2018年オータムクラシック:少しも逃さず、焼き付けておこう | 覚え書きあれこれ

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記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

頭の回転が半分くらいのスピードに下がっているので記事を書くのに時間がかかってしょーがない。

 

打ち間違いやら、妙な言葉遣い、何度読み返してもやらかしてるんですわ。皆さん、気が付いたらそっと教えてね。それかもう、見逃してやってください。

 

これがオータムクラシックに関して最後の記事になるよう、頑張って書いてしまいます。

 

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前記事の続きです。感じたこと、印象に残ったこと。。。

 

③ローマン・サドフスキー君の入賞が嬉しい。

 

スケーターの身体的な成長・変化は良く取りざたされますが、ここのところ、カナダ男子は異常に身長が伸びています。ナム・ニューエンをはじめ、コンラッド・オーゼル、そしてローマン・サドフスキー、彼らは皆180センチ近いか、それを超えているか。

 

男子はパワフルな体を得るとジャンプには有利なのかも知れないけれど、柔軟性を失ったり、急な成長によって軸の合わせ方が分からなくなったり、マイナスな面もたくさんあるようです。

 

ローマン・サドフスキー選手がカナダ選手権で4位に入ったのは2015年1月、彼がまだ15歳の時でした。素晴らしいスピンを持ち、美しい着氷姿勢が彼の強みでした。それから数年、ジュニアグランプリ大会で良い成績を収めたものの、徐々に身長が伸びて、何となく長い手足をや大きくなった体を持て余しているように見えました。ジャンプ、特にトリプル・アクセルが安定しない時期が長く、どうなるのだろうかと心配した記憶があります。

 

しかしどうやら今シーズンは調子が良さそうだ、という噂を聞いていたので期待していたところ、見事にオータムクラシックで3位に入りました。本当によく頑張って、気持ちを切らせずにここまで来ました!今シーズンは来月のスケートカナダにも出ることになっているので、また次の大会で会えるのを楽しみにしています。

 

ところで大会中、ローマン君がミックスゾーンの近くで練習前のウオーミングアップをしていたところ、メディア関係者がそのエリアを取り囲むようにゾロゾロと集まって、羽生選手の取材に備え始めました。床の上にヨガ・マットを敷いてストレッチをしていたローマン君がちょっと呆気にとられた顔で周りを見渡していたので「They're all here for you (君のために皆、集まったんだよ)」と言うと、ノリの良い彼は「Yeah, I know. This is all for me. (うん、分かってるよ、皆、僕のためだよね)」と笑いながら返してきました。

 

また表彰式では羽生選手が、最初にメダルを授与される3位のローマンの方を向いてじっと見ていたためか、ローマンも羽生選手をじっと見返していました。そうやってあらぬ方向を向いていたのでメダルをかけようとしているオフィシャルがなかなかかけられず、ようやく気付いてかけてもらった。「いや、もっかいやり直し」と言うかのように、もう一度、最初から正面を向いて、ちゃんと首を下げてかけてもらうというお茶目振りも発揮していましたね。

 

「そりゃあ、羽生選手に見つめられたら思わず、見返してしまうよね」と、一人のオフィシャルが後で笑っていました。

 

ローマン君、おめでとう!

 

 

④現地観戦およびライスト観戦の皆さんのおかげです。

 

私は別のところのエッセイでも書いたことがあるんですが、昨シーズン、平昌に行った時に自分の海外旅行に対する弱点に気が付きました。私、言葉が通じないところだと全く臆病になってしまって、下手すると引きこもってしまうのです。そこへ行くと、お友達のNちゃんや一緒に観戦したS先生たちは、特段、韓国語が喋れるわけでもないのにとても活発に、堂々と色んな場所を散策して美味しい食べ物屋を見つけるのが上手でした。

 

それ以降、カナダにスケート観戦にいらっしゃる皆さんの勇気と行動力に改めて感動するようになりました。今年のオータムクラシックはトロント空港からそう離れているわけではなく、タクシーで30分ほどの所に会場がありました。治安は良く、気候もこの時期にしては暖かくて過ごしやすかったと思います。しかしホテルは徒歩圏になく、様々な交通手段を駆使せざるを得なかったでしょう。皆さん、良くいらっしゃいました。

 

会場でも声をかけていただいて、何人かの方々にお会い出来て嬉しかったです。最初のセッティングの日にお会いしたJちゃんのお母さまとお友達、ご一緒にお喋りできて楽しかったです。後でお渡ししようと思っていた物をずっと袋に入れて歩いていたのですが、とうとう最後まで見つけることが出来ませんでした。またの機会に必ず!

 

選手の安全に関わる行動や、席取りのために置かれた荷物に関しては確かに記事に書きましたが、もちろん、たくさんの方々に来てもらえて主催者側は大喜びでした。大いに盛り上がり、スケーターたちもさぞやりがいがあったことでしょう。

 

コメントでも頂きました様に、普段、大きな国際大会に出られないような選手たちも、声援の多さに驚き、グランプリ大会さながらの雰囲気を味わえたと嬉しそうに言っていました。本当に良かったです。

 

またライブストリーミングの需要が多く、テッドさんたちも張り切っていました。昨年もオータムクラシックは解説付きでしたが、このような体制が徐々にどんな大会でも整って行くことが望ましいですね。たくさんの方々が世界中で見てくださっているおかげで、全ての選手の関係者も自国で応援することが出来るわけですから、まことに良い循環です。

 

 

⑤皆が彼を守りたがる。

 

昨年のオータムクラシックでもそうでしたが、今回もセキュリティのチームが良く働いてくれました。会場の見回りの他、羽生結弦というスターを迎えての大会では、気を引き締めてチームワークを図る必要があります。

 

様々なニュースでも登場したかと思いますが、プロのセキュリティスタッフのD君が中でも特に頑張ってくれて、羽生選手の身辺を守ってくれました。練習や競技の際に、氷の上に出て行く時、キスクラに戻って来る時、上から落下物がないか、横からサインを求める人がいないか、などなどに目を光らせてくれました。

 

D君は羽生選手が滑っている間中、ずっとリンク際にいるわけですから、彼の演技を一部始終、目の当たりにしたことになります。それでよけいに尊敬の念が深まったようで、大きな体で羽生選手を守り、自分が盾になる、という意識になったと思われます。三日目ともなると、板についたもので、率先して色々と自分から気を利かせていました。

 

「いざとなったら小脇に抱えて走る」

 

と冗談半分で言えるほど、スポーツや格闘技で鍛えた彼は非常に頼もしかったです。

 

セキュリティ関係の仕事に携わる人には、気立てが優しく、防衛本能が発達している人が多いような気がします。最後の日、会場から出て行く時には契約時間が過ぎていましたが、D君ともう一人の女性スタッフAさんたちが進んで(無料で)残業してくれました。


そんな彼らに丁寧にお礼を言って、握手を交わし、働きを労った羽生選手。D君には表彰式でもらった花束をプレゼントし、最高の記念を残しました。言うまでもなく、感動しまくっていたD君でした。

 

皆が大切に思い、守りたくなる。羽生選手はそんな存在なのです。

 

 

さあ、そろそろアタクシの脳のキャパシティーも底をついて来ましたので、最後に。。。

 

 

⑥なぜ、羽生選手は応援したくなるアスリートなのか。

 

これについても過去にさんざん書いてきたような気がするのですが、今大会ほど、思いを新たにしたことはありません。

 

フリーの日、朝の練習で転倒した後、少し滑ってジャンプを一つ・二つ跳び、早々にリンクを下りた羽生選手にファンは不安が募ったかも知れません。しかし午後の競技に現れた時は特別、変わった様子はなく、淡々とウオーミングアップをして試合に挑みました。

 

フリー演技については、皆さんすでにテレビ放送などでもご覧になっているでしょうから触れませんが、転倒があったりして、要するに羽生選手自身、思うような滑りが出来なかった、というところだと思います。実際、演技終了直後はもしかするとジュンファン選手に抜かされるかも知れない、と思っていたのではないでしょうか。

 

前日、ショートプログラムが終わった後はさほど感じられませんでしたが、フリーを滑り終えた後の羽生選手は本当に疲労困憊、という様子でした。顔には血の気が全くなく、ただただ呼吸を整え、インタビューに応える力をかき集めるような状態。

 

もともと細い彼が、いっそう細くなったように見えました。

 

やがて結果が出て優勝が決まると、関係者からも歓声や安堵の声が上がりました。羽生選手はそれからひとしきりコーチたちと演技の内容などについて話し合い、気持ちも落ち着いたところで私がミックスゾーンへと案内しました。そこからは無数のカメラや記者の輪に吸い込まれて行き、いつも通り、冷静に自分の滑りについて語っていました。

 

その後は表彰式があり、さきほども書いた通りのローマン君との微笑ましいエピソードがありました。裏に戻って来た時にはすっかり笑顔になっていたものの、相変わらず、羽生選手の疲労の度合いは見て取れます。

 

私が羽生選手の出る大会を手伝うのはこれで5回目(2013・2015・2016年のGPスケートカナダ、2017・2018年のオータムクラシック)。毎回、感じるのはこれほど自分の全ての力を競技に注ぎ込んで、すっからかんになるまで使い果たすアスリートは他にいるのだろうか、ということです。

 

かつてCBCの解説でキャロル・レーンさんが言った言葉が思い出されます:

 

That’s really what you call “blood on the dance floor”, isn’t it Kurt? He didn’t leave anything there, at all, it was all out.
これってまさに「ダンス・フロアに血を散らすまで(踊って)」って感じよね、カート?彼、本当に一切、何も残さず、出し切ったわね。

 

2013年のグランプリファイナルのフリー演技の解説でした。

 

それから5年が経ち、オリンピックを二連覇して、世界タイトルも二度獲ったというのに、何も変わっていない。

 

 

羽生結弦とは、競技の場になると全ての余分なものが剥がれ落ちて、ただただ、戦う魂だけが残るアスリートなのです。

 

 

プーさんだの、綺麗な衣装だの、西川の枕だの、ガーナのチョコレートだの、アンアンのグラビアだの、そんなものはどーでもいい。

 

赤を通り越して、白をも通り越して、青く燃える炎と化して、氷の上で戦う。

 

惜しみなく、全てをつぎ込んで、燃え尽きるまで。

 

 

キスクラから降りて、裏に戻って来る彼は、だからあんなに消耗した姿なのでしょう。思ったような演技ができず、気持ちを盛り立てられるものがない時はよりいっそう、その傾向が強い。

 

今回の大会で再び試合に勝ちたいという気持ちが強くなった、と言っていた羽生選手ですが、現実的に考えてもこれからのキャリアの方が今までのそれよりも短い事は誰にでも分かります。

 

いつまで全力疾走しながら現役生活を続けられるのか、昨年の負傷の経験からしても予想はできない。

 

とすると彼自身も、観ている我々も、これからの一戦一戦がどれだけ貴重なのか、意識せざるを得ません。史上最高の男子スケーターの演技をリアルタイムで見られること、彼が私たちに与えてくれる宝物のような時間を少しも逃さず、目に、心に焼き付けなければならない。

 

 

つくづくそう感じて、妙に切なくなった大会でした。

 

 

でも、まだグランプリファイナルで会えますよね?絶対に信じて、バンクーバーで待っています。

 

そして皆さん、今シーズンも羽生選手を応援できる幸せを今まで以上に噛みしめましょう。

 

 

以上、2018年オータムクラシックのレポートでした。

 

 

(次の記事ではPJクオンさんのシェイリーン・インタビューについて書こうかな)