これで言論の自由は死ぬ | 『月刊日本』編集部ブログ

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 安倍自民党がNHKと在京民放テレビ局に対して、選挙報道の公平中立、公正などを求める要望書を渡していたことが明らかになりました。出演者の発言回数や街頭インタビューの使い方など、細かい点にまで注文をつけたようです(11月27日付毎日新聞)。


 安倍総理は解散表明直後に出演したTBSの番組で、街行く人々がアベノミクスに厳しい評価を下す映像が流された際、「これ全然、声反映されてませんが、おかしいじゃありませんか」と不快感を示していました。今回の要望書はこれが直接的な原因となっているのだと思います。


 しかし、何をもって公正とするかは、大変難しい問題です。「公正とは何か」を判断するためには、そのための基準が必要ですが、今度はその基準が公正であるかどうかを判断するために、さらなる「公正な基準」が必要であり・・・・・・といったように、公正さを追求していくと終わりがありません。安倍総理の求めている「公正」とは、自分たちにとって都合の良い「公正」に過ぎません。


 そもそもアベノミクスに確固たる自信があるのであれば、「アベノミクスを継続していけば、今厳しい評価を下した方々の生活も必ず改善します」などと言えたはずです。やはり、安倍総理も内心ではアベノミクスに自信が持てないのだと思います。


 また、安倍総理は同番組内で、特定秘密保護法について、「これはまさに工作員とかですね、テロリスト、スパイを相手にしてますから、国民は全くこれは基本的に関係ないんですよ。これは施行してみればわかりますよ」、「報道がですね、それで抑圧される。そんな例があったら、私は辞めますよ」と述べました。


 しかし、この認識は間違っています。率直に言って、安倍総理は特定秘密保護法を全く理解できていません。また、報道の抑圧を言うのであれば、テレビ局に要望書を送ることも、抑圧と言えるでしょう。


 ここでは、弊誌2014年1月号に掲載した、ジャーナリスト・青木理氏のインタビューを紹介したいと思います。(YN)



『月刊日本』2014年1月号

青木理「これで言論の自由は死ぬ」より

秘密保護法は過剰な委縮を引き起こす

―― 特定秘密保護法は今後の報道にどのような影響をもたらすと考えられますか。

青木 2003年に成立した個人情報保護法と比較してみましょう。この法律も曖昧な部分が多く、問題だらけの悪法として大きな反対運動が起きました。基本的には、個人情報を集積する民間業者が情報を取り扱う際のルールを定めたものですが、企業や団体で職員名簿を作らないとか、学校でPTA名簿を作らなくなるといった過剰な委縮、自粛現象を引き起こしました。

 秘密保護法はさらに酷いことになるでしょう。こちらも条文が非常に曖昧で拡大解釈の余地があり、メディアに関わる分野でいえば、情報源と取材者の双方が委縮してしまうでしょう。

 情報源の側としては、これまでだって公務員法で守秘義務がかけられていたわけですが、今後は特定秘密を漏らせば最高で10年以下の懲役となります。そもそも何が「秘密」なのかさえわからないから、萎縮するなという方が無理です。それに、秘密自体に問題があると考えたり、違法な手段で収集された秘密だから内部告発しようと考えても、秘密の中身が明かされないまま重い罰を受けてしまいかねません。また、取材者の側がニュースソースを守ろうとしても、今度は公安警察が徹底的に調べることになるでしょう。家宅捜索などの手段を駆使されれば、ソースを守り切ることなんてできません。

 他方、取材する側としては、新聞社やテレビ局という組織自体が萎縮してしまう恐れが強い。法律は第22条で「著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とする」と定めていますが、「著しく不当」かどうかは曖昧で、これを判断するのは当局です。現場の記者が委縮せずに頑張ったとしても、上層部から「こんな取材じゃあ問題になる恐れがある」などといってストップがかかる可能性がある。

 この「著しく不当な方法」について政府は、西山事件が該当するという考えを示しました。ご存知の通り、1971年の沖縄返還協定に関する日米政府間の密約文書を、毎日新聞の西山太吉記者が入手した事件です。この事件では、西山記者のニュースソースが女性事務官で、西山記者と男女関係にあったことから批判が沸騰し、西山記者と女性事務官が公務員法違反で逮捕されました。

 しかし、はっきり言いますが、新聞記者が取材先の女性と男女関係になるなんてよくある話です。警察幹部の秘書と結婚した記者なんて山のようにいるし、彼らも当然そこから情報を取っていたはずですが、今後は特定秘密保護法違反に該当します。

 しかも、これらは全て当局の判断に委ねられますから、新聞社やテレビ局の取材手法が物凄く限られるのは間違いありません。そうなると、ただでさえ酷いと批判されている現在のマスコミ状況はさらに悪化するでしょう。日本の新聞記事の8割から9割は官製情報だと言われていますが、その傾向に拍車がかかる。流通する情報は確実に細るでしょう。

 権力側は、究極的には実際に逮捕したり強制捜査することを狙ってくるでしょうが、法律による恫喝効果は効果てきめんでしょう。私はむしろ、この恫喝による委縮効果こそが当面の狙いなのではないかとさえ思います。

―― 全国紙では産経新聞が全面賛成、読売新聞が条件付きで賛成しています。

青木 絶望的な能天気さです。安倍政権や自民党政権が永遠に続くとでも思ってるんでしょうか。たとえば産経新聞は河野談話や村山談話を熱心に批判してきましたが、これらの談話が出される経緯だって秘密に指定されれば情報は取れなくなってしまう。情報を隠したい政権や官僚にとって極めて便利な法律です。思想の左右とか保守、革新などという問題じゃない。あり得ないと思っているのかもしれませんが、産経や読売が嫌うような革新政権が誕生し、もしそれが極めて強権的な政権ならば、秘密保護法を縦横無尽に駆使して情報隠蔽に走るでしょう。彼らはそのような危険性をわかっているのでしょうか。


警察官僚による警察官僚のための法律

―― アメリカから提供された軍事機密を日本当局が漏洩しないようにするためだという議論もあります。

青木 外交や防衛に一定程度の秘密が必要だという点に関しては私も理解しますが、いずれは公開されて検証を受けることが絶対条件ですし、アメリカなどから提供された情報を守りたいのであれば外交、防衛の分野に限った法律にすれば良いはずです。しかし、今回の法律は防衛、外交に加えて特定有害活動(スパイ)の防止やテロ防止など4分野があげられています。テロ防止などという名目を掲げたら、ありとあらゆるものが秘密の対象とされてしまいます。

 どうしてこれほど広範囲に網がかけられる法律にされたのか。それは今回の法律を作ったのが誰かを考えればわかります。すなわち内閣情報調査室、つまりは警察官僚です。この法律は警察官僚による警察官僚のためのものと言っても過言ではありません。条文を見ればわかるように、テロの定義が非常に広く定められているため、これを拡大解釈すれば、ありとあらゆるものを監視対象にすることが可能です。特に警備公安警察にとって極めて使い勝手が良い。

 特定秘密を取り扱う者に関する「適性評価」の実施にもカラクリがあります。条文上は当該行政機関の長が職員に対して行うことになっていて、たとえば酒癖や借金の有無、交友関係などを調べるわけです。こんなこと、防衛省なら多少はできるかもしれませんが、それ以外の省庁にそのような調査能力はありません。

 それでは誰が調査をやるのか。警備公安警察に決まっています。つまり、各省庁が警察に依頼し、公安警察が調べることになります。実際、条文でも、適性評価の実施については関係行政機関が相互に協力するものとすると規定されています。

 警備公安警察はこれまでも他の省庁の幹部や政治家の下半身などを調べたことがあったのですが、そんな活動には何の法的根拠もありませんでした。それゆえ、もしそんなことがバレて追及されれば大問題になりかねなかった。しかし、今回の法律によってお墨付きを得ることになってしまう。

 適性評価の実施にともなって公安警察が実施する調査情報は、どんどん警察内部にアーカイブされていくでしょう。様々な省庁の幹部クラスの男女関係や金銭問題、性癖までも警察に握られるというのは物凄く怖いことですよ。これは、特定秘密を扱う民間企業や大学などにも広がります。場合によっては、この情報をもとに恫喝や圧力をかけることだってできる。もちろんこれまでも同じようなことはやっていたのですが、今後はそれを堂々と行うことができます。民間に流通する情報が細る一方、公安警察が握る情報量は飛躍的に高まる。

 その上、他の省庁のトップは一応政治家ですが、警察のトップである警察庁長官や各都道府県警の本部長は警察官僚です。そのため、警察に関しては完全に自己完結しており、外部のチェックが全く入りません。

 しかも今回の法律では、適性評価を実施する過程で得た情報をどのように扱うか、全く定めがありません。たとえば実施後にデータを破棄するとか、適性評価以外の目的で使用しないとか、もし使用した場合の罰則などについては何も定められていない。権力は暴走すると何を仕出かすかわからないということがまるでわかっていない。これこそまさに平和ボケの最たるものと言えるでしょう。もちろんこれは、知る権利を狭められているのに危機意識を持たない国民の側にも言えることですが。(以下略)





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