平成24年に月刊誌『食生活』の私の連載で、書いた記事を掲載します。

平成24年5月に皆既日食がありましたが、そのことについて述べています。



以下、記事。




なぜ日食を見てはいけないのか
(14文字、72行)

 今年の五月二十一日は、日本列島の広い範囲で金環日食が見られる。東京で金環日食を見られるのは一七三年振りとなる。

 現代では日食を見たいと思うのは自然な発想だが、伝統的な日本の感覚によれば、日食は決して見てはいけないものとされてきた。

 それは、日食は穢(けが)れと考えらえてきたからである。特に宮中では顕著で、幕末の天皇である孝明天皇の公式記録『孝明天皇紀』には、度々日食の記事があり、日食の日、宮中祭祀は中止され、公卿の参朝が停止されたことが分かる。日食を見ることで穢れが降りかかるため、わざわざ日食を観察しに遠方まで出かけることは、昔の人から見れば「狂気の沙汰」ということになろう。

 第八十四代の順(じゅん)徳(とく)天皇が、天皇のあるべき作法をはじめ、宮中の儀式・祭祀・行事・政務などについて記した『禁(きん)秘(ぴ)抄(しょう)』には興味深い記事がある。そこには「日月蝕(しょく)」という項目があり、日食と月食の日、天皇は特に重く慎まなければならず、御(み)簾(す)を下げ、その光を天皇に当ててはいけないと書かれている。

 しかも、日月食の光に当らないように、天皇の御所も蓆(むしろ)でつつみ隠したというのだ。大きな建物を席で包むのは、想像しただけでも大変な作業である。そして、日月食の日、宮中では歌舞音曲が停止され、僧侶が御修法を奉仕し、御殿では読経が行われた。また、その日が雨などによって日月食が遮られた時には、読経などを終え、その蓆を取り除くこととされていた。

 ではなぜ日食は忌み嫌われたのだろうか。『禁秘抄』にはその理由は書かれていないが、およそ次のような理由だと思われる。陰陽道には、天体の運行によって吉凶を判断する考え方がある。天皇が穢れれば、日本全体に穢れがかかると信じられていたため、特に天皇と関係の深い天体に異変が起きることを畏れた。

   たとえば、彗星は妖星として忌み嫌われる存在で、彗星の出現は国家動乱の前兆とされていたが、その中でも、天帝のいる場所とされる紫微垣(北極星周辺)に彗星の尾がかかることは特に不吉とされた。

 それと同じように、太陽は皇祖神であられる天照大御神を象徴する天体であるため、太陽が月によって覆い隠される日食は、太陽が侵される一種の天変地異であり、不吉なものとして忌み嫌われてきたのである。

 平成二十一年に日本で皆既日食が見られたが、その直後に解散総選挙があり、政権が交代した。今年は何が起きるだろうか。


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でも、、、月食を見てしまうと運勢が落ちます。

月食を見てしまった人へ。

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