承継的共犯とは、先行者が犯罪の実行に着手し、その実行行為を全部終了する前に、後行者が先行者との相互の意思の連絡の下でこれに関与した場合、後行者がどの範囲で共犯としての罪責を負うか(後行者が介入前の先行者の行った部分を含めた構成要件実現の全体について罪責を負うか)の問題である。承継的共犯について最高裁判例はいまだに存在しない。
学説は、全面的肯定説、否定説、部分的肯定説などに分かれる。全面的肯定説は、一個の犯罪は一罪として不可分であることを根拠とする。これに対し否定説は、関与以前の先行者の行為について後行者の行為が因果性をもつことはありえないから、先行者の行為について共犯関係を認めない。否定説と並んで現在有力なのが部分的肯定説である。部分的肯定説によれば、先行者の行為が後行者の関与時にもなお効果を持ち続けている場合には後行者も責任を負うとされ、あるいは、先行者の行為が後行者にとっても構成要件実現上重要な影響力を有している場合には、両者が相互に利用・補充し合って一定の犯罪を実現することが可能であるとされる。
部分的肯定説に立った場合、強盗罪のような結合犯では、犯罪全体について共犯を認めることができる。しかし、同じ結合犯でも強盗殺人罪のように、強盗と殺人の結合の仕方が弱い場合にも同様に解することができるかは問題である。この場合にもやはり強盗殺人罪全体の共犯を認める見解と、後行者は死亡の結果を利用したのではなく単に反抗抑圧状態を利用したに過ぎないことを理由として強盗罪の限度で共犯を成立させる見解とがありうる。