スーパーの卵と 契約 | どんなに難しい契約書でもわかりやすく解説します

どんなに難しい契約書でもわかりやすく解説します

難しい契約書でも、わかりやすく簡単に説明できる、
契約書専門10年以上の経験を持つコンサルタントです。

以前、ある法律系のセミナーで、
あるなぞなぞを聞いた。

スーパーで卵を買おうと思い、
買い物かごに卵をいれた。
卵の売買契約は、
成立しているだろうか?

というものだ。
答えは忘れてしまったけれど、
契約は意思表示の合致で成立する、
という基本原則から、
このようななぞなぞが生まれる。

もちろん、
イエスかノーで答えられるような
単純なものではない。

おそらく場合分けして
いろいろと議論させるのが
このなぞなぞの目的だろう。

現実の世界に法律をあてはめるときは、
解釈というフィルター
とおさなければならないわけだ。

まあ普通は、
レジで代金を払って、
卵が買えればそれでいいのであって、
売買契約が理論的に成立しているのかどうかは、
生活者にとってあまり重要な問題とはいえない。

しかし、
卵がひび割れていたとか、
自分がほしいのとは違う種類の卵だったら
どうなるのだろう?

これもはっきりした答えは無いが、
ビジネスでも
似たようなことがおこることはある。

つまり自分が期待したものが、
売買によって手に入らなかったときや、
手に入れたと思ったものに、
あとになって欠陥がみつかったというような場合である。

欠陥のことを、瑕疵と呼ぶことにしよう。

民法は、
契約前にはっきりとわかる傷や欠陥があれば、
「明らかな瑕疵」といい、
売主のせいでそうなったのであれば、
債務不履行の問題になりそうである。

まあ誰がみても明らかなのであれば、
買い物していても気がつくだろうから、
実社会では気を付けていればすむ話だろうと思う。

問題は、
ぱっと見はわからないような欠陥があった場合で、
民法では「隠れた瑕疵」と呼んでいる。

隠れた瑕疵には、
1年の期間制限はあるけれど、
契約の解除や、損害賠償が
認められている。

いわゆる
売主の瑕疵担保責任
というやつである。

これは便利な制度のようで、
すこし使い勝手が悪いところがある。

現実にあてはめようとすると、
何を持って「隠れた瑕疵」というべきか、
わかりにくいからだ。

たとえば
卵にかすかなひび割れがあって、
しかし料理には支障なく使える、
といった場合、
これは隠れた瑕疵にはいるのだろうか。

あるいは、
スーパーの義務が、
ひび割れのない卵を売ることだったと仮定すれば、
そうではなかったのだから債務不履行と
考えるべきであろうか。

結局、何が欠陥(瑕疵)で
なにがそうでないかは、
目的の商品が一般的にいって備えているべき
品質、性能が基準になるのであるし、
そもそもその取引の趣旨によってもちがってきてしまう。

だから、
民法で瑕疵担保責任があるというだけでは、
実際にはどういう場合に
どんな対応がとれるのかは、
イメージしにくいのだ。

ところで
瑕疵担保責任は
いわゆる任意規定とよばれていて、
当事者間で特約をすることは可能である。

だから瑕疵担保責任の
条項をつくっておいて、
損害賠償または
契約の目的を達成できない場合の
解除を規定しておくことがある。

民法では瑕疵を知ったときから1年であれば、
買主から売主に対してこの責任を主張できる。

つまり損害賠償を求めたり、
契約の解除を申し入れることができる。

特約として考えられるのは、

瑕疵の申出期間を変える

「検収後1年以内に発見した場合は」
「商品の引渡後1年以内に隠れた瑕疵を発見した場合は」 
「納入後6カ月以内に瑕疵を発見した場合は」
などとする。

たとえば
売主側の契約書では、
期間が少し短かったり、
瑕疵を発見したときからではなく、
納入したときから期間をかぞえたりする。


あるいは
責任の範囲をわかりやすくする


「ただし、商品の機能に支障をきたさない瑕疵のときは、免責される」
などとするか、
商品によっては具体的に瑕疵を例示してしまうこともできる。


こうやって、
自社の都合にあわせて、
条件をちょっとずつ変えたり、

より具体的にすることで
リスクの予測可能性を高めたりできるのが、
契約書のおもしろいところである。