「血は一滴も流してはならぬ!?」 ヴェニスの商人と損害賠償条項 | どんなに難しい契約書でもわかりやすく解説します

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契約書専門10年以上の経験を持つコンサルタントです。

ヴェニスの商人The Merchant of Veniceとは、
いわゆるシェイクスピアの戯曲である。

契約書と裁判がでてくるので、

わりと契約ネタとしても
おもしろいおはなしなのだ。

かなり乱暴に要約すると、

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アントーニオ
悪名高いユダヤ人の金貸しシャイロックに金を借りに行く。


・そこで、

「もし、借りた金を返すことが出来なければ、
シャイロックに自分の肉1ポンドを与えなければいけない

という契約をしてしまった。


・期日がきたが、
商船が難破したりなんだりして

財産がなくなり、
ようは金を返せなくなっちゃった。


・当然、
悪役シャイロックは許さない。
裁判に訴えて、

契約通り
アントーニオの「肉1ポンド」を要求する。

・そこでお代官様(実は法学者に扮したポーシャ)が
下した判決とは?


・なんと
肉を切り取っても良いぞ」
という。

・おーさすがはお代官様、
話のわかるお方だ、

・・・とかいったかどうかわからないが、
ともかくシャイロックは喜んだ。

で、アントーニオの肉を切り取ろうとする。



・そこでこの有名な
セリフの出番である。

いわく、

「肉は切り取っても良い。

ただし、
血は一滴も、流してはならぬ。

もし流せば、
契約違反として全財産を没収する」。



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なんという
屁理屈だろうか。
でもストーリーがいいので、
すごく面白い話でもある。

決め台詞のところでは、
感動で背筋がぞくぞくする。

公序良俗違反であるから
契約自体そもそも無効だ・・・とかいう話は、
物語を純粋にたのしむためには邪魔なんである。


さておき、
契約書というのはきわどい義務も規定
しなければならないときがあるから、
文章がどう解釈されるかはとても重要な問題である。

自分に不利な解釈をされないように、
当事者は知恵を凝らすのだし、
そうあるべきでもある。

特に
約束を守れなかったときに
どうするか、という条件は、
慎重に規定しなければいけない。

物語では
金を返せなかったときの

ペナルティが「肉1ポンド」、
ほぼ「お命ちょうだい」だったわけである。

通常のビジネス契約のはなしにもどせば、
ようするに「金しだい」なわけで、
金銭賠償を条件にもってくる、
ということが行われる。

これが
損害賠償という条項である。


損害賠償とは、
シンプルにいえば、

他人に与えた損害があるとき、
それを金銭で「補てん」するってことである。

いろいろな要因によってだけれど、
契約の不履行
契約への違反
解除なんかも、

損害賠償の問題を生じる要因となる。

債務不履行を例にとろう。

民法では、
賠償すべき「損害の範囲」が
きまっている。

簡単にいうと
債務不履行と相当因果関係にたつ損害であって、
債務不履行から通常生ずる損害と、
特別の事情によって生じた損害であっても当事者が予見したか予見しえた損害
である。

つまり、
相手が約束をやぶったんだからさ、
あきらかにそれが原因で生じた損害と、
そこからさらに関連して起きたことなんだけど当然予想してたはずの損害は、
賠償されるべきでしょー
といってるんである。

もう予想がついたと思うが、
きわめて概念的、観念的なはなしである。

具体的にどういう場合に
いくらで賠償すべき
とは書いてない。

じっさい、
日本の契約書で
よくみかける条文は、

「甲または乙は、次の各号のいずれかに該当する場合、
相手方に対し被った損害の補償を請求できる。
1) 甲または乙が本契約に違反したとき
2) 甲または乙が契約解除を行ったとき」

みたいなものである。

なにがいいたいかというと、
まずこういう条文からわかることは、
双務規定といって、
お互いに相手方にたいして
賠償請求ができることにしているわけだから、
いかにも「平等にしましょうや」という意図が
透けて見える。

また、
このような規定のみでは、
どのような違反があったときなのか、
どんな損害があればこれに該当するのか
いったい、賠償金額がいくらになるのかは
わからないわけなのだが、
ちょっと、
あえてわからないままにして、
ソフトにしめくくろう
としている印象だ。

まあ、
実際おこったときに
「別途協議して」
きめましょう、
というのが多くの契約書の
基本姿勢みたいになっているところがある。

もちろん、
それがいいという意味ではない。

だいたい、
損害賠償がどうのこうのというはなしになったときに、
「誠実」に「協議」などできる人がいるとは思えない。


そこで、
より具体的なヒントとすべく、

条項例を挙げておきたい。

戦術としては、
賠償の予定を規定してしまうのが
ひとつだ。

たとえば、

「乙は、この契約に関して、
第○条第○項各号のいずれかに該当するときは、
甲が契約を解除するか否かを問わず、
賠償金として、
契約金額の10分の1に相当する額を支払わなければならない。
業務が完了した後も同様とする。」

あるいは、

「甲及び乙は、
本契約及び個別契約の履行に関し、
相手方の責に帰すべき事由により損害を被った場合、
相手方に対して、(○○○の損害に限り)損害賠償を請求することができる。
但し、この請求は、当該損害賠償の請求原因となる
当該個別契約に定める納品物の検収完了日または
業務の終了確認日から○ヶ月間が経過した後は行うことができない。
2 前項の損害賠償の累計総額は、債務不履行、
法律上の瑕疵担保責任、不当利得、
不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、
帰責事由の原因となった個別契約に定める○○○の金額を限度とする。
3 前項は、損害賠償義務者の故意または重大な過失に基づく場合には適用しないものとする。」

のように請求の期限や、
「上限を決める作戦」
も使える。

賠償することになったとしても、
○○ヶ月以内の請求で、
しかも、
○○円までだからね、
という意味だ。

損害賠償とはすこし違うが、
ある業務委託契約において、
契約が解除された際の対応として、
履行場所の原状回復を定めた例もある。

「契約が解除された場合において、
契約の履行場所等に乙が所有または管理する材料、
機械器具、仮設物その他の物件があるときは、
乙は、当該物件を撤去するとともに、
履行場所等を原状に復して、
甲に明け渡さなければならない
。」

ようは、
もし、解除ってことになっても、
きちんと現場の後片付けをしてから帰ってね、

というような意味だ。

契約関係にある当事者間で、
仮に起きてしまった事態にたいして、
当事者がどのように対応すべきであるのかをよく考えて、
規定している良い例だと思われる。





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