりなのです。

 信用創造は中小企業にとって投資の源ですから、信用創造が増えていないということは、中小企業の投資が行われていないということです。

 2013年4月に、安倍政権が日銀に行わせた金融緩和政策においては、株価は急上昇しているのですが、マネーストックは金融緩和に見合う増加を見せていません。

 金融緩和を行っても、信用創造が増えないというのなら、それは金融政策が効かない異常事態が起こっているということですから、まず、金融制度の点検を行わなければならないはずですが、統計しか目に入らない統計主義者は、金融緩和は無駄だったと言うばかりで、その原因には触れようとしません。それどころか、金融制度の点検を除外した提案を行おうとします。

 金融制度の点検を除外した提案とは、金融政策以外のマネーストック拡大政策です。一つは、「貿易黒字の拡大=国際競争力強化」、もう一つは、民間が投資しないことが原因であるので、民間の代わりに政府が投資すれば良いという一般的な「積極財政政策」です。

 いずれの場合でも、金融政策が効かない異常事態から関心が逸らされることになり、解決になりません。

 ちなみに、なぜ、貿易黒字によってマネーストックが増えるかというと、輸出企業は貿易で得たドルを持ち帰り金融機関Aに持ち込みます。金融機関Aはドルを引き受け、円を輸出企業に引き渡します。これによりマネーストックが増えます。

 マネタリーベースについては、一旦、金融機関Aの準備預金は減りますが、輸出企業が円に換金した資金を他の銀行に預金することで全ての金融機関の準備預金を合計した総準備預金は元通りに回復されマネタリーベースは変化しません。

 金融機関Aはドルの買取りで準備預金が減りますから、輸出企業から買い取ったドルを外為市場などで買い手を募集して、結果的に政府に買い取ってもらい、準備預金を回復します。

 政府がドルを買い取るときの資金調達方法は、必ず民間から借り入れなければならないことになっていますから、つまり、国債を発行して民間に引き受けさせることになっていますから、政府債務を拡大し、例えば、国債を他の金融機関Bに買い取らせ、それで得た円で金融機関Aからドルを買い取ります。

 この時点で、金融機関Bにおいて準備預金が減り、保有国債が増えます。

 金融機関Bにおいて準備預金が減った分、金融機関Aの準備預金は回復していますから、準備預金は国債を抱えさせられた金融機関Bから金融機関Aに付け替えられています

 日銀が外貨を買い取れば簡単なのですが、その場合、マネタリーベースが増え、金融緩和と同じになりますから、日銀が外貨を引き取ることはほとんどありません。だから、政府が国債を発行して予め貨幣の回収を行い、その資金で政府が買い取ります。

 ただし、金融緩和が行われている場合は、金融機関Aもまた準備預金を十分持っていますから、あわてて、政府や日銀に買い取ってもらう必要はありません。その場合は海外投資をしようとする者に、円キャリートレードなどのように、低金利の円で融資し、同時に外貨と交換し放出しますから、結果的に低金利で、外貨で融資することと同義になります。

 政府が金融機関Aから外貨を買い取る場合は、金融機関Bは予定している以上の国債を保有し、準備預金を減らすことになりますから、金融機関Bは日銀に金融機関Bの保有する国債を買い取ってもらい準備預金を回復します。

 そうすると、金融機関Bの準備預金が回復されることにより、マネタリーベースは回復します。

 これらは、大量に行われれば為替介入の様相になりますが、言い換えれば、為替介入は、輸出企業が持ち帰った外貨の買い取りの言い訳になります。

 これによって、結果的に政府の国債発行高が増え、マネタリーベースが増え、マネーストックが増えています。これは、法的に定められた以上のような事務的な手続きを捨象して、貿易黒字で持ち帰った外貨を、政府が、直接買い取ったと考えれば、簡単に、マネーストックとマネタリーベースが増え、このとき政府債務が拡大されることが判ります。

 つまり、貿易黒字は、結果的に、政府債務の拡大をもたらします。

 この場合の政府債務の拡大は政府の責任ではなく、貿易黒字によるものですから、財政均衡派に責められることはありません。だから、政府債務を、文句を言われないで増やす方法は、貿易黒字を増やせば良いということになるのです。

 このように統計しか見ていなければ、誰の貨幣を増やしても同じなので、国際競争力強化で貿易黒字を増やせば、マネーストックが増え、景気が良くなると嘘をついている大企業とその株主が喜ぶだけの結論になります。

 しかし、貿易黒字による国内への貨幣(マネーストック)供給は、大抵が大企業である輸出企業とその株主(国際投資家)が、その最初の貨幣を手に入れます。

 そして、国際投資家に貨幣が集中すると、低所得者や貧困層へ貨幣を分配しませんから、格差が拡大し、投機的貨幣需要(休眠貨幣)が増大するだけで、景気は良くなりません。すなわち、トリクルダウンは起こりません

 それにも関わらず、自民党がそれに固執するのは、自民党の支持基盤の輸出企業(経団連をはじめとする大企業とその株主)の要望を優先するからです。

 これに対して、財政政策によってマネーストックを増やす政策は、政府が国債を発行し、低所得者や貧困層の減税をし、給付を増大させ、さらに、低所得者や貧困層に行き渡らせるように公共投資を行います。これ内需拡大であり、中小企業と労働者がその最初の貨幣を手に入れます。

 中小企業は無数に存在し、低所得者や貧困層に貨幣を拡散させ、平等な社会を実現する現実的な方法となります。そして、同時に、低所得者や貧困層において取引的貨幣需要(活動貨幣)が増大するので一定程度の景気回復ます。

 だから、財政政策は積極的に行わなければならないことは当然であって、そのこと自体に異存はないのですが、財政政策では一定程度の景気回復しか出来ないと言っているのは、金融によって中小企業などの底辺の国民にも投資するチャンスが回って来なければ、民間の投資によって、国民が望む文明や文化を創造できません。

 ゆえに、金融緩和が出来なくても、それを放置して、財政政策だけで乗り切れば良いという考え方では、国の方針が変われば一夜で全てがひっくり返ってしまい、国民の信念も生まれなくなってしまいます。

 やはり、金融機関が中小企業などの底辺の国民と一体となって資金を供給する体制を堅固なものとし、ちょっとやそっとの、外国資本や新自由主義政府が介入したところでビクともしない中小企業金融を柱とする体制を造らなければならないのです。

 今、日本中に徘徊している経済評論家たちは、金融緩和に効果がないので、それは放置して、そこからは逃げ出して、財政政策をやれば良いという問題のすり替えばかりやっているからダメなのです。

 金融緩和に効果がないのは、日本の場合は、明らかな間接金融に関わる制度の意図的な破壊が行われているからです。

 間接金融は、中小企業と労働者にとって、ほとんど唯一の投資の財源です。

 政府の政策は、財政政策にせよ、金融政策にせよ、それによって増やす貨幣はどういう性質の貨幣なのか、つまり、それが低所得者や貧困層への所得再分配に使われるのかどうか、平等の実現の役に立つのかどうかという問題意識を持たなければなりません。

 なぜならは、平等の実現こそ民主主義的な近代国家があらゆる経済政策の中心に据えるべき普遍的な課題だからです。

 取引的貨幣需要(活動貨幣)を増やそうとするのであれば、内需型産業の中小企業の貨幣を増やす以外にありません。

 その理由は、内需型産業である中小企業は社会の底辺であり、労働分配率が高く、地方の田舎町の隅々にまで存在するだけではなく、正に、底辺の労働者に所得を分配し、国民を豊かにする部門だからです。

 財政政策においては、中小企業や低所得者に対する減税を行い、社会保険料を減らし、同時に、社会保障給付金を増やし、公共投資によって雇用を創り出さなければなりません。

 金融政策においては、間接金融を機能するように資産政策(地価政策)および金融制度(BIS規制等)を緩和しなければなりません。

 その視点を持って始めて、日本ではいくら金融緩和を行っても信用創造が増えないという金融制度の欠損に対することが出来す。

 次に、日本には、金融制度の点検をサボタージュしようとする者たちの理屈に、「流動性の罠」に陥っているとみなすものがあります。それが、今の日本には当てはまらないということを説明しておきます。

 流動性の罠は、デフレの世の中では生産してもモノが売れないので、企業が投資しようとせず、したがって、企業自身が債務を拡大しようとしないという民間の意志が存在すると言うものです。流動性の罠の焦点は民間の意思の所在にあります。

 ケインズの時代には流動性の罠の可能性がありましたが、ケインズの想定した流動性の罠が起こるのは、金融制度が健全である場合に限られるものであり、現在の日本のように金融制度が資産制度とBIS規制で壊死させられているのでは、投資家の気持ちなど何の関係もなく、「流動性の罠」もへったくれもありません。

 金融緩和をしても、デフレ不況下においては、投資は不利であるため、誰もお金を借りようとしない状態を「資金需要が無い」と言いますが、「資金需要が無い」とは、経営者や投資家が「自分の意思」で投資しても儲からないと思い、借り入れを思いとどまるという意味です。

 また、経営者や投資家が「自分の意思」でお金を借りようとしない状態を「流動性の罠」にハマっていると言います。

 現在の日本において、こうしたケインズ経済学の「資金需要が無い」とか「流動性の罠」とかの形式的な適用が間違いであるのは、民間の意思という「借り手の動機」としては、中小企業には借りようとする「民間の意思」はあるからです。

 中小企業や個人商店は資金繰りに困っているだけでなく、何か新しい事業を始めようとしてもどこにも貸してくれるところがないという起業の面でも困っています。

 中小企業金融円滑化法による緊急保証制度によって、担保なしの融資が行われたときは、中小企業はこれに殺到しました。

 これは、「資金需要が無い」や「流動性の罠」とは明らかな矛盾です。

 そもそも、中小企業金融円滑化法を制定しなければならないこと自体が、金融機関の融資の姿勢と中小企業の資金需要にズレがあることを示しています。経済学的にこれは非常に奇妙なことなのです。

 事実は流動性の罠ではなく、お金を借りたい経営者や投資家が居ても、金融機関が、地価下落制度やBIS規制に縛られて中小企業融資に対してお金を貸せないということです。

 これまで行われて来た金融改革を考慮せずに、学者グループが慣習的に「流動性の罠」や「資金需要が無い」を連呼していたのでは、到底、現代の日本の不景気の原因を突き止めることは出来ません。

 日本には、地価下落政策とBIS規制という、間接金融を妨害する破壊的資産制度と破壊的金融制度という二つの大きな障壁がありますから、仮に、積極的な財政政策が一時的に奏功し、一時的なインフレ状態が生まれたとしても、間接金融が回復することはな、景気も回復しないのです

 確かに、「異次元の金融緩和」で株価は上がりました。しかし、株価の問題は大企業だけのものであり、しかも一時的なものに過ぎません。

 金融緩和で株価が上がった理由は、(日銀がETF(上場投資信託)を買い入れているというデタラメを除けば)、一部に、金融機関が大企業への融資を拡大し、大企業が生産設備への投資を増やし、利益を増大させるだろうというお祭り気分があったからです。

 ところが、金融機関はすでに以前から、BIS規制を徹底する方法として金融検査マニュアルが導入されたのを契機に、金融検査マニュアルに対して不利にならない相手として大企業に融資を持ちかけています。

 しかし、大企業は、日銀による特別な優遇や貿易の好調から内部留保金を潤沢に保有しており、金融緩和が大企業への融資に繋がることはありませんでした。

 株価が上がったもう一つの大きな理由が日銀によるETF(上場投資信託)の買い入れです。こちらの理由の方がダイレクトで強烈です。

 安倍政権発足時、黒田日銀異次元緩和時において、株価が上がったのは、日銀がETF(上場投資信託)の買い入れを倍増したからです。海外では禁止されている政策ですが、日銀は証券市場で大企業の株式を買っています。

 これを金融政策の一種だと言っているようですが、片腹痛いというしかありません。日銀が貨幣を印刷して、大金持ちの誰かに何億円かの貨幣をプレゼントして、これはマネタリーベースを増やすので金融政策だと言っているということです。

 実際、日銀はお金を出すだけで、経営には口出ししませんから、理想的な旦那衆です。

 この場合、金融政策に分類されるかどうかは問題ではなく、このようなやり方で富裕層に金をくれてやることが合法的なのかということです。

 海外の中央銀行はどこもやっていないし、アメリカでは禁止されています。

 国民生活に何の恩恵ももたらさない、ただ、株価を維持し、投資家に損失を出させないためだけの、そして、経団連など大企業の株主の自民党支持を取り付けるためだけの偏った政策です。

 自民党政府は、そもそも、企業の資金調達の主流を、間接金融(信用創造)から直接金融(証券市場)に転換させようとしていると言われていますが、実態はそんな悠長なものではなく、もと露骨であり、税制、財政政策、金融による中小企業つぶしと、上場企業と国際投資家たちに対して株価を吊り上げてやる程の利益供与をあからさまに行っているのです。

 これほどの大規模かつ露骨な中小企業つぶしと、片や、これほどの大企業・投資家へのエコ贔屓の組み合わせは前代未聞であり、もはや犯罪的でさえあります

 

 

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