集団的自衛権/憲法解釈の変更と憲法改正の限界 | なか2656のブログ

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 本日は憲法記念日ということで、久しぶりに憲法のテキストを開いてみました。
ここ最近、「憲法解釈」などが非常にホットなテーマとなっており、このテーマに関してはさまざまな切り口での考え方が可能であると思うのですが、この記事では憲法という法分野における、「憲法改正の限界」という切り口で考えてみたいと思います。

1.憲法改正の限界
 憲法96条は憲法改正の手続きについて定め、近年、その手続法である国民投票法(日本国憲法の改正手続に関する法律)が制定されました。それでは、これらの規定にしたがえば、あらゆる憲法改正ができるのかどうかが問題となります。

 この点につき、憲法前文第1段後段は国民主権の原理を「これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」と規定し、11条が「この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」と規定し、憲法97条が「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」などと規定していることから、日本国憲法は「国民主権」「基本的人権」を根本的な規範(人類普遍の原理)とする西欧で生まれた近代憲法の考え方を踏襲したものであるといえます。そのため、人権と国民主権の原理に反する憲法改正は認められず、憲法改正には限界があることになり、これがわが国の憲法学の通説といえます。

2.国民主権・人権
 それでは憲法改正の限界との関係でどのような事柄が改正できないかが問題となりますが、まず、上で触れたように、「国民主権」「人権」は憲法の基本的な規範であるので、これらを改正する内容の憲法改正は認められません(ただし、この「人権」については、基本原則が維持される限りは、個々の人権規定に補正を施すなどの改正は認められるとされています)。

3.憲法改正手続
 民主主義(国民主権)に基づく憲法は、国民の憲法を制定する力(制憲権)によって制定される憲法であり、憲法改正(権)は、いわば「制度化された制憲権」なので、憲法96条の定める憲法改正のための国民投票制度は憲法の基本的な規範であるので、この改正は許されないことになります。

4.平和主義
 憲法前文第1段前段で「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」と規定され、同第2段が平和的生存権を定め、同第3段で国際協調主義が「普遍的なもの」であると規定され、憲法9条1項が戦争を「永久に」放棄すると規定していることから、平和主義も憲法改正で改正することのできない限界とされます。

5.憲法9条2項と集団的自衛権
 平和主義に関して学説の通説的見解と政府見解とで特に見解がわかれているのは、憲法9条2項が保持を禁止している「戦力」とは何かという問題です。学説の通説的見解は、「戦力とは軍隊および有事の際にそれに転化しうる程度の実力である」とします。

 一方、政府見解は、9条2項を学説よりゆるやかに、「戦力とはわが国の防衛のために必要な最小限度を超える実力をいう」とします。

 最近非常にトピックとなっている「集団的自衛権」とは、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利(1985年9月27日政府答弁書)」とされています。

 この集団的自衛権に関して政府見解は、「わが国が国際法上、集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然であるが、9条のもとにおいて許容されている自衛権の行使は、わが国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであり、集団的自衛権を行使することは、わが国に対する急迫不正の侵害を直接対処するものではなく、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない(1981年5月29日政府答弁書)」としています。

 すなわち、これまでの集団的自衛権に関する政府見解は、9条2項により許される実力は「わが国の防衛のために必要な最小限度」のものであるとする考え方をベースにしているのであって、現内閣が行なおうとしている集団的自衛権に関する「憲法解釈の変更」は、9条2項の「戦力」に関するこれまでの政府の考え方を大きく変えるものです。

 もちろんこの問題に関しては、政治的、経済的、法律的にさまざまな見解があるのは当然ですが、うえでふれた通り、この「憲法解釈の変更」に係る事項は、憲法改正の限界に抵触しかねない、すなわちわが国の最高法規たる憲法の根幹にかかわる重大な問題です(憲法98条)。

 もし政府・与党がそのような変更を行なうのであれば、憲法解釈の変更ではなく、憲法改正の手続きが必要ではないでしょうか。

その前提として、主権者である国民による十分な時間をかけた議論が必要です。

少なくとも、ある内閣の一存で性急に決せられる事項ではないと思われます。憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負う総理その他の国務大臣、国会議員の方々は十分承知のことだとは思うのですが。

■参考文献
・石村修・浦田一郎など『基本法コンメンタール憲法 第5版』40頁、434頁(水島朝穂執筆部分)
・芦部信喜・高橋和之『憲法 第3版』54頁、362頁
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅱ 第4版』397頁

「憲法改正」の真実 (集英社新書)



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