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以前、都電荒川線の記事をたくさんアップしたが、そのとき妙に印象に残ったマイナーな場所があった。もちろん三ノ輪や町屋、王子も印象深かったけれど、それらはわりと知られた場所である
僕のお眼鏡にかなうからには、そんな「有名どころ」ではないことは、言うまでもないだろう
では、それがどこかと言うと……
都電荒川線と京浜東北線が交わる場所は王子である。その王子のすぐ隣から板橋までのあいだの武蔵野台地の北西の際が、あまり知られていない滝野川という地域だ
都電には滝野川一丁目という電停があり、その界隈を歩いたとき、新しい住宅街のなかに、突然古そうな邸宅や、出桁造りの商家、バラック建築の平屋などが混ざり、昔の東京と再開発に揺れる現在の東京のはざまで変わりゆく姿に、強く惹かれた
ここでも例によって、あちこちで建て替え、道路拡幅などが進行中で、古い町並みは消滅しようとしており、なんらかのかたちで記録に残しておかねば……
という気持ちもあり、それは心の片隅で、喉の奥に刺さった小骨のようにひっかかっていた
滝野川という地域にゆくには、前述の都電滝野川一丁目や板橋から向かうのが手っ取り早いが、そちらの地域は以前の記事にて、すでに散策しているので、今回は今まで数えるほどしか降りたことがない京浜東北線の上中里駅から散策をスタートした
この駅は古河庭園にゆくために、上の写真の南口で何度か降りただけで、これから向かう北口に降りるのは、正真正銘初めてである
ちなみに、なにもない駅前の坂道を登ったところにあるのが古河邸だ
駅のこちら側には、コンビニすらなく数軒の店があるだけであるが、反対側は、もっとなんにもなかった
横須賀田浦の記事で、田浦駅前にはなにもない……と書いたが、恐ろしいことに東京23区内にある駅のくせに、上中里もそれに匹敵するぐらいなんにもなかった。いや、正確にはセブンイレブンが1軒あるが、そのほかは住宅とマンションが並んでいるだけである
住宅街を5分ほど歩くと、ようやく最初の店があった。軒先テントには総合食品とあるから、現在でいうところのスーパーマーケットの一種であろう
僕が幼い日々を過ごした商店街にもこのような店があったが、いつの間にかスーパーやコンビニに駆逐されて姿を消した
撮影しようと思っていたら、ブルーグレーの薄手のカーディガンを羽織った知的な美女が買い物に訪れたが、ぼやぼやしているうちに、シャッターチャンスを逃してしまった
昭和30年代のようなレトロな店に、美女はお似合いなのに残念である
その並びには「とんかつ山六」「スナック さわ」という店があったが、どちらも廃屋にしか見えない。外観のヤレっぷりからして、ずいぶん前に廃業してしまったようだ
「さわ」という語感から、元祖セクシー女優の沢たまきを連想してしまったが、まあそれはどうでもいい
しかしそれよりも、気になったのは……
スナックさわの、軍服につける勲章のようなかたちをした、この丸い看板である。コレ、どこかで見た記憶があるなあ、と思ったら、田中長徳氏がブログにこの看板の写真を掲載していたことを思い出した
廃業しているようだが、この看板に明かりが灯ったところを見てみたいものだ
スナックさわの少し先には、やはり廃業したこんな店が
そしてその並びも、向かい側の店も、目に入る店は、ほとんどすべてにシャッターが下りていて、上中里の商店街は文字通りシャッター街の様相を呈していた
固く雨戸が閉ざされた「小出※米店」は、昔は大きな商売をしていたらしく、店舗の裏側は倉庫になっているようなので、ちょっと覗いてみると……
白黒の猫がお留守番をしていた。なでなでしたかったが、いかせん私有地のなかなので、そういうわけにもいかず、先にすすむと
リサイクルショップが営業していた。この駅に着いてから目にしたセブンイレブンを含めて、営業していた3軒目の店舗である
それにしても、こんなに地味な展開の記事が、かつてあっただろうか。いや、けっこうあるな
シャッター街の商店街を抜けると、だだっ広い東北本線の踏切があった
踏切をわたると、そこも上中里の商店街の続きのようで、ちらほらと店が並んではいたが……
やはりこちらの商店街も、ほとんどの店が廃業している感じで、開いていた店舗は、ほんの数軒であった。こちらのスナック「new ナカザト」は、やけにやる気満々のレタリングである
下の写真の店などは、店構えから蕎麦屋か寿司屋のような佇まいだが、かつて店先に風情を与えていたはずの植木が、放置されて傍若無人に繁殖してしまい、プチ・ジャングルになっていた
大袈裟にはじめたわりには、きわめて地味な展開に、この先どうなってしまうのだろうか。と、ブログの先行きに、暗雲がたちこめてきたそのタイミングで
東京のDEEP EASTのシリーズでお馴染みの明治通りにぶつかった
明治通りの奥に見えている横断歩道のさらに奥、歩道が赤くなっている先にあるのが都電荒川線の梶原である
後ろに見えているビルには、東京福祉大学“王子”キャンパスと記されているが、僕の記憶が確かなら王子はふたつ先の駅だ。つまりこれは“東京”ディ○ニーランドと似たような一種の詐称だな
まあ、東京福祉大学“梶原”キャンパスでは、地方から上京した者には、梶原などといっても、それが足立区にあるのか、杉並区にあるのか、見当もつかないだろうから王子にしたのか
しかし、王子だって「王子ってどこだ? 八王子の隣か?」という、無用の悩みを抱かせてしまうのではないだろうか。とはいえ、浦安にあるのに東京と言い張っているネズミの国よりは罪がないだろう
余談だが浦安には猫実というかわいい地名があり「ねこざね」と読ませる。現在はなんてことのない地味な町だが、江戸時代の千葉湾岸方面では、船橋や行徳と並ぶ賑やかな町だったそうだ
明治通り沿いには……
「noble」という屋号の渋い床屋があった。ノーブル、つまり貴族的という意味合いだろうか。こちらは元気に営業しているようだ
そういえば大森には、「ダンディ」という床屋があったな。あと、どこかで「ダンデー」という床屋も見た記憶がある
その先で都電荒川線を撮影して、梶原という電停(電車でいうところの駅のこと)に向かうと、にわかに信じられないような光景が目に入った
これはビックリ。なんと駅のプラットホームが古書店になっている、というか、ホームの階段の横が古書店である
キオスクのような駅の売店なら別に当たり前だが、古書店というのは、日本全国的にも珍しいのではないだろうか?
どう見ても今ではあまり見かけなくなった、昔ながらの町の古書店である
一応、店のなかも覗いてみたが、とくに欲しくなるような本はなかったが、古書店というのはタイミングに尽きるからしかたない
都電の電停の先には梶原の商店街があるので、そちらに向かうことにして、駅をあとにした。あらかじめ断っておくが、次回もきわめてマニアックかつ地味な展開になるはずだ
続く
†PIAS†
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