△勝利のインタビューを受ける森山HC

福島県のプロスポーツチームは、経営難から逃れられない運命なのだろうか-。倒産状態に陥った福島ホープス(BCリーグ)に続いて、福島ファイヤーボンズ(Bリーグ2部)も窮地に立たされた。チーム力はそこそこのレベルにあるが、観客動員が低迷している。県民がチケットを積極的に購入し、チームの経営を後押ししないと、来シーズン(2019~20年)はBリーグ3部への降格もありうる。
チームを運営する福島スポーツエンターテイメントは2016~17年に1726万円、2017~18年に2779万円の経常損失を計上し、2期連続の赤字となった。Bリーグには「3期連続赤字決算のチームは成績にかかわらず、次のシーズンのライセンスが交付されない」という規定がある。このため、ボンズがB2に残留するためには、今期(2018~19年)の決算を黒字化しなければならない。赤字決算になると、仮にB2で優勝しても、来シーズンはB3で戦うことを余儀なくされる。

△3期連続赤字の阻止に動く宮田社長

同社の宮田英治社長は12月6日、県庁で記者会見し、「新しい企画でファン層を拡大し、チケット収入の増加を図る」という方針を明らかにした。
今期は1試合平均観客数1500人を目標にしている。昨期は同1441人だった。今期は開幕直後の段階で同1104人にとどまっており、昨期比337人減となっている。これは招待チケットを減らしたことも要因の1つだ。
今期のチケット収入は、4250万円を目標にしている。30試合中12試合を終えた時点で1537万円なので、順調なペースとは言いがたい。企画チケットを導入したり、アウェーゲームの際に県内でパブリックビューイングを開催して、新規ファンの獲得を図る。また、12月から2月にかけて、選手が学校を訪問し、子供たちと交流する。
スポンサー収入は9550万円を目標にしている。11月末の時点で8496万円なので、目標まであと一歩だ。
今期は人件費や運営費などを圧縮し、支出を昨期比で約2800万円削減する。興行演出は簡素化し、商品開発は手を広げない。

△熱気ムンムンの福島市国体記念体育館

B2は、18クラブで構成されている。このうち、2期連続赤字となったのは福島、群馬クレインサンダース、金沢武士団、西宮ストークス、奈良バンビシャス、島根スサノオマジックの6クラブだ。福島、群馬、金沢、奈良の4クラブは債務超過の状態でもある。債務超過の場合は、2020~21年までに解消できなければライセンスを交付されない恐れがある。

福島は2014~15年にbjリーグに参戦した。15~16年も継続。16~17年は新設のB2に参戦し、今シーズンは3年目となった。運営会社の福島スポーツエンターテイメントは郡山市に事務所がある。ホームアリーナは郡山総合体育館で、福島市国体記念体育館、あいづ総合体育館、いわき市立総合体育館などでも試合をしている。
チームが設立されたのは、2011年3月の東京電力福島第一原発の事故がきっかけだった。この事故で県内に放射性物質が拡散されたため、子供たちがあまり外出しなくなった。外遊びの機会も減少。その影響は大きく、子供たちの体力低下や肥満傾向がデータで明らかになった。

△ホームアリーナの郡山総合体育館

郡山市で専門学校などを運営する新潟総合学院(現・国際総合学園)のFSGカレッジリーグは、この事態を深刻に受け止めた。在校生は主に20歳前後の若者だが、子供についても人材育成の面で関与できないかと考えていたからだ。
児童、特に小学5年生は運動能力の向上を図る上でポイントになる年代だ。この年代に活発に動かないと、中学高校時代に運動能力が伸び悩むとされる。
「外遊びができないのであれば、屋内競技に目を向ければよい」
FSGはそんな発想のもとにbjリーグに協力を要請した。

bjリーグは2005~06年に発足したバスケットボールのプロリーグだ。リーグ戦の進行だけでなく、競技人口の拡大を図るため、関東地方でバスケットボールスクールを運営している。FSGはそのカリキュラムを導入し、バスケットボールを通じて子供たちの運動能力を向上させようと考えた。bjリーグは協力を確約した。

△チアリーダーのイラストが入った痛車

FSGは、2013年6月にbjリーグ公認のバスケットボールスクールを郡山市に開校した。その動きが県内各地に広がり、福島、会津若松、いわき、白河、二本松、須賀川の6市にも開校した。
一方、bjリーグはFSGにこんな話を持ちかけた。
「スクールの運営だけでなく、プロチームを立ち上げてbjリーグに参戦しませんか。プロの試合が身近な場所で開催されれば、子供たちが観戦し、刺激を受けるでしょう。笑顔が増えて、元気も出るはずです」
屋内競技のバスケットボールは、積雪の多い東北地方に適している。当時はbjリーグに仙台89ers、秋田ノーザンハピネッツ、岩手ビッグブルズが参戦し、青森ワッツの参戦が決定していた。東北6県でチームがないのは福島、山形の2県だけ。東北各県にチームが設立され、地域対抗戦のような形になればリーグが盛り上がるので、設立を要請したのだ。

△ボンズの経営を支援するスポンサー

FSGは対応を協議し、チーム設立の可能性を探った。本家にあたる新潟総合学院はもともとアルビレックス新潟の有力スポンサーなので、スポーツとの関係が深い。県内の主要企業に相談すると、「スポンサーになってもいい」という反応を得た。年間の運営費1億円を集められるという感触を得たので、チームを設立し、bjリーグに参戦することを決めた。
2013年5月に福島スポーツエンターテイメントを設立した。宮田社長は三重県出身で、中学生のときに小野町に引っ越した。田村高からFSG系列の郡山情報ビジネス専門学校に進学。卒業後は郡山市の自動車関連会社でシステムエンジニアとして働いた。母校の専門学校に戻って教員に。原発事故後は、前述したバスケットボールスクールの運営を担当した。その手腕を評価されて、社長に選任された。

△ファンとハイタッチする藤田前HC

チーム名は福島ファイヤーボンズと決定した。ファイヤーは「燃え上がる闘志」、ボンズは「絆」「結束」を意味している。チームカラーはフクシャパープルで、「福島の幸せ」を表現している。
初代ヘッドコーチは、群馬クレインサンダース前ヘッドコーチ代行の藤田弘輝が就いた。母方の祖父母が会津若松市出身だったので、自ら売り込み、その座をゲット。現在はB1三遠ネオフェニックスのヘッドコーチを務めている。藤田の後任は、bj福岡ライジング前ヘッドコーチの森山知広が就いた。

△チームマスコットの「ボンズくん」

福島に2015~16年、ルブライアン・ナッシュという選手がいた。アメリカ生まれで、オクラホマ州立大を経てbjリーグ時代の福島に入団した。10月に月間MVPを獲得し、1月のbjリーグオールスターゲームに出場。25得点9リバウンドを挙げMVPに選ばれた。2月28日の信州ブレイブウォリアーズ戦(伊那市民体育館)で54得点を挙げ、1試合最多得点のリーグ新記録を更新。同シーズンは1試合平均26.6得点をマークし、リーグ最多得点のタイトルを獲得した。
紆余曲折を経て、今シーズンはB2の東京八王子ビートレインズでプレーしている。

△選手たちに向かって旗を振る子供たち

2016~17年は、福島のブースターの間で「遠征用バスをボンズカラーに塗ろう」という活動が盛り上がった。
プロチームの遠征用バスは、一目でそれと分かるカラーリングになっていることが多い。側面にチームロゴやマスコットのイラストが入っており、ファンがその前で写真を撮ったりする。しかし、福島の遠征用バスは何のカラーリングも施されておらず、他チームの遠征用バスに比べると、地味という印象が拭えなかった。
そこで立ち上がったのがブースターだ。「選手をラッピングバスに乗せてあげたい!」として、募金集めを始めたのだ。その主体になったのが子どもたちだ。募金箱を持って会場内を回り、「ラッピングバスの制作にご協力くださ~い!」と声を出した。募金に協力してくれた人には紙を差し出し、名前を書いてもらった。その名前を後にフェイスブックで公開し、感謝の意を示した。募金した人は、紙に名前を書かなかった人も含めて約600人だった。

△サンタの衣裳で踊るチアリーダー

募金総額は27万4484円だった。ラッピングバスの制作費はその約10倍なので、これでは頭金にもならない。かとって、この先10年間も募金活動をやるわけにはいかないので、バス運行を請け負う福島観光自動車や福島スポーツエンターテイメントと話し合い、その金額で対応できるマグネットバスを制作することになった。
ラッピングバスは見た目は派手だが、代わりが効かないので、車両が固定されるという欠点がある。マグネットは張り替えが容易なので、そのつど車両を更新できるという利点がある。
バス用のマグネットと余剰金で制作されたビッグフラッグの贈呈式は2017年12月23~24日、秋田戦(郡山総合体育館)の際に行われた。クリスマスの時期だったので、子どもたちはサンタクロースやトナカイの格好で登場し、宮田社長と森山ヘッドコーチに贈呈品を手渡した。

△大きな声で募金を呼び掛ける子供たち

バスケットボールは屋内競技なので、試合環境が一定している。野球のように雨天中止になることはないし、サッカーのように雨の中で試合をすることもない。これは観客にとってもいい環境だ。熱中症になることはないし、寒さでブルブルと震えることもない。野球やサッカーのシーズンと被らないのもいい。
屋内競技なので、選手と観客の距離が近い。しかも、長身の選手が多いので、迫力がある。外国人選手は、同じ人類とは思えないほど大きい。試合のテンポがいいので、途中で眠くなることはない。1度も観戦したことがない人は、試しに会場に足を運んでみてはどうか。きっとハマるはずだ。

【写真と文】角田保弘