はかりはいくら? | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 「いきいき物理わくわく実験1」(*1)にも載っている、物理実験クイズです。

 

 体重計があればできますので、ぜひ試してみて下さい。

 

 Q1 体重計の上で立っている状態からしゃがむとき、体重計の針はいくらを示すか?

 

 1)普段の体重より重くなる。

 2)普段の体重より軽くなる。

 3)普段の体重と同じになる。

 

 この逆もできます。

 

 

 Q2 体重計の上でしゃがんだ状態から立ち上がるとき、体重計の針はいくらを示すか?

 

 1)普段の体重より重くなる。

 2)普段の体重より軽くなる。

 3)普段の体重と同じになる。

 

 実験する前に、ちょっとだけ考えてみてください。

 

 感覚的にこうなるだろう、という思いと、実際の実験結果がずれる問題です。

 

 Q1のしゃがむときは、はかりの針は普段より重くなる気がしますね。(高校物理の授業でこの問題を出すと、大多数がこの答を選びます)実際にやってみたことがあり、たしかに重くなったと答える生徒までいます。

 

 実際に実験をするときは、一人より二人の方がいいでしょう。体を動かしている人は視線がぶれるため、正しい値が読み取りにくいからです。

 

 さらに、気をつけることがあります。

 

 問題は「立っている人がしゃがむとき」なので、しゃがみ始めのときのはかりを見ないといけません。

 

 では、二人で組んでやってみましょう。一人が体重計の上に乗り、しゃがみ始めます。そのとき、はかりが何キロをさすか、もう一人の人が針の動きを見ます。

 

 針は、普段の体重より軽い側に動きます。

 

 つまり、答は2)普段の体重より軽くなる、ですね。

 

 この問題、よく勘違いするのは、しゃがみ終わりのはかりの読みが正反対の結果になるからです。しゃがみ終わりには、はかりの針は普段の体重より重い値を示すんですね。

 

 なぜでしょう?

 

 この人に働く力を調べてみると、原因がはっきりわかります。

 

 その前に、力のつりあいについての基本原理を確認しておきましょう。

 

 1.物体に働く合力がゼロのときは、力がつりあっていて、止まっていた物体は止まり続ける。

(ざっくりいうと、力がつりあっているときは物体は止まっている、としておきましょう。力がつりあっていても、物体は止まらず、等速直線運動を続けるときもあるのでやっかいですが、この実験では、このことは忘れていただいても結構です)

 

 2.物体に働く合力がゼロでないときは、物体は合力の向きに加速する。

(減速する場合は、逆向きの加速と考えます)

 

 では、理論的に調べてみましょう。

 

 まず、はかりの上でこの人が突っ立ったままのとき。

 

 

 この人は静止しているので、力がつりあっています。

 図の黒い矢印がこの人に働いている2つの力、重力mgと抗力N1です。当然、N1=mgとなりますね。

 

 さて、はかりの針はどうして動くのかというと、はかりの中にばねが入っていて、はかりの上部が押されると、それに応じてばねが縮み、その縮みが針の動きになるように作られています。

 したがって、はかりの値は、つまるところ、はかりを上から下に押す力を量っているわけで、それが上に乗っている物の「重さ」として記録されるわけです。

 

 はかりを押す力は抗力N2ですが、N1とN2は作用反作用のペアの力(2つがペアになって現れるので、力のことを「相互作用」と呼んだりします)なので、かならずN2=N1となります。

 

 したがって、N2はこの人に働く重力mgに等しくなり、この人の体重分の値を示すわけです。

 

 このタイプの問題でも、ほんのちょっと複雑にすると、超絶にムツカシイ問題になります。

 

 はかりの上を飛ぶ鳥の重さがはかりにかかるかどうか、という問題。こちらは、物理天才クイズ1の第3問として紹介してありますので、気になる方は下のリンクでご覧ください。

 

 なお、mgは国際標準単位のニュートンで量ったときの重さ(力)なので、日常ではgで割ったキログラム重という単位で量ります。体重60キロというばあいの60キロは正式には60キログラム重です。日常ではキログラム重という単位は馴染みがないので、体重計の数値はキログラムとなっていますが、これは本当は質量の単位で体重の単位ではありません。

 

 さて、いよいよしゃがむとき。

 

 

 この人の重心は明らかに下に向かって動き出しています。つまり、下に向かって加速しています。

 

 下向きに加速するためには、合力が下向きでなくてはなりません。

 図の黒い2つの力、重力mgと抗力N1で合力を作りますから、合力が下向きになるためには、下向きの重力の方が、上向きの抗力より大きくなくてはなりません。重力は地球がこの人を引っぱる万有引力ですから、ずっと同じ値です。したがって、抗力N1の方が、小さくなるんですね。

 

 図に書き込んでありますが、抗力N1は重力mgより小さくなり、作用反作用でN2は必ずN1に等しいので、この場合、N2はmgより小さくなります。

 つまり、普段より小さな値になるんですね。

 

 逆に、Q2のように、立ち上がるときは、上向きに加速するため、抗力N1の方が重力mgより大きくなり、N2も当然大きくなります。

 

 家に鉄アレイがある方は、しゃがんだりたったりしなくても、鉄アレイを上下に動かすだけで、似たような実験ができます。

 

 

 鉄アレイを振り回すのは危険なので、まわりに気をつけて行って下さい。

 

 最後に、しゃがみおわりの場合を説明しておきます。

 

 高校生以上ならもう応用が利くと思うのですが、一応、念のため。

 

 しゃがみおわりには、この人の重心は下向きに動きつつ、減速運動をします。

 

 減速というのは、物理学的には逆向きの加速になりますので、この場合、この人は上向きに加速しているんですね。

 

 物理を習っていない人にとっては、この考え方は理解しがたいかもしれません。

 

 加速度はもともと速度変化がどのように起きるかということを示す量なので、加速度の向きはそのまま運動の向きを意味するものではありません。加速度の向きと運動の向きがちがっているのは、よく起こることです。

 

 これに対し、速度は運動そのものを示す量なので、速度の向きが運動の向きとずれることは絶対にありません。

 

 かんたんにまとめると、つぎのようになります。日常で物体の運動現象を考えるときの要となります。

 

 速度の向きは運動の向きを示す。

 加速度の向きは力の向きを示す。

 

 ヒモにつけたボールをぶんぶん回しているとき、ボールの加速度の向きは・・・ヒモで引っぱっている方向に一致します。でも、ボールの速度の向きは運動の向き、すなわち、円の接線方向になりますね。

 

 さて、しゃがみ終わりの結論ですが・・・

 

 しゃがみ終わりのとき、この人の運動は上向きの加速運動ですので、この人に働いている合力は上向きになります。したがって、抗力N1の方が重力mgより大きくなっています。

 作用反作用によりN2はN1に等しいので、はかりの読みを示すN2の値も、普段の体重mgより重くなるんですね。

 

 

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