先月は三回にわたり平成を振り返ったが、ジャージもこの30年で大分様変わりした。平成になった頃は路地裏も物心がついて、同級生のジャージに魅せられて今に至る。皆、ほとんど中学校に入ると学校指定のジャージに袖を通すと思う。だからジャージは国民服と言っても過言ではなかろうか。今日は平成元年から31年まで、ジャージの移り変わりを振り返りたい。

0.平成ジャージ史の前史 昭和レトロなジャージ

昭和の後期のジャージはこんな感じだ。

今から40年近く前の金八先生の1シーンだ。ジャージの襟が長く、全閉してロールアップしているのが印象的だ。

この時代のジャージの特徴はジャケットは長い襟、裾がすぼまっているタイプ。ボトムはストレートパンツだが、足をひっかけるバンドが標準装備だ。このタイプのえんじ色、緑色、青色のボディに三本ラインはアディダスのものだ。いわゆる芋ジャーである。

昭和60年代に入ると、ジャケットの襟は短くなった。この写真は豚ミントンという玩具のパッケージだ。CMでは家族4人が皆ジャージを着て真剣勝負しているのを覚えている。


昭和63年の金八先生でも女子生徒が着ているのは襟が短いアディダスのジャージだ。路地裏の周りにいたスポーツクラブをやっていた子達はこんなジャージを着ていた。小学校の林間学校でも、みんなこんなジャージを着ていた。


1.90年頃〜 少し垢抜けたデザイン

90年に入ると結構流行ったのが、このジャージだ。

スーパースターのU-1というモデルだ。短い襟と、すぼまったボトムはスーツのようでかっこいい。SSの刺繍も当時は斬新だ。よく体育教師がこのモデルを着ていた気がする。路地裏の中高の日体大出の体育教師もこれを着ていた。

2.93年 Jリーグ開幕 ジャージも着る者を選ぶ時代に

93年にJリーグが開幕し、ジャージもよりサッカーをイメージさせるデザインになった。


トリコロールカラーが、それまでのジャージと一線を画している。襟の内側もロゴが入った凝ったデザインも現れた。今、この上下を着て外出する勇気はないが、当時は圧倒的にカッコよかった。このジャージを見るとサッカーを連想する人も多いだろう。スリムなデザインは着る者を選ぶ。決して運動音痴や腹が出てるおっさんが着てはならない。今で言う、スクースカーストの頂点にいる者が様になる。ちびまる子ちゃんで言えば、大野君と杉山君みたいなものだ。路地裏の小学校の同級生もサッカーが得意でモテていた二人がこのジャージを年中、それこそ真冬でも着ていてカッコ良かった。そのうち1人は中学を出て鳶職に、もう一人はfラン大学を出て不動産会社で営業担当になった。10年前の同窓会では、鳶職は来ず、もう一人の不動産屋は出席していたが、少し頭頂部が寂しくなっていた。時代は残酷だなと思った。閑話休題。90年代のジャージと言えばこのモデルを指すことが多い。着るものを選ぶようになったジャージだが、また新しい流れが起きるのである。

3.95年頃のナイキの台頭

さて、ジャージがスポーツマン御用達のウェアから、また万人に愛されるようになるのは98年頃だが、その伏線は95年頃のナイキの台頭にあったと路地裏は考える。95年のエアマックス95の大流行、96年には薄手のカジュアルなウインドブレーカーをリリースしてこちらもヒットした。ナイキがスポーツウェアをうまくトレンドアイテムに乗せたことで、王者アディダスが焦りを感じたのではないか、そしてアディダスは98年に新しいモデルのジャージをリリースする。

4.98年〜 アディダスのシャカパンが大ブレイク

98年にはアディダスがこれまでのデザインとはかけ離れたジャージを送り出した。ナイロン生地のパンツはその衣擦れの音からシャカパンと言われた。

この頃、アディダスのロゴはおなじみの三つ葉マークから、三角形に三本ラインを抜いたようなマークに変わり始めた。このシャカパン、80年代の芋ジャーを彷彿とさせるデザインだが、素材感と、ストレートタイプのパンツにリニューアルし、ナイキが作ったスポーツカジュアルの流れをうまく利用したのではないかと思う。

ジャケットも裾がすぼまったタイプではなく、ストンとしたいわゆるボックスタイプである。リブ編みを排して代わりに紐を通して調整するタイプとなっている。以後、どのメーカーのジャージもこのタイプになってしまった。

綾瀬はるかも干物女として、このタイプのジャージをはいている。見てもわかるように、90年代前半のトリコロールカラーのジャージに比べゆったりしており、スポーツをやらなきゃという気負いがなくても気軽に着れるのだ。路地裏の大学のサークルでは、このタイプのジャージを皆こぞって履いていた。5人いたら4人は黒に白ラインのジャージを、一人はネイビーに白ラインをはいている、という具合だ。電車の中でも普段着感覚で着る人もよくいた。

このデザインを模倣したタイプのジャージ、特にKarl Kaniや、CRUなどアメリカのスポーツブランドや、ストリート系ブランドが日本に上陸し、ヒップホップ系やヤンキー達にウケた。

流行りも度がすぎると途端にダサいと言われるが、このジャージも例外ではなかった。一気に大衆化したジャージの流行も下火になり、04年頃には特に流行に敏感なヤンキー層は、スウェットを好んで着るようになった。

冬はこの上に中綿ジャンパーという、ダウンジャケットもどきのテカテカしたジャンパーを着るギャル、ギャル男をよく見たものだ。

5.2007年〜 JC、JKの活動服、プージャーが大流行

07年からプーマのジャージ、以下、プージャが女子中高生の間でヒットした。こんな具合だ。

バックプリントはデカデカとキャットロゴがプリントされているが、PUMAのロゴが無くなってから、ヤンキー臭が薄まり、たちまち女子中高生の心をつかんだようだ。特にネイビー×ピンク、ネイビー×オレンジは人気だった。カラバリも豊富で、ませた子は中学の入学祝いに親にねだるようだ。上下で1万7,000円もするジャージは贅沢品だが、周りに差をつけたい年頃の中高生の物欲に火をつけたのだろう。何時しか制服と言われるくらい、かぶりまくるアイテムになったので、豊富なカラバリで差別化というニーズに応え、稀に見るベストセラーになったのだろう。通販サイトでも、人気カラーは売り切れで、メーカー取り寄せが当たり前だった。シャドーストライプの生地は以前流行ったアディダスのシャカパンにはない洒落た生地だ。
実はこのモデルは2007年よりも前にリリースされている。いろんな人の証言をつなぎ合わせると1997年頃にはあったようだ。

部活でプージャを採用する学校は多かった。このモデルはジャケットはリブがついたホッピングタイプだ。

長い襟、長い袖のリブ編み、路地裏、そしてシャドーストライプの生地、ジャージの良いところを盛り込んだこのプージャは、ジャージの純文学だと言いたい。残念ながら、このプージャは平成30年12月をもって、生産終了となった。

6.2013年頃〜 スポーツの都会化、MOVE SPORTの衝撃

プージャは、カジュアル路線のジャージを再度サッカーよりにデザインを変えて爆発的にヒットしたが、田舎のヤンキーが着る服という悪いイメージがついてしまった。時に、東京マラソンなどの市民マラソンが注目され、皇居ランに見られるスポーツの都会化が生じた。そしてジャージはもっと健康的で洗練したデザインがもてはやされた。ジャージらしくないウェアが受け入れられたのだ。

デサントのMOVE SPORTはジャケットの前面にロゴとメッセージがプリントされている。これがインパクトがありながら、プージャのバックプリントのような下品さ?がないのがウケた。

球技だけでなく、ランやバイクウェアとしても違和感がない爽やかなデザインだ。こんなタイプのデザインのジャージが流行ったのは、フィギアスケート選手のウェアの影もあるのでは、と考えてしまう。

なんのことはないスポンサーロゴベタベタのジャージだが、それをブランドロゴとメッセージに変えることで見事な爽やかウェアになってしまったと言える。この時代のジャージはスポーツの都会化というテーマを反映したのではないか。

7.2016年〜 シャカパンの復権

MOVE SPORTのジャージはスポーツをする人向けのジャージだ。ではおしゃれな人が着こなすジャージは別のタイプのデザインがあってしかるべきではないか。約20年ぶりにアディダスがまたシャカパンに似たジャージパンツをリリースした。


シャカパンとことなるのはピタっとしていてまるでタイツのようなデザインだ。しかしスポーツシーンやガジュアルな着こなしにも十分合わせられるおしゃれアイテムになった。

ジャージのジャケットにスカートを合わせると、一昔前は古着好きな裏原系なんて見られていたが、いまは、これにブランド物のバッグや、ジャージパンツにチェスターコートと合わせても違和感がないくらい、高度化した気がする。20年前のシャカパンブームは、ジャージが寝間着、部屋着となり、埋もれてしまったが、このアディダスのジャージはファッションアイテムに昇華することでいろんなコーデの可能性を秘めたものになったと言ったら言い過ぎであろうか。単に20年前のブームの復活ではなく、洗練されたイメージをもって現れたと路地裏は思う。さすがジャージ界の横綱アディダスと感服してしまう。プージャと異なり、中高生だけでなく大人も十分着れるので、懐の深いアイテムと思うが、実は他のアイテムとのコーデを失敗すると途端にダサくなるので、実は着る人を選ぶジャージなのだ。そういう意味ではこのアイテムはJリーグ開幕で流行ったトリコロールサッカージャージに似通うところがある。

8.令和のジャージはどうなるか

ジャージも衣服である以上、文化、流行、ライフスタイルの変化と無縁ではいられない。その時代に応じてデザインは変わる。昭和も含めると約40年のジャージ史を学んだが、デザインも目まぐるしく変化したと感じた方も多いのではないか。

アディダスの最新モデルだが、これをみて、ジャージは今後どのような進化を遂げるか想像がつかない。それは、ポリエステルというジャージの素材の汎用性、可能性と将来のライフスタイルの多様性を鑑みると当然だろう。ただ、いい物は時代を超えてその良さはそのままにある。最後になるが、あなたはジャージは好きだろうか。お気に入りのジャージはこの中にあっただろうか。