詐欺罪の本質は、他人を欺き、その錯覚した意思に基づいて財物を交付させることにある。被詐欺者は、事実上または法律上被害財産の処分をなしうる権限ないし地位を有する者(処分権者)でなければならない。つまり、詐欺行為の相手方と処分権者とは、常に一致していなければならない。他方、処分権者の意思に基づいて財物を取得するという事実があれば足りるから、被詐欺者(=処分権者)と被害者は必ずしも一致する必要はない。


三角詐欺とは、被詐欺者と被害者とが異なる場合をいう。三角詐欺に関連して問題となるのが訴訟詐欺である。訴訟詐欺は、二つの観点から詐欺罪の成否が問題となる。


ひとつは、民事訴訟において「形式的真実主義」ないし「弁論主義」が採用されており、裁判所は当事者の意思に拘束されて虚偽だとわかっていても裁判をしなければならないのであるから、この場面では「人を欺く行為」が欠けるのではないか、という問題。


もうひとつは、被詐欺者と処分権者・交付者が一致するかという問題。


前者については、民事訴訟においても自由心証主義が妥当するから、欺罔行為の存在を肯定できる、といえる。


後者については、裁判所は判決によって強制執行をなすことができるから処分権者でもあると解すれば両者は一致する。