合気道をやりはじめてしばらくたつと、

 

 

「合気道と他の格闘技で戦ったらいったいどちらが強いのだろう?」 と考えることがあると思います。

 

 

他の格闘技をやっている人を鮮やかに投げ飛ばせればかっこいいですし、やってみたいという気持ちが芽生えるのも無理はありません。

 

 

でも、合気道は試合もないし、そもそも現代の格闘技の試合では、合気道でやるように手首を押さえる攻撃をしてくる人なんていないし、だから合気道は実戦では使えないし、弱いんじゃないの?

 

などと、その実力を疑い始める人も出てくるかもしれません。

 

 

 

ですが安心してください。

 

それは大きな誤解であり、勘違いです。

 

その理由はこれから説明します。

 

 

合気道現代格闘技とを同列に扱ってはいけないのです。

 

 

というより決して「同列に扱えない」のです。

 

 

合気道に限らず、それぞれの武道の成り立ちやバックグラウンドを知ることにより、その違いを理解することができます。

 

 

多くの人は、武道現代格闘技を同じものとしてとらえているかもしれません。

 

武道というと、「柔道」 「剣道」 「空手道」 「合気道」 などが思い浮かぶでしょうし、

現代格闘技というと 「ボクシング」 や 「K-1」 「ムエタイ」 などが思い浮かぶかもしれません。

 

 

実際、柔道や空手からK-1や総合格闘技に転身したひともいるため、武道も格闘技も同じだろうと考えるのも仕方ありません。

 

 

 

確かに一般的な、「1対1での試合形式」 をとった場合、武道だろうと現代格闘技だろうと、相手を打ち負かして勝ち負けを争うという点では大きな違いないでしょう。

 

 

しかし、武道と現代格闘技とでは、その起源や生い立ち、ひいては目指すものに大きな違いがあります。

 

それぞれ何が違うのかを、古流柔術である合気道を例にとって、はっきりさせましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず言えることは、「合気道は現代格闘技ではない」 ということです。

 

 

 

合気道自体はここ100年以内に作られた比較的新しい武道ですが、合気道のもとになった大東流合気柔術は非常に古い時代に起源があり、古流柔術と呼ばれる部類に含まれます。

 

 

合気道の元になった大東流合気柔術のような古流柔術が生まれた時代は、刀や槍で殺し合いをしていた、いわゆる侍の時代です。

 

 

大東流が生まれたのは平安時代といわれています。

 

 

 

当たり前ですがその時代は、現代のように道がアスファルト舗装などされていませんし、外に出る時も、安定性のあるスニーカーやスパイクなど履いていません。

 

 

敵と戦う場所は、それこそ砂利道か、砂地か、ぬかるんだ田畑か、どんな場所で戦うかはわかりません。

 

当時の戦いとなれば、相手は武器を持っているでしょうから、戦いのさなかにすべって転んでへたり込めば、すぐさま殺されかねません。

 

ちょっとタイム! は通用しません。

 

 

 

ですから当時の人たちは、まず第一に重心と足元の安定性を重視したのです。

 

日本武道がすり足を基本としているのはこのためです。

 

 

 

 

もちろん、戦いの場にはリングもなければレフリーもいません。

 

実戦はすなわち殺し合いですから、当時は現代のような 「試合」 の概念もなく、

 

現代のような勝ち負けを判定するルールもありません。

 

 

そもそも1対1とも限りません。

 

 

こういった、侍や武士が支配していた時代の実戦は主に刀を使った勝負となります。

 

よって当時の実戦における「勝ち」「負け」はそのまま「生」と「死」を意味したのです。

 

 

いざ実戦となれば、誰もが武器を持って戦いをしていた時代ですから、武器をもった相手に対し、

「パンチ」 や 「キック」 で挑もうとする人はいません。

 

相手を殺すことが前提なら、素手より武器を使う方が楽だし効率がいいからです。

 

ですから戦いとなれば、誰しも刀や槍などの武器をもって対応するでしょう。

 

 

 

自分も相手も武器を持っているので、相手と対峙した際、互いにある程度の 「間合い」 があり、刀の間合いでは蹴っても届かないため、合気道には蹴り技はありません。

(大東流柔術には、接近時における足蹴りはありますが、戦場では甲冑をつけているので、空手のような頭まで足を上げるような素早い上段蹴りは基本的に不可能という前提です)

 

 

 

もし自分が武器をもっていない、もしくは失った場合、敵に刀を抜かれることは自分が圧倒的不利になることは明白ですから、そういうときは相手の武器を使えなくすること、すなわち武器を持っている相手の手を封じることが先決になるのです。

 

 

 

合気道には蹴り技がなく、演舞や稽古で、手刀を使ったり、手を押さえにいく動きがよく見受けられるのは、こういった理由からなのです。

 

 

 

「今現在、いきなり手刀で攻撃してきたり、手をつかんでくる人なんている訳ないじゃん!」

 

という難癖をつける人がいますが、当たり前なのです。

 

 

 

 

時代が違えば戦いの概念そのものが違うということです。

 

 

 

 

こういう時代背景から発生した、古流柔術のながれをくみつつ、より人体の動きを深く研究し、相手との調和、自然との融合、 「神道」 の 精神も取り入れて、開祖 「植芝守平」 が武道として体系化したものが現代の 「合気道」 です。

 

 

だからといって、合気道の動きがパンチやキックに全く対応できないということではありません。

 

 

合気道の体裁きをしっかりと訓練することで、パンチや蹴りにもある程度対応はできるでしょう。

 

 

しかし、相手が殴ってくる、蹴ってくることが前提で作り出された、他の武道や格闘技とは考え方そのものが違うため、合気道の動きのみで、パンチやキックへの、より効率のいい対応をすることはもちろん困難です。

 

 

 

ですから、たとえばキックボクサー等を相手に、「キックボクシングのルール上」 で、合気道の技だけを使って戦えと言われれば合気道側が不利になるのは当たり前です。

 

 

そして、それは合気道に限った話ではありません。

 

 

キックボクシングのルールの上で、空手や柔道の技だけで戦えと言われれば空手・柔道のオリンピック選手だろうと不利になるのは明白です。

 

 

逆に、武術や古流柔術の技の中には現代格闘技のルールでは禁止されている危険な技も多くありますから、そういうものも含めて相手の怪我など一切考慮せずに、何をしてもいいという条件であれば、結果はまた違ってくるでしょう。

 

 

そもそも合気道のような 「vs刀」 を想定した時代背景から生まれた体術をベースとする武道と、徒手格闘で顔面を狙って殴ることを基本とする現代格闘技を同列に扱おうとすること自体に無理があります。

 

 

ご存知の通り、合気道は、相手を攻撃し相手をやっつけることを目的とした武道ではありません。

 

 

合気道の 「合気」 は 「相手とわせる」 という意味を持ちます。

 

その意味することは、相手との調和です。

 

それは究極的には相手と争わないということです。

 

もちろん相手が自分を殺そうと攻撃してきたときはそれに対応しますが、その戦い方も他の武道や格闘技にはない、入り身・転換を基本とした円運動を中心に、攻撃をしてきた相手のエネルギーを利用して相手を倒すという独特なものです。

 

 

そのような動作の中にも、相手との調和という理念は表れています。

 

 

すなわち、自分と相手とのエネルギーをぶつけないということなのです。

 

 

合気道の稽古は、いかに自分と相手とのエネルギーをぶつけずに対処するかが重要視されます。

 

相手に体を押さえられ、一見身動きが不可能のように思える状況で、いかに体の緊張を解きつつ、そこから脱出し、相手を傷つけず、さばき制することができるかなどの、自分と相手との力のベクトルを感じ取り、攻撃してきた相手のエネルギーの量、方向を読み解き、その対処方法の向上を日々目指していくというものだと私は理解しています。

 

 

 

どんな競技や武道でもそうですが、

 

 「試合」 という状況では、お互いがお互いを倒そうとするあまり、攻撃する意識と力が真っ向からぶつかり合います。

 

しかも、ルールに従い何らかの方法で相手を倒さないと試合を終わらせられません。

 

 

こういった状況では相手と気を合わせることは不可能といえます。

 

 

つまり試合という状況になった時点で合気道の出番はないのです。

 

 

合気道に試合がないのはこのためです。

 

 

こちらに攻撃する意思がなければ試合そのものが成立しませんから、そこに勝ちも負けもありません。

 

 

別に弱いから試合から逃げているとか、そういうことではないのです。

 

「試合」 という形式にしてしまうことで、必ず 「勝ち負けの判定」 をしなくてはならなくなります。

 

 

なにをもって勝敗とするのか? というレギュレーションを決めなくては判定ができません。

 

 

武士の勝負のように、相手を殺すわけにはいきませんから、こうしたら有効、こうしたら一本というように、それ専用の独自の規定を設けなくてはならなくなります。

 

 

その判定方法は、ご存知のように競技の数だけ違いがあります。

 

 

たとえば、相撲もレスリングも様式は似てはいますが、勝ち負けの判定方法は全然違います。

 

 

どっちか一方のルールに基づき、どっちが強いとか弱いとかの判定は当然できません。

 

 

すでに述べた通り、合気道は必要がない限りこちらから攻撃しないことが前提で、相手が襲ってきた際に、相手の力を利用しつつ捌き制することが基本になります。

 

 

ですから、合気道をやっている人たち同士で、互いに合気道の技を使って試合をすることはできません。

 

 

世の中には 「実戦合気道」 的なことを謳って、合気道の技を互いに力ずくで無理やり掛け合うような試合を行っている合気道道場があるみたいですが、それは私から言わせれば、極めて無意味なことをやっているようにしか見えません。

 

 

攻撃する意思がない人を攻撃する必要はないので、そこに争いは生まれません。

 

 

こういった意味での 「相手と争わない」 という理念が根底にあるということを、合気道をやる人は理解していなくてはいけません。

 

 

「合気道の技を使って、他の競技者を倒してやろう、ふふふ・・」 という邪気が生まれている時点で、すでに負けているのです。

 

 

 

 

現代におけるリング上での試合で勝利することが 「強さの証明」 であり、それこそが 「実戦」 であると思っている人には、この理念はなかなか理解できないかもしれません。

 

 

 

 

ですが、根本的な話として、いったい 「実戦」 とはなんでしょうか?

 

 

リングでレフリーがいてルールのある試合が実戦でしょうか?

 

あなたが家でくつろいでいるときに家に強盗がはいってきて、それが実戦になるかもしれません。

 

相手は武器を持っているかもしれませんし、一人とも限りません。

 

歩いているときに誰かと肩がぶつかり、因縁をつけられ、実戦になるかもしれません。

 

実戦は意外にもエスカレーターの上とかエレベーターの中で起きるかもしれません。

 

もしかしたら駅のホームかもしれません。

 

いや、電車の中かもしれません。

 

もちろん、リング上でのファイトも実戦かもしれませんが、ありとあらゆる状況が想定される実戦の中のたった一つにほかなりません。

 

そう、真の実戦とは、定められた状態を言うことではなく、日常のありとあらゆる状況が、場合によっては実戦になりうるのです。

 

 

 

その上で言うならば、リング上での試合をもって実戦を定義することは誤りであり、それが強さの証明にはならないということがわかります。

 

実戦というものが、本当の命の駆け引きであった時代が過去にあったということを理解したうえで、本気で 「実戦」 というものを語るのであれば、現代のリング上での試合形式のファイトは、人間の強さを証明する指標には決してなりえません。

 

あくまで独自のルールに従った、その場所でのみ通用する強さともいえるでしょう。

 

 

 

乱暴な言い方をすれば、現代のリング上におけるファイトは、人類の争いの歴史から見ればあまりに稚拙だといえます。

 

というのも、現代格闘技は相手を必要以上に傷つけないようにあらゆる配慮がされているからです。

 

 

例えば試合の度に、膝関節を蹴り砕いて損傷させたり、腕の関節を破壊したり、指を折ったり、目をつぶすことがOKな競技などありませんし、あってはなりません。

 

 

そもそも、そういう行為は現代格闘技ではルールによって禁止されています。

 

 

しかし実際問題、相手の怪我など一切考慮せず、手っ取り早く敵を倒すのであれば、例えば、金的を打ったり、関節を破壊したり、喉笛を突いたり、目突きをしたり、髪を引っ張ったり、噛みついたりしてひるませ、体制を崩したあと、足でもひっかけて後頭部から硬い地面や石に叩き付けた方が効率良く人体を破壊出来ます。

 

 

もちろん、その結果として相手は死ぬかもしれません。

 

 

 

ですが、一々掴み合って力技で投げるなんてパワーのかかる事をするより、この方法は 「実戦」 においてとても効率のいい戦い方であるといえます。

 

 

 

あくまでも一例ですが、こういった方法であれば、過度な筋力トレーニングも必要なく、女性であろうと、大男と互角に戦うことができるでしょう。

 

 

そして、古流武術のなかには、現在では禁止されているようなこういった危険な技が多くあるのです。

 

 

 

 

現代格闘技の試合では、もちろん金的攻撃も、目突きも、喉突きも、噛みつきも、髪の毛を引っ張ることもルールで禁止されています。

 

 

そして、万が一にも指が目に入ることがないよう、ボクシングでも総合格闘技でもグローブをつけて試合を行いますし、寝技なども、倒されたり投げられても安全な床があるリングの上で行うのです。

 

 

違反行為や危険行為だとレフリーが判断すれば、戦いの最中だろうとその場で中断もできます。

 

現代においては、 「戦い」 「実戦」 と言うと、こういったリング上で行われる総合格闘技のことを真っ先に思い浮かべる人が圧倒的多数でしょうし、そういうコンテンツばかり見させられていればそういう風に思うのも無理はありません。

 

 

しかし一方で、考え方を少し変えれば、数百年前の、ルールが一切なかった時代の実戦では全く通用しない戦い方であるといえるのです。

 

 

 

 

何度も言いますが、時代や環境が異なれば、戦いに対する概念が異なります。

 

 

 

現代の競技格闘技において、ルール無視の危険な技を行えば、違反で失格となり、仮に対戦相手を行動不能にしたところで勝ちにはなりません。

 

町中での喧嘩で、不用意に相手を殴り怪我を負わせれば、場合によっては傷害事件となり警察に捕まります。

 

 

そうなれば相手を倒したといきまいたところで、警察に捕まった方が負けということになるでしょう。

 

 

現代では必要以上に相手を傷つける行為はあらゆる場面で禁止されているのです。

 

 

 

ですから、武器を用いた戦いである上に、一撃必殺で相手を殺すことも厭わない戦い方が多かった時代で培われた戦闘をベースとする武術と、あらゆる配慮がなされ極めて限定された条件で行われる競技格闘技とを、同列に扱える訳がないのです。

 

 

 

もっと正確にいうならば、 「徒手格闘による1対1での殴りあい・蹴りあいを前提とし、試合というルールのある限定された条件において勝つ」 ということを主目的として、それ専用の訓練を行う現代格闘技と、 「ルールもなく、武器を使って戦っていた侍の時代の体術を今に継承し、技を磨くことで効率の良い体の使い方を知り、日頃の生活にも役立てることができる武道」 とを比較して、 「どっちが強いのか」 などと言及することは、ナンセンスで意味のないことなのです。

 

 

 

もし、両方をごちゃまぜにして無理やり、何が一番強いのかという比較をしようとすれば、戦いの方法は多岐にわたるでしょう。

 

それこそ、統一されたルールなど設定できるわけもなく、当然、武器を使うことも容認されなくてはならなくなるでしょう。

 

そうなれば、素手で正々堂々殴りあうことなんて馬鹿らしくなるかもしれません。

 

そうなれば、刀や槍をうまく使える人が強いのでしょうか?

 

いや、刀や槍を封じるために忍者が用いたクサリ鎌なんて古臭い武器も有効になるのでしょうか?

 

いえ、そもそもレフリーが合図をしてから開始される戦いなど現代のみなのですから、弓矢を使って遠くから敵を狙った方がより安全でしょうか?

 

相手に気づかれないうちに不意を突いて死角から近づき、毒矢を撃つとか、首の骨を折るとか、そういう技がある意味一番強いかもしれません。

 

もう、こうなってしまえば、なにをもって勝ちとするのかという条件付けをしようとしたとき、それは結果として相手を効率よく殺せた方が勝ちという大昔の勝負方法に帰結するでしょう。

 

こうして考えてみると、現代で主流の戦い方と、いにしえの時代の戦い方を単純比較などできないことがわかると思います。

 

 

 

 

 

時代が違えば戦い方の概念そのものが違います。

 

 

 

 

それぞれの時代の戦の場に必要とされた戦い方があり、その時代はその戦い方が有効であり、必要とされていたのです。

 

 

 

 

ですから、現代の基準で何が一番強いかと考えることは実に無意味なことだといえるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

そういうわけなので、

 

 

古流柔術である合気道が 「vs 現代格闘技」 にむけた対策をする必要性は全くないと思いますし、逆にそれを追求しすぎれば、本来の合気道から離れていくと思います。

 

 

合気道に限らず、武道を行う人は、現代格闘技との比較など気にすることなく、安心して、自信をもって、その武道に勤しんでいただきたいと思います。

 

 

 

 

なぜなら武道の 「真の目的」 は、競技格闘技と戦うことでも、敵と戦ってそれを倒すことでもないからです。

 

 

 

 

その武道のベースとなったものが、過去には実際に殺人的な術だったとしても、武道として伝承され体系化された現在、それは人を殺めることを目的としたものではなくなり、稽古を通じて相手を知り、自分自身を知り、日々の実生活において己と人との関係性を向上させ、闊達としていられる心と体を作るものです。

 

 

 

 

多かれ少なかれ、武道として体系付けられ今に継承されているものは、その発生・由来に必ず意味があり、バックグラウンドがあります。

 

歴史が古い武道であればなおさらです。

 

 

 

現代の総合格闘技・競技格闘技とは発生段階での概念が違うので、比較のしようがありませんし、

そもそも何が一番強いという比較をすることは無意味です。

 

 

 

武道が総合技格闘技と同じ土俵で戦う必要はありません。

 

なぜならそういう目的のためにできたものではないからです。

 

 

 

もし 「総合格闘技」 で勝ちたいのであれば、総合格闘技用の訓練や練習をすべきであり、好き好んで武道を稽古する必要はないでしょう。

 

 

 

 

 

「合気道は総合格闘技と戦ってみろ。それで勝てれば強い。勝てないなら弱い。」

 

 

 

といった言論は実に馬鹿げており、見当違いであるということが分かったと思います。

 

 

 

 

 

 

だってそういう発言は、武道についても格闘技についても、何もわかっていないことの証明なのですから(笑)

 

 

 

 

おしまい。

 

 

ついに 「いずも型護衛艦」 の空母化に向けた改修の詳しい内容が正式に発表されました。

 

以前にもこのブログであれこれ考察していましたが、

 

誰もが予想だにしなかった改修内容として、

 

「船首部分を四角形に改修する」という部分が、多くの人を驚かせたのではないだろうか?

 

 

 

 

護衛艦いずも 空母化についての考察② でもすでに言っているが、F-35Bを発艦させる際には最低でも100mほどの滑走距離が必要であることが、米海軍のワスプ級からの発艦映像を見てわかる。

 

 

通常状態のいずもでこの滑走距離を確保するためには、

画像に示したこの2パターンでの発艦方法が考えられる。

 

 

 

F-35Bの発艦は、当然ながら強力なジェット噴射を伴うため、艦橋部分に近い場所からの発艦は、搭乗員にとっても船自体にとっても、さまざまな危険を伴う。

 

 

そうなるとヘリコプター発着スポットが書かれた部分からの発艦が妥当となるわけだが、画像をみてもわかる通り、途中で甲板に切れ込みがあるため、艦左側からの発艦では船首部分に到達する前に機首を上げて発艦をしなければならない。

普通に考えてこの発艦方法はパイロットにとっては機首上げのタイミングという意味で相当難易度があると思われるし、危険でもある。

 

 

さらに滑走距離を確保するために艦中央部から発艦するため、必然的にヘリ発着スポット3つ分を消費することになる。

 

 

結果論ではあるが、こういった部分も踏まえ、ワスプ級の船首と同様の形状とすることで、滑走距離の確保と、余剰ヘリ発着スポットの有効活用が可能となる。

 

改修後のいずも型護衛艦イメージ

 

 

 

CIWSの位置がどう変わるかは不明だが、戦闘機の離発着に支障が出ない位置に移動されるだろう。

 

 

 

当然ながら格納庫の規模は不変であるし、本来の対潜哨戒ヘリを運用するという任務を放棄するわけではないため、戦闘機の搭載機数は、多くてせいぜい5~6機程度だと予想される。

 

少ないと感じるか、当然と感じるかは人それぞれだが、

 

 

このいずもの改修は、大東亜戦争敗戦以降、空母運用ノウハウを完全に失った日本にとっては、戦闘機を船舶で運用するノウハウを再度獲得する意味で大きな一歩となることは間違いない。

 

このままいけば、日本も正規空母とまではいかないまでも、もっと本格的に固定翼機を運用するために特化した、全通甲板採用の艦を将来導入するだろう。

 

 

中国海軍の勢力拡大は予想以上のスピードで進んでおり、将来的に空母を4隻保有することまで正式に表明している。

しかも4隻目には嘘か誠か、電磁カタパルト搭載まで目論んでいるという。

 

 

そうなれば南シナ海をはじめ、今後ますますの海洋進出に向けた動きを活発化させてくることは自明の理である。

 

 

日本もすでに防戦一方で対抗できなくなっているため、いざとなればいつでも戦闘機を複数搭載した船舶を派遣できる姿勢を明白にすることがより強い抑止力となるのである。

 

 

 

今後の動向に注目したい。

 

 

 

海上自衛隊最大の護衛艦である「いずも型護衛艦」の空母化に向けた改修がいよいよ本格的にスタートしそうだ。

 

 

前回のブログでも、いずも型護衛艦の空母化に向けた考察を行っているが、そこでも述べた通り、「空母化」とはいっても、実際にはあらゆる面において限定的な機能しか持たせることができないため、改修いずもでは本格的な固定翼機の運用はできないと考えられる。

 

 

それでも、F35B の離発着訓練や、格納庫への搭載など、自衛隊が固定翼機を艦船で運用する上でのノウハウを積むための練習空母として大活躍することは想像に難くない。

 

 

自衛隊への F35B の納入も当分先であろうから、米軍の保有する機体での共同訓練が先んじて行われることだろう。

 

 

さて、その辺のことに関して、現在Twitterなどでも話題になっていることがある。

 

 

 

それは、いずもから F35B を発艦させる際に、飛行甲板をどのように利用するかということについてだ。

 

 

 

具体的には、いずもの飛行甲板にスキージャンプ台を設置するのか?しないのか?ということだ。

 

映画「空母いぶき」より

 

 

 

 

これについては、以前から様々な意見が飛び交っていたが、

 

結論から言うと、筆者は「スキージャンプ台の設置はない」と考えている。

 

 

なぜか?

考えられる理由としては、

 

①スキージャンプ台を設置することで、ヘリコプター発着スポットが1~2か所失われるため。

②費用対効果に見合わないため。

③兵装を満載して飛び立つような固定翼機の運用は行わないため。

④ワスプ級等スキージャンプ台が無くても F35B を運用できている船があるため。

 

だと思われる。

 

 

 

 

 

スキージャンプ台作ると、やっぱスポット2個は潰れるよな・・

 

 

しかも第一エレベーターのすぐ脇にジャンプ台の傾斜が来るため、この位置のスキージャンプ台設置は、本来のヘリコプターのオペレーションにも支障をきたすと思われる。

 

こうしてみると結構デカいし、重量も相当なものになりそう・・

 

 

これだけの規模のものを新たに作るとなると、重心位置の問題や重量配分でかなり厄介な問題になるのでは?

 

 

 

 

 

 

実際、ワスプにおける F35B の発艦を見てみると、それほど長い滑走距離を必要とせずに発艦できていることがわかる。

youtubeより

ワスプ級にはスキージャンプ台は無い。

 

 

 

これをみると、スキージャンプ台なしでも、ワスプ上のヘリコプター発着スポット3つ分程度の滑走距離で発艦できている。

(兵装の量は不明)

 

 

 

 

 

あの手この手で、実際の滑走距離を計算してみると、おおよそ101mだということが分かった。

この距離をいずもに当てはめてみると、第1エレベーターの後ろから船首までの距離に相当することがわかった。

 

よって、いずもからの発艦では、第1エレベーターで飛行甲板に上げたら、少し後ろに引っ張ってそのまま離陸体制をとれることになる。

イメージ図(殴り書きでスミマセン・・)

 

 

 

 

ワスプの飛行甲板は幅が32mであるので、ワスプにおける F35B 発艦スペースは幅約16mであることもわかる。

 

 

画像をみてもわかるが、F35B の幅が10.67mであるのに対し、16mの幅の滑走路でも割とギリギリのような印象を受ける。

 

 

 

 

 

いずもの船首部分の幅が約18mであるので、16mのワスプと比較しても F35B の発艦には十分な幅がある。

 

だが、いくら2mの余力があるとはいえ、いずもの船首に設置されているCIWSは取り払わないとダメであろう。

 

(近くで見るとわかるけど、CIWSって結構大きい・・ 台座の部分の幅でゆうに2mはあるからね・・)

 

船首部分からの発艦となるとさすがにどこか別の場所に移設しないとまずいと思われる。

 

 

 

 

というわけで、スキージャンプ台設置は、いずもの対潜哨戒ヘリを運用するという本来の任務にも支障をきたす恐れがあるという側面からして現実的ではないと考えられる。

 

 

また、滑走場所も、いずもの船首左上の切れ込みの入った場所に向けて発艦するとは思えないので、飛行甲板中央から最も先端部の位置に向けて発艦するものと思われる。

 

 

そうなれば、飛行甲板への耐熱処理と、CIWSの移設、あとはせいぜい燃料供給をどうするかといった問題さえクリアすれば、一応は F35B を受け入れる体制は整うのではないだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

新年あけましておめでとうございます。

 

相変わらず不定期なうえに、しょーもない文章力のブログですが、今年もよろしくお願いいたします。

 

 

 

 

さて、昨年の年末に興味深い記事が各方面から出されました。

 

それは、防衛省が、海上自衛隊の「護衛艦いずも」に空母化へ向けた改修を行うことを検討している。というものです。

 

護衛艦いずも

 

 

 

 

くわえて空母に改修したいずもに搭載する艦載機として、F-35B型の導入も検討しているという話。

 

F-35B型(垂直離着陸が可能なタイプ)

 

 

 

 

海上自衛隊の「護衛艦いずも」は、全長248m、幅38mの広大な甲板を持ち、対潜哨戒ヘリコプターSH60Kを5機同時に離発着させられる能力も持つ、海上自衛隊で最大の護衛艦であり、ヘリコプターの運用を前提に作られたヘリ空母として誕生しました。

 

 

しかし、いずもは旧日本海軍が運用していた正規空母「飛龍」全長・排水量ともに上回っており、就役した当時から、F-35B型の運用も可能なのではないかと、まことしやかにささやかれていました。

 

空母「飛龍」

 

 

 

しかし、護衛艦いずもは、あくまでもヘリコプターの運用のために作られた護衛艦であり、固定翼機を運用するためには作られていないため、そのままではF-35B型を運用をすることは困難である。

 

 

今回のいずも改修計画は、近年海洋進出と、尖閣諸島奪取を目論む中国をけん制する意味合いがあることは間違いない。

 

 

日本が固定翼機を運用できる船舶を持っているということは、中国からしてみれば、離島周辺に日本の空母があるだけで、制空権を抑えられ、離島に上陸しても空母艦載機からの攻撃を受ける可能性があるため、日本の離島を占領することが、より一層困難になるということである。

 

 

日本の空母保有という計画は、離島を奪取せんとする中国にむけた日本の離島防衛に対する強い意思表示であるとともに、強い抑止力にもつながるのである。

 

 

 

では、今回のいずも改修計画が順調に進んだとして、護衛艦いずもはどのように改修されるのか?

今後、自衛隊は何を計画しているのか?ということを、今ある事実に基づいて考察していきたいとおもう。

 

 

 

 

護衛艦いずもでF-35B型を本格的に運用するためには、いずも自体の改修にとどまらず、必用な改修がいくつもある。

 

① 飛行甲板を耐熱素材へ改修

② スキージャンプ台の搭載

③ 固定翼機への武器搭載能力の付与

④ 固定翼機への燃料搭載能力の付与

⑤ 固定翼機を船舶で運用するための人員の教育

⑥ 航空自衛隊と海上自衛隊の統合運用

⑦ 格納庫の拡張

 

 

 

 

思いつくだけでも、最低これだけの能力向上がなされなければ、本格的な空母の運用などできないといえる。

 

特に⑤⑥は、いずもを改修したからといって済む話ではない。

 

⑦に関してはほぼ不可能な事案である。

 

 

 

 

では、⑦を除く①~⑥までを達成することははたして可能なのか?

 

 

 

 

①飛行甲板の耐熱素材への変更

 これは、最も早期に達成可能な改修といえよう。

現時点で、いずも型護衛艦及びひゅうが型護衛艦の甲板は、オスプレイの排熱に耐えられる程度の耐熱強度があることが分かっている。

ただ、F-35B型のジェットエンジンの排熱に耐えられるほどの耐熱強度があるかは不明である。

だが、耐熱素材を含んだ塗料の塗布など、大規模な改修を伴わずに達成可能な項目であるといえる。

 

 

 

②スキージャンプ台の搭載

 これは大規模改修が必要な事案である。

F-35B型は垂直離着陸が可能な戦闘機であるが、燃料と兵装を満載した状態では重すぎて垂直離陸は不可能である。

燃料と兵装を満載して飛び立つ際は、長い滑走距離を使って飛び立つか、スキージャンプ台を用いて飛び立つ方法が用いられる。

 

スキージャンプ台を搭載しているスペイン海軍の強襲揚陸艦「ファンカルロス1世」

 

 

スキージャンプ台を搭載している英国海軍の空母「クイーンエリザベス」

 

 

 

ただし、いずもは船首下部にバルバスバウ型の対潜ソナーを携えており、船首方向にさらにスキージャンプ台を増設すると、船首方向の重量が過多になってしまうのではないかという懸念がある。

 

また船首には近接防空火器のCIWSがあり、スキージャンプ台を搭載しない場合でも、CIWSの位置は現在の位置から別の場所に移さなくてはならなくなるだろう。

 

 

ちなみに米国のワスプ級はF-35B型の運用を行っているが、スキージャンプ台は搭載していない。

ワスプ級強襲揚陸艦(全長257m)

 

 

いずもも、248mの甲板を最大限に使用すればスキージャンプ台なしでも、F-35B型の離陸は行えるかもしれない。

 

 

 

 

③ 固定翼機への武器搭載能力の付与

④ 固定翼機への燃料搭載能力の付与

  現時点で、いずもにおける回転翼機への燃料搭載能力や兵器搭載能力がどの程度あるのか?

また、兵装庫の大きさや、燃料タンクの規模などが全く不明であるため、これはどの程度の改修が必要なのかが推測できない。

 

ただ、ヘリコプターに搭載する燃料、兵装と、戦闘機に搭載する燃料、兵装とでは規模が全く異なるため、現時点での回転翼機用の規模の装備では、戦闘機には対応できないと考えられる。

現時点での格納庫サイズを広げることはまずできないと考えられることから、F-35B型に供給できる燃料や兵装の量は極めて限定的な規模にとどまるであろう。 

 

F-35戦闘機は、多彩な兵器を搭載できる。

 

 

⑤⑥のまえに⑦の話をする

 

 

⑦格納庫の拡張

 これはまず不可能である。

船体の設計段階から見直す必要があり、改修でどうにかなる話ではないからだ。

 

いずも型護衛艦の格納庫は、第一格納庫・第二格納庫、後部の航空整備庫まで入れると、全長125m、幅21mの広さがある。

 

ここにF-35B型をいれるとどんな感じになるのか?

 

こうして適当にざっと並べただけでも、格納庫内に11機は収まってしまう。

もっとぎゅうぎゅうに詰めれば13~14機はいけそうだが・・

 

 

しかし、格納できればそれでいいという話ではない。

 

仮にぎゅうぎゅうに幅寄せして14機程度を格納したとして、今度は本来の対潜哨戒任務に必要なヘリコプターの収納スペースがなくなる。

 

 

対潜哨戒任務及び、救難任務などに必要なヘリは最低でも3機以上はいるし、MCH101などの輸送ヘリも搭載していなくてはならない。

 

 

このほかにも、先ほども言ったように兵装をおくスペースや、戦闘機のエンジンを換装・整備するスペースも必要になってくる。

 

 

そう考えると、本来のヘリコプター搭載機数を維持しつつ、戦闘機の格納・整備もするとなると、この規模の格納庫に置いておけるF-35B型の数は5~6機が限度ではないだろうか?

 

 

この戦闘機の搭載機数では、1個編隊の運用しかできない。

 

 

効率的に航空機を運用しようとすれば、予備機を含め、2~3個編隊計15機程度が理想であると考えられる。

 

 

ヘリなどの搭載スペースを削れば無理やり15機を収めることは不可能ではないかもしれないが、運用上全く現実的ではない。

 

 

そうなると、いずも型護衛艦をいくら改修したところで、本格的な空母としての運用ができるわけではないことがわかる。

 

結局いずもは、いい意味でも悪い意味でも、ヘリコプター運用に特化した空母型護衛艦であり、それ以上でもそれ以下でもないのだ。

 

 

 

では、戦闘機を1個編隊しか運用できない中途半端な空母化への改修に何の意味があるのかと思われるかもしれないが、筆者はこれにはもっと先への野望があると考えている。

 

 

ここから先ほどの⑤⑥につながってくるのであるが、

 

 

自衛隊は近い将来、本格的な強襲揚陸艦の導入・運用を始める可能性がある。

 

防衛省が数年前に公開した、将来の強襲揚陸艦導入に向けたプレスリリース

(強襲揚陸艦というと、野党や左翼の方々にいちゃもんつけられるだろうから、おそらく「大規模輸送型護衛艦」的な名前で導入されると思う。)

 

 

 

 

2014年には小野寺五典防衛相が米海軍サンデイゴ基地を訪れ、米国海軍の強襲揚陸艦「マキン・アイランド」を視察し、離島奪回作戦で使う新型艦の導入を本格的に検討する意向を明らかにしている。

USS マキンアイランド (ワスプ級の発展版ともいえる)

 

 

おそらくこの強襲揚陸艦おっと、「輸送艦」は、「おおすみ型輸送艦」と「いずも型護衛艦」をミックスしたようなものになると予想され、LCACやAAV7が発進可能なウェルドックを装備し、かつ航空機も同時に運用できるような大規模な格納庫と飛行甲板を有するものと思われる。

 

端的に言えば、米国海軍のワスプ級やアメリカ級揚陸艦に近似したものになる可能性が高い。

 

 

 

 

 

先ほどの話に戻るが、

いずも型護衛艦の空母への改修というのは、最終的にはこの「揚陸艦導入後の運用のための人員の教育とノウハウの蓄積」のために行うところが大きいと筆者は考えている。

 

また、「いずも」の改修が終わった時期に都合よくF-35B型が手に入っているかどうかもわからない。

 

 

防衛省は、はなから改修した「いずも」で戦闘機を本格運用する気はなく、まずは岩国に配備されている米国のF-35B型と改修いずもで共同訓練を実施し、船舶における戦闘機の運用、指揮、格納等のノウハウを積むことを目標にしていると考えられる。

 

 

その程度であれば、数多くのF-35B型をいずもに格納する必要はなく、日本向けのF-35B型の導入を急がなくてもよい。

 

しかも、米国所属であれ、F-35B型が海上自衛隊のいずもに離発着しているという事実が作れれば、それだけで中国に対する強い抑止力につながるのである。

 

 

恐らく10年以内に自衛隊向けの強襲揚陸艦が導入されると考えられ、その時点で、自衛隊におけるF-35B型の本格的な運用もスタートするであろう。

 

そのころまでには、空自所属のF-35A型の配備も今より進み、自衛隊におけるステルス戦闘機の運用・整備能力も向上しているころであるだろうから、まずは現有装備の改修と米国との共同訓練でノウハウを蓄積することが先決であろう。

 

 

ただ、今から10年後の2030年頃には、中国の空母が4隻に増加している可能性が高く、ますます海洋進出を強めてくることは想像に難くない。

 

よってそのころまでに、自衛隊も固定翼機を船舶で運用できる能力を獲得していることが大切になってくるのであり、そのことが尖閣諸島をはじめとする離島防衛能力を大幅に向上させることにもなる。

 

いずも型護衛艦の空母化へ向けた改修は、日本が離島防衛に本格的に乗り出すという強い意思表明の現れなのである。

 

 

 

さて、今回も10式戦車についての話題である。

 

10式戦車は陸上自衛隊の最新鋭戦車であり、現在も量産配備が継続中である。

 

その特徴の一つとしては、モジュール装甲の採用という部分がある。

 

脅威に応じて装甲の着せ替えが可能であり、技術革新により新しい装甲ができれば、装甲を新しいものに換装することが容易に行えるのである。

 

 

 

このモジュール装甲は、車体の軽量化にも大きな貢献を果たしており、従来の90式戦車が重量50トンだったのに対し、10式戦車は44トンと、6トンもの軽量化に成功している。

 

勿論、この軽量化には様々な要因があり、車体設計の工夫や、エンジントランスミッションの大幅な軽量化などが大きく貢献しているといわれている。

90式戦車の採用から20年経っている現在では、装甲技術も大幅にアップしているので、防御力を維持しつつ装甲の軽量化を行うこともできるので、そのような複合的な要因により10式は世界の同世代の戦車の中でも、最も軽量な戦車といっても過言ではない。

 

 

さて、いよいよ本題だが、

 

通常、戦車の装甲といっても、現代の戦車はすべて均一の装甲によっておおわれているわけではない。

被弾率が最も大きい車体前面と砲塔前面には「複合装甲」が施されており、それ以外の部分には防弾鋼板などによる装甲が基本となっている。

複合装甲はHEAT弾やAPFSDS弾による攻撃を防ぐ強力な装甲だが、戦車全周にこの複合装甲を施してしまうと、重量が無制限に増加してしまい、機動力が損なわれてしまうので、最も被弾率の高い部位にのみ複合装甲は設置されている。

 

 

 

そして、この複合装甲の設置範囲は、前方60度からの被弾に対し、乗員を防護できる範囲に設置することが基本になっている。

 

 

 

 

例①   M1エイブラムス戦車の複合装甲配置

 

 

 

 

 

例②    90式戦車の複合装甲配置

 

乗員ハッチの位置を見るとわかりやすいが、いずれの戦車でも、前方60度の角度から乗員を防護できるように複合装甲が施されているのがわかる。

 

 

 

では10式戦車ではどうだろう?

まず、乗員ハッチの位置を乗員のいる場所と考え、上の2つの戦車の例を参考に、10式戦車の図に当てはめてみよう。

 

 

 

ハッチをぎりぎり覆う形で考えるとこのようになる。

90式戦車の例と比較しても、60度の支点が環境センサーの折り畳み位置となっているので、10式の防護区画もこの考えでまず間違いないとまずは仮定する。

 

 

 

 

さて、次は10式戦車の複合装甲は一体どこに存在するのか?という話であるが、実は10式は90式とは違い、複合装甲を含めた主装甲はモジュール装甲を含む装甲カバーにおおわれていて、外見から複合装甲の配置を推測することが非常に難しくなっている。

 

だが、現時点までに公開されている資料や写真から、おおよその装甲配置については大まかではあるが、ある程度は推測が可能である。

 

 

 

 

筆者の考える10式戦車の装甲配置①

赤で塗りつぶした位置が複合装甲

黄色が装甲カバー

緑がモジュール装甲

青が防弾鋼板等による装甲

 

筆者は装甲配置はこのようになっていると推測している。

 

しかし、この図をみてわかる通り、この複合装甲配置では前方60度からの乗員防護がなされていない。

 

 

この装甲配置で前方60度から確実に防護できる範囲は砲塔の中心部のみで、この状態では車長も砲手もカバーできていない。

 

車長、砲手ともにこの装甲配置でカバーしようとすると、前方25度程度の範囲の攻撃のみカバー可能ということになる。

 

10式戦車はモジュール装甲を取り外した砲塔の本体が、戦車後部に行くにつれて広がっていく形になっているので、砲塔前面を覆う複合装甲の幅は、車体後部と比較して、どう頑張っても狭くならざるを得ないのである。

 

 

 

さて、ここまで色々と推測してみると、いくつかの可能性が考えられる。

 

可能性①「複合装甲の防護範囲減少は別の要因でカバー?」

上で示した複合装甲の配置は、推測とはいえ、ほぼ間違いないと考えられる。

そして、この配置では前方60度からの乗員防護が達成されていない。

とすると、10式戦車はそもそも、敵戦車に側面から不意打ちを食らうような状況を想定していないという可能性が考えられる。

 

10式戦車は戦車では世界初のハイビジョンカメラによる画像認識技術を駆使した自動索敵機能や高度なセンサー、そしてC4I機能による情報共有により、敵を素早く発見し、追尾、攻撃することが可能になっている。

また、これも戦車では世界初の、新開発の無段階変速機能付ディーゼルエンジンによる高い機動性により、前進・後退いずれも時速70キロで疾走が可能である。

 

こうした新機能によって、10式戦車は常に敵を先に発見し、その敵戦車を常に正面に捕らえ、仮に攻撃されても、その高い機動性により被弾を避けるか、被弾を正面に限局させるというコンセプトなのかもしれない。

 

可能性②「脅威に応じ、モジュール装甲の中身が変化」

基本的な装甲配置は上の図に示した通りだが、10式戦車はモジュール装甲が側面を覆っていることをわすれてはならない。

通常このモジュール装甲はHEATのメタルジェットを外すための空間装甲ではないかと推測されているが、敵の脅威度に応じて、このモジュール装甲を別の装甲に付け替える可能性も考えられる。

76mm発煙弾発射器を覆う最前列のモジュール装甲は変更できないにしても、

その後ろからのモジュール装甲は脅威度に応じて別の材質の装甲に換装できるであろう。

 

たとえば2番目の装甲を複合装甲に交換すると、敵戦車からの前方60度からの攻撃にたいしての乗員防護が可能となるのである。

このほかにも、爆発反応装甲など各種装甲の追加も可能である。

 

外見の変化なしに、装甲の厚み、材質の変更が可能なのが、モジュール装甲の利点である。

 

 

10式戦車は通常の状態で44トン

 

最大で48トンまでの重量増加バージョンが存在するという情報がある。

 

この4トン分の重量追加は確実に装甲追加分の重さであるが、その追加される装甲も、側面だけではなく、上面や底面の装甲の存在もうわさされている。

 

現段階で最大重量バージョンがどのような姿なのかは不明であり、そもそも48トンバージョンが外見の変化があるのかどうかもわかっていない。

 

 

今後の情報に注意しつつ、10式の装甲についてさらなる情報がないか、今後も追及していきたい。