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集会の自由 プリンスホテル日教組会場使用拒否事件(東京高裁平成22年11月25日判決)

テーマ: 憲法
1.はじめに
 自治体の公民館など「公」の施設の使用拒否が集会の自由の観点から争われた事件について、平成7年、同8年に相次いで最高裁判決が出されました。それに対して、集会に対する「民間」のホテルの使用拒否が争われた注目すべき判決が平成22年に出されました。本判決は下級審判決ではありますが確定しており、実務や学説などに与える影響は大きいものと考えられます。

■参照
「公」公民館の使用拒否については、こちらをご参照ください。
・公民館等の使用不許可と集会・表現の自由/泉佐野市民会館事件判決

2.事案の概要
 Ⅹ(日本教職員組合)は、平成20年2月2日から4日に教育研究のための全国集会を開催するために、平成19年10月までにY(株式会社プリンスホテル)との間で、Yの経営するホテルの2つの宴会場の使用契約を締結し、また客室の190室の宿泊契約を締結した。
 しかしYは、同社の会場利用規約の「他のお客様にご迷惑になる言動」の条項を根拠とし、“全国集会に反対する右翼団体の街宣活動等による他の顧客および近隣等への迷惑等”を理由として、同年11月12日付の書面によりこれらの契約を解約したとして、各宴会場および客室の使用を拒否した。
 これを受けてⅩは同年12月4日に本件各宴会場の使用を求めて東京地裁に仮処分命令を申し立て、同月26日、東京地裁から申し立てどおりの決定を受けた。これに対してYは保全異議の申し立てなどを行なったが、平成20年1月30日の東京高裁の決定により、Ⅹの申し立てどおりの仮処分命令が確定した。
 ところがYは引き続きⅩに対して各宴会場の使用を拒否したため、Ⅹは予定していた全国集会を開催することができなかった。また、Yは自社のウェブサイト上において、Ⅹを批判する内容の記事を掲載したり、記者会見を行なうなどした。
 そこでⅩはYに対して使用契約等の債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を請求する等の訴えを提起した。東京地裁はほぼ全面的にⅩの主張を認める判決(東京地裁平成21年7月28日判決)を出したため、Yが控訴した。

3.判旨(東京高裁平成22年11月25日判決[確定])
 原審(東京地裁)の判示を一部変更したが、損害賠償請求については原審の判示を認容した。原審のⅩの損害賠償請求についての判示は次のとおり。
 「Yの行為は本件各使用契約に基づく債務不履行に該当する。また、本件仮処分命令等に反してなされた本件使用拒否は、民事保全法の予定しない違法な所為であるとともに、本件仮処分命令等によって保護されるべきⅩの集会を開催する権利を侵害する行為である。本件使用拒否は、Ⅹによる本件各集会の中止を余儀なくさせるものであって、円滑な全国集会の運営を阻害するものであるから、違法であることは明白であり、かつその違法性は著しく、不法行為にも当たる。」
 「Yらは、本件宴会場利用規約に基づき、本件各宴会場契約を解除できると主張する。規約に定める「他のお客様のご迷惑となる言動」とは、法令又は公序良俗に違反する行為に準ずる程度の不利益をほかの利用客に与える行為であると解するのが相当であるところ(中略)、本件各宴会場において本件各集会を開催したとしても、そのような程度の不利益が他の利用客に生じると認めるに足りる的確な証拠はない。」

4.検討
(1)本判決の意義

 本件は集会の自由・表現の自由(憲法21条)と営業の自由・財産権(憲法29条)がぶつかりあっており、憲法上のトピックである「敵意ある聴衆の法理」や「パブリック・フォーラム」論に関連する問題を含んでいます。そして本判決の意義は、とくに伝統的な「パブリック・フォーラム」とは性質を異にする「私的フォーラム」においてなされる表現活動・集会活動にも法的保護を与えた点にあります。

(2)敵意ある聴衆の法理
 「敵意ある聴衆の法理」とは、「敵対的な聴衆」(本件でいえば右翼団体)の妨害に対して警察力による混乱防止が不可能な特殊事情がなく、公共の安全を脅かす明らかに差し迫った具体的・客観的な危険も予見されない場合、「公の施設」(地方自治法244条)における集会(本件でいえばⅩの集会)のための利用拒否は許されないとする判例の考え方であり、上尾市福祉会館事件(最高裁平成8年3月15日判決)がこの法理を採用したと解されています。

 本件の原審は、本件各宴会場の利用規約の「他のお客様にご迷惑になる言動」を厳格に解釈し、本件集会が開かれたとして、他の利用客等への重大な不利益が発生することを認めるに足る的確な証拠はないと認定しており、本高裁判決もそれを支持しています。

 そのため、本判決は、従来は公的な施設を対象とした考え方であった敵意ある聴衆の法理について、民間の施設においてもこの法理は適用され、公的な施設とほぼ同等の基準によることとして、集会の自由を重視した判決であるといえます。

(3)パブリック・フォーラム論
 パブリック・フォーラム論はもともとアメリカの判例において形成された理論が、日本でも取り入れられたものです。アメリカのパブリック・フォーラム論は、「表現活動のために公共の場所を利用する権利は、場合によってはその場所における他の利用を妨げることになっても保障される」とする理論です。公的な場所を対象とする考え方であるため、アメリカでは私的な施設を「公的」なパブリック・フォーラムと同等に扱うことに対しては消極的であるとされています。

 日本でパブリック・フォーラム論が大きく注目されたのは、私鉄(京王線)の駅構内におけるビラの配布の規制が争われた吉祥寺駅事件(最高裁昭和59年12月18日判決)の伊藤正己裁判官の補足意見です。この補足意見において伊藤裁判官は、道路、公園、広場など、一般公衆が自由に出入りできる場所を「パブリック・フォーラム」と呼び、「このパブリック・フォーラムが表現の場所として用いられるときは、所有権や本来の利用目的のための管理権に基づく制約を受けざるをえないとしても、その機能にかんがみ、表現の自由の保障を可能な限り配慮する必要があると考えられる」としています。

 わが国の裁判所は、このパブリック・フォーラム論の影響のもと、公の施設における集会のための施設使用の拒否について、集会の自由をできるだけ尊重する判断を示してきました(泉佐野市民会館事件(最高裁平成7年3月7日判決)上尾市福祉会館事件(最高裁平成8年3月15日判決))。本判決もこの流れに沿っているものと考えられます。そして本判決のとくに注目すべき点は、公民館などの伝統的な「パブリック・フォーラム」とは性質を異にする民間企業のホテルという「私的フォーラム」においてなされる表現活動・集会活動にも法的保護を与えた点であると考えられます。

5.参考文献
・松田浩「プリンスホテル日教組大会会場使用拒否事件控訴審判決」『平成23年重要判例解説』24頁
・永山茂樹「ホテル宴会場を集会に利用する権利」『法学セミナー』662号126頁
・岩本一郎「日教組の教研集会会場使用拒否事件」『法学教室』350号28頁
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ〔第4版〕』349頁
・芦部信喜『憲法 第6版』214頁

平成23年度重要判例解説 (ジュリスト臨時増刊)



憲法1 第5版



憲法 第六版





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