大ケガ・亀田狂騒曲vs坂田健史・人はこんなに頑張れる! | BOXING MASTER first 2006-2023

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輪島功一選手の試合に感動、16歳でプロボクサーを志し、ボクシング一筋45年。ボクシングマスター金元孝男が、最新情報から想い出の名勝負、名選手の軌跡、業界の歴史を伝える。

5年前の今日6月4日。プロボクサー坂田健史(協栄)選手は、デビュー6年目にして初めて世界タイトルに挑戦した。試合は、先輩の元世界王者・佐藤 修 選手の2階級制覇を賭けたフェザー級王座挑戦とのダブルタイトルマッチ。

坂田選手が挑む相手は、WBA世界フライ級王者ロレンソ・パーラ(ベネズエラ)。無敗の王者エリック・モレル(プエルトリコ・現WBO世界バンタム級1位)を破り王座に君臨していたパーラ。


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「あれ、いっちゃてるよ。よくやるなァ」

有明コロシアムの裏通路。JBC関係者の声が耳に入る。パーラvs坂田戦は進行している。しかし、私にはWBA世界フェザー級王者クリス・ジョン(インドネシア)のバンテージ巻きに立ち会うという任務があった。一体、どうなっているんだろうか。

「アゴが折れた!」

「アゴ、折れた?」

最初、歯が折れたと思ったという大竹マネジャー。だが、彼の口はもうしまらない。正直、迷った。もう一度同じパンチを貰ったら、タオルを投げよう。そう決意しながらのコーナーワークが続く。彼は、まだ勝とうとしていた。

「普通なら気絶してるよ」

坂田選手のアゴを手術した元プロライセンサー高橋伸一郎医師は言った。痛みに耐えるばかりでなく、彼はチャンピオンを攻めた。絶望的状況の中、夢をあきらめなかった。挑戦者は最後まで前に出て試合は終了した。


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「よくやったねェ~」

「先生、勝ちましたよね?」

しかし、結果は無情にも0-2判定負け。

「おかしいよ。坂田が勝っただろう!」




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控え室に引き上げてきた挑戦者は、口が閉まらない。口からは血が滴り落ちる。それでも、しっかり記者の質問に答えた敗者。時は刻まれる。会場では次のWBA世界フェザー級タイトルマッチが始まった。気丈にも、モニターに映る先輩を応援する敗者。控え室の扉はジム関係者が立ち、何人たりとも入れてはいけないと言う。

「外にいるのは坂田の家族だから入れてやりなよ。もう、誰も来ないよ」

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二箇所に渡るアゴの亀裂骨折。2度に渡る手術。ジムには復帰したが、アゴを打たれる恐怖は付いて回る。ようやく、再起へ向けスパーリング開始。

「今、キッと音がしました」

神経質にならざるを得ない。まだ治っていないのでは。不安との戦い。そんな中漕ぎ着けた10ヵ月後の再起戦。タイ選手は、初回あっけなく倒れた。

「アッ、まだ早い」

大竹マネジャーが咄嗟に叫ぶ。彼のアゴを、いや、ボクシングをもっと見極める時間がほしかった。パーラへの2度目のチャレンジが計画される。世界チャンピオンにするには、今、何が必要か?

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大竹マネジャーが2度目の世界王座挑戦の前哨戦相手として選んだのは、日本軽量級を代表するハードヒッター児玉卓郎(岐阜ヨコゼキ・現日本バンタム級2位)選手。右一発の威力は、ファンの皆さんはご存知だろう、しかも、無類のタフネスを誇る。Sフライ級オーバーの契約ウェート。

これはパーラの強い右を想定してのマッチメーキング。打たれる事の恐怖、打たれたくない心は、実戦でどう表れるのか。見極める必要があった。「洒落にならないパンチ」を交わし続け、坂田選手は2度目のチャンスに漕ぎ着けた。しかし、またしても惜敗。

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亀田兄弟が協栄ジム入りし、興毅選手はOPBF王座を獲得していた。サマン→ワンミンチョークは大竹マネジャーが決めた路線である。ベルト獲得で、協栄ジムには亀田狂騒曲が始まり出した。人気者に人の心はなびく。均衡は崩れた。

「あれじゃ、坂田さんがかわいそうで・・・」

3度目はパリのリング。これも惜敗。リングサイドの元世界ミドル級王者マービン・ハグラー氏は、「坂田の勝ち」と断言。会場を埋めたパナマ人留学生達は、リングを降りた敗者を惜しみない拍手で迎えた。



「ごめん」

観客席の夫人に向かい、手をあわせ、頭を下げた。もうチャンスはないだろう。3度目の惜敗に、心が折れかけた。大竹マネジャーに涙を見せた敗者。

「ベルト巻きたかったス」

だが、金平会長の強引な言葉もあり、かろうじて心をつなぎ止める。そして、金平会長は約束通り4度目のチャンスを作った。やっと運が坂田選手に回り始めた。やっと彼に世界のべルトがやって来た。坂田選手の涙に、涙で応えてくれた後楽園ホールのファンの皆様。


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「富樫さん(リングアナウンサー)泣いてましたよねェ」(~~)

「泣いてない。泣いてないですよ~」(~~)

昨年大晦日。挑戦者デンカオセーン・クラティンデーンジム(タイ)の強烈な右パンチが、チャンピオン坂田選手の後頭部を襲った。あのパーラの右をあのタイミングでアゴに貰い、骨折しようともダウンしなかった坂田選手である。信じがたい光景。ベルトは彼の手を離れた。

「神様はお前に意地悪するのぅ~」(~~)

「さんちゃん、広島でよっぽど悪い事してたんじゃないの」(~~)

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夢をあきらめない。戦う姿勢でファンの心を掴んできた坂田選手に派手さはない。続ける事で味が出る熟成タイプというのがあっているだろうか。

「あの姿見たら、自分も迷えない。今でもビデオ見るんです」

坂田vsパーラ戦を観て、大きく感動したと言ったプロ競輪選手永田年明氏は、再起不能といわれた大ケガを克服し、バンクに戻られた人である。坂田選手の頑張りが大きなビタミンになったのだ。

”世界一へ一心”。

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6月14日(日)。彼のチャレンジは再び始まる。5年間、世界の最前線でボクシングをやって来た味が出るのはこれからです。今でも、基本練習のくり返しが出来る彼だから。ご声援、よろしくお願い申し上げます。

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