承継的共犯とは、先行者が犯罪の実行に着手し、その実行行為を全部終了する前に、後行者が先行者との相互の意思の連絡の下でこれに関与した場合、後行者がどの範囲で共犯としての罪責を負うか(後行者が介入前の先行者の行った部分を含めた構成要件実現の全体について罪責を負うか)の問題である。承継的共犯について最高裁判例はいまだに存在しない。


学説は、全面的肯定説、否定説、部分的肯定説などに分かれる。全面的肯定説は、一個の犯罪は一罪として不可分であることを根拠とする。これに対し否定説は、関与以前の先行者の行為について後行者の行為が因果性をもつことはありえないから、先行者の行為について共犯関係を認めない。否定説と並んで現在有力なのが部分的肯定説である。部分的肯定説によれば、先行者の行為が後行者の関与時にもなお効果を持ち続けている場合には後行者も責任を負うとされ、あるいは、先行者の行為が後行者にとっても構成要件実現上重要な影響力を有している場合には、両者が相互に利用・補充し合って一定の犯罪を実現することが可能であるとされる。


部分的肯定説に立った場合、強盗罪のような結合犯では、犯罪全体について共犯を認めることができる。しかし、同じ結合犯でも強盗殺人罪のように、強盗と殺人の結合の仕方が弱い場合にも同様に解することができるかは問題である。この場合にもやはり強盗殺人罪全体の共犯を認める見解と、後行者は死亡の結果を利用したのではなく単に反抗抑圧状態を利用したに過ぎないことを理由として強盗罪の限度で共犯を成立させる見解とがありうる。

事後強盗において、暴行・脅迫行為の時点から、窃盗犯人と意思を通じて暴行・脅迫にのみ加担した者はいかなる罪責を負うか。これについては、事後強盗を身分犯とするか、結合犯とするかで見解が分かれる。


身分犯とする立場はさらに、真正身分犯とするか不真正身分犯とするかで分かれる。事後強盗罪は財産犯として窃盗犯人にのみ適用される真正身分犯であるとすれば(大阪高判昭和62年7月17日)、窃盗の身分を有しない者についても事後強盗罪の共同正犯が成立することとなる。これに対し、事後強盗罪は、何人でも犯しうる暴行罪・脅迫罪に窃盗犯人たる身分が加わって刑が加重される不真正身分犯であると解するなら、窃盗の身分を有しない者については暴行罪・脅迫罪が成立する。


事後強盗における窃盗は、暴行・脅迫に先行する行為に過ぎないから、身分犯ではなく結合犯であるとする立場もある。この場合、承継的共同正犯として事後強盗罪の成立を認める見解と、暴行・脅迫罪の限度で責任を負うとする見解がありうる。

取締役等の説明義務(314条)の程度をいかに考えるべきか。明文上明らかでなく、問題となる。


同条の趣旨は、株主総会における決議事項につき、株主が賛否を決するに当たり合理的判断を成すために必要な資料を提供するところにある。


この趣旨に鑑み、取締役等の説明義務は、合理的な平均的株主が、株主総会の目的事項を理解し、決議事項について賛否を決して議決権を行使するにあたり、合理的判断をするのに客観的に必要な範囲において認められるものと解すべきである。


構成要件該当行為の分担を伴わないが構成要件該当事実の惹起について重要な因果的寄与を行い、構成要件該当事実を実質的に共同惹起したと見うる場合には共同正犯とすることで実態に即した評価が可能となる。


共謀共同正犯を認めるためには、

客観的には、実行と評価しうるだけの共謀関係があるか、すなわち実行に準ずる重要な役割を果たしているか、

主観的には関与者が正犯意思を有しているかの要素を総合的に判断すべきである。

任意取調べ中の被疑者の弁護人となろうとする者から面会の申出を受けた警察官が、申出を速やかに被疑者に取り次がなかった事案で、福岡高判平成5年11月16日(百選38事件)は、以下のように判示。


弁護人等は、「当然のことながら、その弁護活動の一環として、何時でも自由に被疑者に面会することができる。その理は、被疑者が任意同行に引き続いて捜査機関から取調べを受けている場合においても、基本的に変わるところはないと解するのが相当であるが、弁護人等は、任意取調べ中の被疑者と直接連絡を取ることができないから、取調べに当たる捜査機関としては、弁護人等から右被疑者に対する面会の申出があった場合には、弁護人等と面会時間の調整が整うなど特段の事情がない限り、取調べを中断して、その旨を被疑者に伝え、被疑者が面会を希望するときは、その実現のための措置を取るべきである。」


本件は、被疑者が逮捕されず任意取調べ中であり、被疑者の接見交通権が問題となってはいるが、刑訴法39条が適用される場面ではない。


任意取調べ中の被疑者の接見交通権を否定する見解は、刑訴法39条1項のような明文の保障規定がないこと、被疑者はいつでも取調べを拒否できるから接見交通権として保護する必要がないことを理由とするが、被疑者が自分の意思で取調べを拒否して退室することは現実には困難である。


刑訴法30条1項が身体の拘束の有無を問わず弁護人依頼権を保障していること、身体を拘束されている被疑者に接見交通権が保障されていることとの権衡上、任意取調べ中の被疑者には当然に接見交通権が認められると解しうることから、肯定説が妥当である。

共同の利益を有する多数の者で民事訴訟法29条の規定に該当しないものは、その中から、全員のために原告または被告となるべき1人または数人を選定することができる(30条1項)。ここで、「共同の利益」とは、その訴訟によって受ける法律上の利益が共通することであり、具体的には、多数者間に共同訴訟人となりうる関係があり(38条)、かつ各人の主要な攻撃防御方法が共通であることを意味する(最判昭和33年4月17日 百選16事件)。


選定当事者制度は、多数の者が共同して訴訟をする場合に生じる不便、不都合を訴訟手続きを単純化することによって避けることを目的としている。そのため、共同の利益を有する多数者が共同訴訟人となるべき場合には、その各々の訴訟行為も大体同じになることに着目し、その中から総員のために当事者として訴訟を追行できる者を選定できるとして、訴訟手続きの単純化の途を設けた。


もっとも、共同訴訟のすべての場合に常に訴訟手続きが単純化されるわけではなく、とりわけ民事訴訟法38条後段の場合には、訴訟の目的または発生原因についての具体的関連は要求されておらず、共同訴訟人間において訴訟資料が主要な部分で共通となることも少ないことから、主要な攻撃防御方法の共通という基準も加味すべきなのである。

株主平等原則とは、株主としての資格に基づく法律関係について、会社は、株主をその有する株式の内容および持株数に応じて平等に取り扱わなければならないという原則をいう。株主優待制度は、株主をその有する株式数に応じて平等に取り扱っていないものとして、同原則に反するかどうかが問題となることがある。


この点について、同原則は、「株主としての資格に基づく法律関係において」適用される原則であり、株主の表象する権利の中には会社の営業上のサービスを要求する権利は含まれないことから、株主優待制度は同原則とは関係がないとの見解があるが、会社の営業上のサービスを受ける権利もあくまで株主としての地位に基づいて認められるものであるから、株主優待制度も株主平等原則の問題となりうるというべきである。


株主の保有する株式数に関係なく優待を与えることは、原則として、同原則に違反するものというべきであるが、優待制度といえども、優待の程度が軽微であり、かつ、会社経営上の合理的必要性がある場合には、実質的に見て、同原則に反するとまではいえないというべきである。

株主に生じた間接損害について429条1項の責任追及は可能か。


最大判昭和44年11月26日(百選77事件)は「取締役の任務懈怠の行為と第三者の損害との間に因果関係がある限り、会社がこれによって損害を被った結果、ひいて第三者に損害を生じた場合であると、直接第三者が損害を被った場合であるとを問うことなく、当該取締役が直接に第三者に対し損害賠償の責任に任ずべき」とした。


しかし、この判例は、原告が会社債権者の事案であり、株主に生じた間接損害についてまで射程が及ぶかについては解釈にゆだねられている。


株主に生じた間接損害については、株主代表訴訟制度(847条)によって会社が損害を回復すれば、株主の損害も同時に回復されること、取締役が株主に賠償することによって会社に対する責任が減縮すると解すると、取締役の会社に対する責任の一部免除を認めるに等しい結果を招き、425条以下が厳格な要件を置いていることと矛盾する上、会社財産の維持が図れず、資本維持原則に反することから、責任追及を認めないのが多数説のようである。

現経営陣に敵対する株主に株主総会で議決権を行使させない目的で資金を第三者に供与する行為は、「株主の権利の行使に関し」なされたものといえるか。株式を買収するための工作報酬を工作者に供与する行為が「株主の権利の行使に関し」なされたものといえるかが問題となる。


この点につき、株式の譲渡は、株主の地位の移転にすぎず、株主の権利の行使とは言えないとする見解もある。


しかし、株式の譲渡は、株主のあらゆる権利の行使の機会をなくすものであるという理由から、「株主の権利の行使に関し」なされたものと言える。ここでいう株主とは、もちろん工作者のことではなく、現経営陣に敵対する株主のこと。


最判平成18年4月10日(平18年重判商法3)は、株式の譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体は「株主の権利の行使」とはいえないから、会社が株式を譲渡することの対価として何人かに利益を供与しても、当然には120条1項の禁止する利益供与には当たらないとしつつ、会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で、当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、「株主の権利の行使に関し」利益を供与する行為というべきである、とした。


原則として否定説に立ちながら、例外を認める立場である。

取締役会において、事業経営上の必要性と合理性があるとの経営判断に基づいて第三者に対する新株等の発行が行われた場合には、結果として既存株主の持株比率が低下することがあっても許容される。


しかし、会社の経営支配権に現に争いが生じている場面において、取締役会が、支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、現経営者またはこれを支持して事実上の影響力を及ぼしている特定の株主の経営支配権を維持・確保することを主要な目的として新株等を発行した場合には、原則として、「著しく不公正な方法」(会社法247条2号)による新株予約権の発行に該当する。


なぜなら、被選任者たる取締役に、選任者たる株主構成の変更を主要な目的とする新株等の発行をすることを一般的に許容することは、会社法が機関権限の分配を定めた法意に明らかに反するし、また、誰を経営者としてどのような事業構成の方針で会社を経営させるかは、株主総会における取締役選任を通じて株主が資本多数決によって決すべきだからである。


もっとも、株主全体の利益の保護という観点から新株予約権の発行を正当化する特段の事情がある場合には、例外的に、経営支配権の維持・確保を主要な目的とする発行も不公正発行に該当しない。例えば、①グリーンメイラー、②焦土化目的、③LBO、④解体的買収目的等の各場合である。ただし、特段の事情の有無を判断するに当たっては、対抗手段としての必要性や相当性についても検討すべきである。