②政府財政においては借入と返済のイメージから脱出しよう

 

 先進諸国は長い間、インフレに悩まされて来ましたので、経済政策のルールは大体インフレ抑止のためのルールとなっています。

 だから、今、大抵の国の政府は、貨幣を発行して政府支出しようとする場合は、税収による民間からの貨幣の回収が足りなければ、足りない分については国債で回収することで財市場の貨幣量(マネーストック)の増加を抑制しているのです。

 こうした貨幣に関する政策を考える場合、民間保有国債については、民間の保有する貨幣を回収するという表現より、凍結するという表現の方がしっくり来ます。

 なぜなら、国債は、民間同士の金銭貸借と違って返済されないリスクはないからです。

 対民間国債の「民間」というのは、金融機関、保険会社、個人投資家などを指します。

 マネーストックの供給という意味では、金融機関による政府からの国債の買い取りは、民間に対する一般的な融資活動(信用創造)とまったく同じです。

 ただし、民間の場合は、融資が実行されたときに、政府の場合は、政府支出したときにマネーストック増加します。

 金融機関による国債の買い取りの場合、金融機関はマネタリーベースによって制限されている融資枠の一部を使うことになり、これもまた、信用創造と同じです。国債の発行から政府支出までを通して見るとマネタリーベースも変化しません。

 また、民間は、融資を受けるときに、その金融機関の準備預金が減少し、引き出した金額を同時にいずれかの金融機関へ預金しても、現金でそのまま持っていても、全体のマネタリーベースは維持されます

 日銀が金融緩和によって金融機関に発行済みの国債を買えば、つまり政府部門から民間へお金が返済されれば、その銀行にとっては単純に準備預金が回復し融資枠が回復されるだけですが、その国債を発行するとき同時に行った政府支出ですでに全体のマネタリーベースの増減はなくなっているので、日銀が金融機関の保持している国債を買うことで全体としてのマネタリーベースはその分だけ増加することになります。

 民間の貸借の返済方法と異なる点は、民間の場合は、必ず民間が市中のお金をかき集めて、したがって、マネタリーベースを変えずに相手側に返済しなければならないのに対して、日銀は、通貨を発行し、マネタリーベース総額を増加させて、民間に返済(金融緩和)するところです。

 すなわち、政府による金融機関からの借入は、金融緩和が予想されるし、マネタリーベースの増加もまた予定されるということです。

 民間保有国債が増加しているときはマネタリーベースは増加せず、金融緊縮となり、信用創造が抑制されることによって、マネーストックの増加も抑制されるので、インフレは抑制されます。

 しかし、金融緩和が始まり、日銀が金融機関から国債を買い取り日銀保有国債が増加している場合は、マネタリーベースが増加し、普通の国ではインフレへ誘導されます。(日本はバブル崩壊以降、制度の変更が行われ、間接金融の機能が資産政策とBIS規制で破壊されていますから融資が増大することはなくインフレにも誘導されません。)

 非金融機関の保険会社、個人投資家などによって買われる場合は、マネーストックおよびマネタリーベースの両方の回収ということになります。

 ここで、ここで国債の役割を、税収による貨幣の回収の不足分を補うために行う、民間の自由意思に依存する「貨幣の回収」と見るならば、次の解釈になります。

 すなわち、『①まず、政府が国債を発行し、金融機関の貨幣(マネタリーベース)が回収される→政府がその貨幣を手に入れ支出する→金融機関の貨幣(マネタリーベース)が元に戻る。ただし、日銀は貨幣発行に関して何もしていない。次に日銀が金融緩和によって金融機関の持っている国債を引き受けるその分の金融機関の貨幣(マネタリーベース)が増える』という表現になります。

 しかし、「貨幣の凍結という概念を入れることで、次の解釈になります。

 すなわち、『政府が金融機関の貨幣(マネタリーベース)凍結する=凍結されただけでマネタリーベースは減っていない→日銀が凍結された貨幣相当額を発行して、政府がその貨幣を手に入れ支出する→日銀が発行した分だけ金融機関の保有する貨幣(マネタリーベース)が増えるが、凍結された分は使えない』という表現になります。

 「凍結」の考え方では、政府は金融機関から何も借入していないことになり、日銀の貨幣発行量(マネタリーベース)が増えるだけです。そして、増えた貨幣に相当する金融機関の保有する貨幣(マネタリーベース)は凍結されています。

 この二つが同じ現象について表現を変えたものにすぎないことは、返済を処理するときにハッキリします。

 前者の返済の処理は、『日銀が貨幣を発行する→金融機関から国債を買い取る→金融機関の保有する貨幣(マネタリーベース)が増える(返済の完了)』という解釈になります。

 後者の返済の処理は、『凍結された金融機関の貨幣の凍結が解除される→民間の貨幣が元に戻る(凍結解除の完了)、日銀はすでに貨幣を発行しているから改めて何もしない』という結果になります。

 両者で行われたことは、全く同じことであり、全く同じ量金融機関の貨幣(マネタリーベース)は増えています。

 つまり、国債の売却による民間の貨幣の回収という行為と、民間貨幣の凍結という行為は、解釈が変わっただけで、まったく同じ行為になります。

 私は、絶対にそう考えなければならないと言っているのではなく、凍結という考え方をして見ることで、債務という呼称からもたらされる強迫観念から脱し、国債の性質について今よりマシな理解が出来ると言っているのです。

 少なくとも、国債とは貨幣の凍結にすぎない考えることで、民間に対する政府債務のデフォルトの危機感は心理的に消滅します。

 考え方を変えただけで現実が変わることはありませんので、考え方を変えただけで政府債務のデフォルトの危機が消滅するのなら、最初から政府債務のデフォルトの危機はなかったということの現れです。

 だから、700兆円といわれる対民間債務はすべて凍結されているだけであり、政府に貸し出されていないと主張することが可能となります。そして、実際、その断言は経済学的にも有効なのです。

 すると、日銀と民間に対する1000兆円といわれる政府債務は、その本当の姿は、日銀が1000兆円を発行したという記録にすぎず、対日銀であろうと、対民間であろうと、債務としての実体は一つもなく、すべて日銀の貨幣発行そのものであり、その一部(民間保有国債の700兆円)は凍結されているにすぎないということがハッキリ分かるようになります。

 金融緩和を行うときは、政府が金融機関や非金融機関の貨幣に貼り付けた「凍結」という札をはずしてやり、マネタリーベースあるいは(非金融機関の場合の)マネーストックの流動性を元に戻してやることになります。

 そこで、政府が民間に国債を売る行為を「貨幣の凍結」、日銀が民間から国債を買い入れる行為を「凍結の解除」と呼ぶことにします。また、税金による徴収を「貨幣の消却」と呼ぶことにします。

 このように考えることで、財政支出はすべて「通貨発行」で行われ、通貨発行に伴うインフレ抑制対策として、税金による「貨幣の消却」、および、国債による「貨幣の凍結」が行われているというイメージが浮かんで来ます。

 インフレを起こしたくないと思えば、金融政策においては、「貨幣の凍結」を行い、または、「凍結の解除」をなかなかしないという金融緊縮政策になります。インフレを起こそうと思えば、「凍結の解除」を行います。

 民間同士の債務については「凍結」という解釈は決して出来ません。民間は根本において物々交換による経済活動を義務付けられていますから、返済するためには、必ず、自分で生産した生産物を換金した貨幣によって返済しなければならないからです。

 この、政府と民間の返済原資の調達方法の違いから、政府債務は民間で言う債務とは根本的に異なるものになるということの説明が正にこのセクションのテーマです。

 すなわち、国債による民間保有貨幣の凍結の目的は、あくまでインフレ予防措置にすぎません。政府は国債による民間資金の借入など必要としないのです。

 税金もまた、あくまで、インフレ予防措置にすぎず、政府支出を行うに際して必用のないものです

 税金を国庫に入れる必要はありません。回収した貨幣を消却し、新品の貨幣を発行すれば事足ります。

 また、財政黒字分で民間保有国債を買い取ることはありません。財政黒字となるのは好景気の時であり、そんなときに民間保有国債を買い取れば、それは金融緩和と同じもので、景気が過熱してしまうからです。

 財政黒字になり超過税収となった場合は、超過税収については日銀から国債を買い戻すことが出来るのみです。

 付言すれば、税金は貨幣の消却だけが目的なのですから、回収された金額と新しく発行された金額が一致する必要はありません。税収の統計もいいかげんで良いはずです。

 ましてや、低所得者、貧困層から取り上げるような細かい仕事はまったく行う必要はないはずです

 

 

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