TBSから表彰される事を書きましたが

早めに次を更新しておかないと照れくさいので、慌てて更新します(笑)


現在、DOORSという大きなバラエティ番組を演出している訳ですが…

昨日、DOORSの収録があったTBS緑山スタジオ上段広場へ

別の収録のロケハンで行った。

そこはもうすぐ収録されるSASUKEという特番のセットが

立て込み真っ最中だった。

「SASUKE」を御存じない方もいるだろうが

97年、筋肉番付という番組のスペシャルコーナーとして始まり

以降、人気特番として現在も年2回のペースで放送されている。

総勢100名の素人さんやスポーツ選手が

4つの巨大フィールドアスレチックのステージに挑戦するという企画。

小生は以前この番組の演出ディレクターだったのだが

訳有って途中で抜けた。

さて、筋肉番付のシリーズにはもう一つ「スポーツマンNo.1決定戦」という

「跳び箱」で有名なスペシャル企画があり、こちらは現在不定期開催である。

同じ筋肉番付チームでこの2つの番組を作っていたのだが

SASUKEは小生、

スポーツマンNo.1決定戦(以下スポマン)はK君という演出家が担当していた。

K君は非常に才能があり、優秀な演出家である。

そして何より彼はサラブレッドである。

お父さんが有名なアスリートだった彼は

東京・南麻布育ち、丘の上にある自宅は大きなお屋敷である。

K大の幼稚舎からエスカレーターで大学まで

高校時代は野球、大学ではラグビーの花形選手として活躍。

TBSに入社して順風満帆のディレクター人生である。

そのK君が演出する「スポマン」はギリシャの神殿風コロッセウムのセットで

黒いウエアに身を包んだ各界の超有名アスリートが

雄叫びを上げ、涙を流し…絶頂期には毎回20%以上の視聴率を誇っていた。

そのカッコイイ男の美学・ナルシズムはK君の生き様そのもの。


さて、かたや…SASUKEである。

100名の素人…無職の中年・岐阜の消防士・漁師・ガソリンスタンド…

それぞれ皆違う職業の体力自慢が

屋外広場に作られた鉄骨剥き出しのセットで自分の限界を競う。

失敗すると広場に掘られた穴に入れられた泥水の中へドボン。

ウエアはそれぞれの職業や趣味・スポーツのユニフォームでバラバラ(笑)。

非常にカッコ悪い(笑)

しかしこれは…小生の人生における美学に通じている。

田舎の貧乏サラリーマンの家庭に生まれ

4人家族が川の字になって寝る狭い社宅で育ち

公立の中学・高校時代はグレ放題…

大学も中退である。


両方の番組には演出2人の育ちと美学の違いが偶然だが色濃く出ていた。

カッコ良く育ち、お金もあり、高価な外車に若い頃から乗り

テレビ演出家としての才能まで…小生にとっては憧れの人生を謳歌するK君。

どうやっても彼が作るカッコ良さは小生には作れない。


だから、SASUKEという番組を作る時

別の美学「カッコ悪い人々によるカッコ良さ」を作る事にした。

泥水に落ちて、顔じゅうが泥まみれ、腕が上がらなくなるまで

必死に頑張って…それでもダメで…

インタビューで「すみませんでした」と謝る。

…誰に?

出場者は全員、この「すみませんでした。」を口にする。

そしてまた半年間次の収録に備えて鍛え直す。

次もダメで、同じ事の繰り返し…。

でも、いつだって限界まで頑張っている。


小生は、この番組で「頑張ったってダメなもんはダメなんだ。」という事を

全面に謳った。

結果が無い限り、努力の過程など意味が無い。

だって、金も名誉も無い奴らの集まりなのだから。

オリンピックの金メダリストに勝てなきゃ何も無かったのと同じなのである。

番組に人生観など織り込まなくてもいいのだが…


そして…

いつもこの演出2人が作る特番の視聴率は

ギリギリ0.1%の時もあったが必ず小生が勝った。

K君は、

「何でいつもアイツに負けるんだよ!!」と

回りのスタッフに怒っていたという。


それはこういう事なんじゃないか?世の中の殆どの人々は

頑張っても結果が出ず、泥や汗にまみれて…

それでも日々頑張っている。

小生は、生まれてこのかた、その中の一人だ。

そういう人達の集まりがSASUKEだったのだ。


男の美学とは…

生まれでもなく

住んでいる家の大きさでもなく

乗っている車の値段でもなく

経歴の華麗さでもなく


油にまみれたガソリンスタンドの制服を着て笑う笑顔や

家族にバカだと言われても貫き通す信念や

人知れず夜中に頑張って…椅子を並べてイビキをかくだらしない寝顔や

帰省ラッシュの渋滞に巻き込まれても

家族の寝ている車を缶コーヒーを飲みながら運転する眠い顔や

少ないお小遣いだから昼時立ち食いそば屋に並ぶ後ろ姿こそが

素晴らしい「美学」であると思う。


そして…

テレビを見ている大勢の人々は大きなお屋敷に住んでいる訳でもなく

スピードが出る外車に乗っている訳でもなく

大した経歴でもない普通の人々だ。


だから、必ず0.1%だけ、

普通の人間が作る「カッコ悪い人の美学」が

胸を打ち…視聴率で勝るというのは、

当たり前のこと。

そういう事じゃないか?


偉そうに言ったけど…

ヒガミである。(笑)